かつての男子高で逆ハーレムを狙ってみたのにっ!?
男子高が共学になる。そして、どうやら女子が入学する気配がないらしいぞ。
そんな噂を聞いたのは、私が進学先を探している最中のことだった。
どんな高校に進むのか、特に将来の夢なんてものは持ち合わせていなかったから、ここだと言う決め手はなかった。高校に入学してから、決めればいいかなってくらいに。
でも、そんな噂を聞いてしまったのなら、私のハッピー思考回路は刺激され尽くしてしまったようで。
「これは、逆ハーレムチャンスではっ!?」
周りにいるのは男子ばかり。そこに一人だけの女子つまりは私。イコールチヤホヤ。キタコレ。
何を隠そうこの私、常日頃から付き合いのある男子達に、「接しやすいわー」「女子といる感じがしない」「まさに兄弟」「今度一緒にナンパいかね?」などと、女子としてのプライドが崩壊するんじゃないかと思うほどの言葉をかけられる始末。
そんな私が、女子として輝けるかもしれないのだ!
高校生活が楽しみになってきたぞー。と、あまり学力に自信のない私は、頑張って勉強をして、何とかその高校へ入学することができたのである。
***
「え、なんでこうなったの?」
結果、今年度この高校に入学した生徒は九十人。そのなかの女子生徒は――、八十九人だった。
がっかりと項垂れる。このクラスには三十人がいる。隣は女子だ。窓際の一番後ろに男子はいるけど……。
金髪ロン毛を後ろで纏めて、耳にはゴツいピアス。胸元までガッツリと開いたシャツの下には、ドクロがデザインされた黒いTシャツ。ウォレットチェーンがめっちゃシルバー。
怖い。うっすら黒い色のついた、小さな丸いサングラスをかけているのがより怖い。怪しいアジア系マフィアかよ。
「はい、入学式お疲れ様。これからホームルームをはーじめーるよー」
軽やかに言葉を操る教師が、教室に入ってくる。入学式、そう、今日は入学式があって、これからホームルームがあるのだ。
あまりの女子率に絶望して、茫然して、何をしていたのか全く記憶がない。私は、流されてここまでやってきた。
「私はこのクラスの担任となる、アメジスです。ま、ご覧の通り人間ではありませんね」
……え?
「ね、ねぇ、あの先生、角が生えているんだけど」
思わず隣に座る女子生徒に話し掛ける。
「うん、異世界の人みたいだね。まぁ、この学校は異世界と契約して、戦士を育てる学校に生まれ変わったらしいから。今回入学したのも、魔力の素質が見つかった人達らしいよ」
……逆ハーレムに浮かれて、全く情報を集めずに入学してしまったよっ!? というか、入学したってことは私も魔力の素質があるってことっ!?
「皆さんには入学試験を受けてもらったと思いますが、あの時ペンを支給しましたよね? そのペン、実は魔力の素質がないと文字が書けないんですよー。あの時書けないと言った生徒には別のペンを貸し出しましたが、しっかり落としています」
……あれ、私、その時めっちゃインクが溢れて大変なことになったのだが?
「その時、異常な反応を示した竜ヶ岩さん」
「は、はい」
名前を呼ばれてしまった。
「これから皆さんには魔力の測定を受けてもらうのですが、あなたはより顕著な反応が見られそうなので、一番最初に受けてもらいます」
そりゃ、この席順は名字順だったから、前から順番に行ったとしたら、私ほぼほぼ最後の方だ。後ろにはあと、和久田さんしかいないから。
こちらに来て、と手招きをされて、私は教壇の前まで歩いていく。その上に、指揮棒のようなものが置かれていた。
「これを握って意識を集中すると、秘めた魔力の量に応じた反応を示します。さ、やってみて」
「拒否権は?」
「デッドオア、ダイ」
笑顔がめっちゃ怖かった。
大人しく棒を握ったものの、どこを持てばいいのかも分からずに、見た目通りに指揮をするように振ってみる。
今のところ、何の反応も見られない。
「目を閉じて、呼吸を整えて」
優しい声に、私は大人しく言う通りにした。
目を閉じ、意識して呼吸を整える。光のない世界にいるような感覚。私の中の何かが、引っ張られているような感触がある。
それは、なんだか怖かった。それが外に出ていくのが、なんだか怖かった。
「杖を上に掲げて」
言われた通りにする。
「大丈夫。耐えなくても大丈夫。身を任せてくれて大丈夫」
これを出していいのだろうか。いいのだろう。だって、この人は言ったのだから。だから私は――。
頭上で、強烈な熱を感じた。
慌てて目を開けると――。
「……え、本当に大丈夫だったの?」
「……駄目だったかも」
天井に大穴が空いていた。
***
それから私の生活は一変して、家元を離れて担任教師であるアメジスの下で暮らしている。
万が一、魔力が暴走した時の対処をしなくてはならないらしい。
