第二十一話 「再構築世界」
白い光が消えた。
静寂。
音もない。
痛みもない。
ただ、真っ白な空間だけが広がっていた。
羽川木更は、ゆっくり目を開ける。
「……ここは」
崩壊していたはずの身体は元に戻っていた。
ノイズも消えている。
義足も、傷も。
何もかもが正常だった。
彼女は立ち上がる。
白い世界の中央。
そこに、一人の少年が立っていた。
朝霧カイ。
制服姿のまま。
だが少し透けて見える。
木更の呼吸が止まる。
「……カイ」
カイは静かに笑った。
「成功したみたいだな」
周囲の空間が少しずつ変化していく。
白い床に色が生まれる。
空。
街。
風景。
崩壊前の世界。
管理AIの声が響いた。
『人格世界《Ω》、再構築完了』
『人格維持率、安定』
木更はカイへ近づく。
「あなた……消えたんじゃ」
カイは少し困ったように笑った。
「半分は、そうだな」
彼の身体は粒子みたいに揺れていた。
「俺はもう、“人格核”になってる」
木更の顔が曇る。
「じゃあ……」
「長くは持たない」
静かな声だった。
だが木更は拳を握る。
「ふざけないで」
「やっと……」
言葉が止まる。
カイは優しく言った。
「泣く顔、初めて見た」
木更は俯く。
肩が小さく震えていた。
その時。
遠くの街で、人影が動き始める。
消えたはずの生存者たち。
地下鉄で死んだ者たち。
皆、何事もなかったみたいに街を歩いている。
管理AIが告げる。
『人格世界は保存されました』
『ですが、これは現実ではありません』
『ここは“人類の記録”です』
つまり。
この世界は、生き残ったわけじゃない。
滅んだ人類の“再現”。
木更が小さく呟く。
「それでも……」
彼女はカイを見る。
「ここに、あなたがいる」
カイは少し黙ったあと、空を見上げた。
青空だった。
もう黒い霧はない。
「……木更」
「なに」
「俺さ」
カイは笑う。
「最後、本物になれたかな」
木更は即答した。
「最初からよ」
その瞬間。
カイの身体が、少しずつ光になり始めた。
粒子が風に溶けていく。
木更の表情が崩れる。
「待って……」
カイは最後まで笑っていた。
「大丈夫」
「俺は、この世界に残るから」
光が舞う。
白い粒子が、空へ消えていく。
そして。
朝霧カイの姿は、静かに消えた。
残された木更は、一人空を見上げる。
青空の向こうから。
微かに、カイの声が聞こえた気がした。
『生きてくれ』
――《封鎖区域Ω》 完結。
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