「ふぁあ、おはよう」
「はい、おはよう。トースト、焼けるよ」
寝間着のまま部屋から出て、一階のリビングへ。なかなかマメな人物らしく、朝食の準備はしっかりと整っている。
トーストにスクランブルエッグ、ウインナーが二本とミニトマトが二つ。
「あれから三日、か。びっくりするほど普通の生活なんだけど」
まだ落ちてこようとするまぶたを擦りながら、私はあくび混じりにそう言った。
「これから魔法の授業が始まるからねぇ。ここまでは普通の高校生活と一緒だったんじゃないかな」
「異世界の人が普通を語るの?」
「今はこの世界の住人だからねぇ。魔王の変な魔法で世界が繋がって、出入り口を奪って、それを利用して。なんて、こっちの普通を話したってつまらないでしょ?」
「戦士になるなら知っておきたいけどねぇ」
「ま、それはおいおい」
修学旅行は異世界になりそうな予感。
というか、ハチャメチャな世界なのは予想がついている。なんせ、一夜にして学校に空いた大穴が消えたのだから。
私の教室が最上階にあったのが、最大の幸運なのだろう。
「あなたは特に、大事に育てたいからねぇ。たぶん、ちゃんと育てれば魔王もワンパンよ、ワンパン。あー、泣いて命乞いをする魔王の姿が目に浮かぶわぁ」
「それ、私が魔王みたいなんだけど」
「あなたが魔王になるのなら、私は一生付いていくよ」
それで良いのか教師さん。
「でも、今日からの授業は贔屓しないからね」
「えー、優しくしてよー。この家も壊しちゃぞー」
「そんなことしたら、この世界から追い出されるよ?」
……あれ、私って結構危うい立場?
「むー。……そんなことよりご飯はある? 味付け海苔もあると嬉しい」
「まだ食べるのっ!?」
食欲で紛れる程度の不安を他所に、学校は始まり、授業は淡々と進んでいく。
数字の呪文に眠気を誘われ、教科書に載っているという冤罪符で小説を楽しみ、外国の言葉で再び眠気に誘われる。
そしてお昼ご飯の前という、地獄とも言える時間に魔法の授業がやってきた。
「はい、みんな授業をはーじめーるよー。という前に、お腹が空いて力が出ないという人は、私の話を聞きながらお弁当を食べておいてね。魔力は使い慣れていないと、バテちゃうから。力が出ないと上手く行かないし、後で食べる気力もなくなるかも?」
親切なのか脅しなのか。隣の生徒は、コンビニで買ったのだろうパンを食べ始めた。
「え、パンで足りるの?」
「え、結構大きなパンですよ」
確かに、大きなメロンパン。チョコチップが美味しそう。
「でも、パンを食べるとお腹が空くよね」
「え?」
私だけだったらしい。
「じゃあ、私もサンドイッチを食べておこっかな」
「いや、パン食べるんかーい」
「おにぎりもあるよ」
「わんぱくかーい」
「ちなみにツナマヨ」
「サンドイッチと同じ具かーい」
この子の突っ込み、緩くて面白い。
「それでははじめまーす。魔法というのは魔力変換器を搭載した魔導具に魔力を通すことで発現する力です。入学式のあとにやってもらったものには、光を灯す機能がありました」
私はそれでビームを出したのか。
「というわけで説明はもう終わりなのですが、これからグラウンドへ行って体験してもらう予定です。早弁組はもう食べ終わりましたか? 途中の人はあとで食べてください」
違う意味の早弁だった。
慌ててサンドイッチを口に押し込み、教室を出ていく列に並ぶ。制服のままだけど、着替えたりはしないのだろうか。
「体操服に着替えたりしないのかな?」
何気なく話しかけた人は、唯一の男子だった。
「知らねーよ」
反応が怖い。
「声が怖いよ? お腹空いてるの?」
「もともとこんな声だよ。悪いか?」
「悪くないけど、ビデオシネマに出てきそう」
「……え、なんでアルファベットで言わねーの?」
「突っ込みを入れる人は優しい説を実証中」
「……ちっ」
顔も声も怖いけれど、悪い人ではなさそうな気がする。
「ねぇ、なんでこの高校に入ったの? 不良が来るような学校ではないと思うけど。あ、異世界目当て?」
反応は返ってこない。無視を決め込むつもりのようだ。
「あー、数少ない女の子を狙って、手籠めにするつもりだったんでしょー」
結構頑固なようだ。
「お主も悪よのー」
「いつの時代の人間だよっ!」
私の勝ちだねー、とニヤついてみれば、悔しそうに顔を歪めている。
「はぁ。……お前、よく話しかけられるよな。こんな奴に」
「私も人は見かけで判断しちゃうタイプだけど、そもそもこの学校って結構偏差値高かったし。悪い人は入らないかなって」
おそらく、そこも最初の篩、だったのだろう。魔法を悪用するような人が入ってこないように。
「……只の馬鹿じゃないんだな」
「え、馬鹿だと思われてたの?」
「校舎を破壊するやつは馬鹿だろ」
それは不可抗力では? いや、テストがあれば実証されてしまうのだろうけど。
そんな話をしていると、場所はグラウンドに切り替わっている。苗字の順番で整列させられれば、戦闘から順に魔法の試射。
弓のようなものを持って、魔法の矢を放っているらしい。
人によって、放たれる矢の色が異なっているのが面白い。赤だったり、青だったり。様々な矢が的に当たって、景色に溶けるように消えていく。
「……グラウンドに的があることを、なんで誰も突っ込まないんだろう」
「みんな適応しているんでしょ」
気が付けば、目の前にアメジス。いつの間にか順番が回ってきたらしい。
「あなたはちょっと、上空に向けて撃ってみましょうか」
「えー、私も的に射たい」
「駄目。街が被害を被りそうだから」
「射たい射たい射たい射たい射たい射たい射たい射たい射たい射たい射たいっ!」
「私が悪さをしているみたいに聞こえるからやめてっ!?」
言葉って難しい。
「判った。うん、それなら、力を最大限にコントロール出来るように努めてね? その方法は教えるから」
「どうすればいいの?」
「先ず、脱力します」
「立っていられないよー」
「そこまでしなくてもいいですっ!」
いっそのこと、座ったままで弓を構えられないだろうか。試してみるけれど、先端が地面についてしまって、的を狙いにくかった。
「大人しく立って。で、脱力をしたら、お腹に力を入れる」
「出ちゃいそう」
「女の子がそんな事を言うんじゃありませんっ!」
こんなことならサンドイッチを食べるんじゃなかった。そう思いながらも、大人しくお腹に力を入れるように努める。
すると、なんだかお腹の辺りが温まってきたように思う。
「一度魔力というものを認識すると、ある程度意識的に操れるようになるのよ。今は、お腹の辺りに魔力を留めているような感じね。それを、ちょっとづつ手の方へ移して……」
言われた通りに魔力を移動させると――。
「やっぱ駄目だ。そのちょっとがケタ違いにデカい」
「えー」
試しに上空へ向けて射出すれば、謎のゴン太ビームが飛び出す始末。
「……はい、それでは皆さんには、魔力のコントロールする術を身に着けてもらいます。今言ったように、脱力してみてくださーい」
アメジス的には、なかったことにしておきたいらしい。それに従うように、私も列に戻って脱力をする。再びお腹に力を入れて、魔力が留まっているのをしっかりと感じた。
「次は、魔力を剣のように留める魔導具を使います。近接戦闘によく使われるものなので、今後皆さんには、剣術の授業を受けてもらうことになると思います」
チャンバラみたいで楽しそうだなぁ、と。私は華麗に剣を振るってモンスターを倒す姿を想像しつつ、徐々に進む列に従っていく。
そうして、私の番。
「一応、切っ先になる部分は天に向けておいてね」
「えー。でも、これは剣のようになるんですよね? そこまで心配する必要はないんじゃないの?」
「念のためよ。さ、魔力を通してみて」
剣を作るだけなんだから、そんな心配しなくても――。
「……」
「誰がビームを出せと言った?」
どうやら、私の魔力はビームになりたがっているらしい。
***
「はぁ。今日も疲れたなぁ」
実際には、今日は、だけど。
一日も終わり、潤いのお風呂の時間。入浴剤が身体に染み込んで、身も心もほぐしていくような、そんな癒しを感じる時間であった。
つい昨日まではシャワーで充分。そう思っていたのに、今日は何だか疲れてしまって。この入浴が心地よい。
「湯加減はどう?」
扉の向こうから、アメジスの声が聞こえる。
「最高ですー」
「魔力を消費すると、身体も疲労を感じるし筋肉も凝り固まるし、よーく解しておくといいよ」
「はーい」
それほどない筋肉でも、凝り固まるのかなー。そう疑問に思いながら、それほど贅肉のついていないお腹をさする。
「先生から見て、さー」
「うん?」
「私は大丈夫そう?」
それには、どんな意味を込めたのだろうか。自分では、何気ない疑問だったと思う。
「うーん、保証は出来ないけど――」
その言葉の続きを待つ。
「自分から色んな人に話しかけようとするあなたは、大丈夫だと思うよ」
その答えが、私の望んだものだったかどうか。それは今後の学校生活で解ることだろう。
はじめはちょっとした欲から選択で、ちょっと後悔もしたけれど。なんだかんだ此処は居心地が良く。なんだか、ほっと息を吐きたくなって。
「リラックス、出来てるなぁ」
「あ、そうだ。親御さんからの連絡。海外へ転勤になったから、家を空けるって。急なことで悪いけど、戸締まりしていったそうよ。転勤先の住所のメモ、あなたの部屋に置いておくね」
「……」
私、家の鍵を持ってきたっけ? ヤバい、全然リラックスできなくなった。衣替えの服とか、まだ持ってきていないんですけどーっ!?




