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第十九話 「人格核」

白い空間が崩れ始めていた。


天井に亀裂。


床に走るノイズ。


空間そのものが、壊れかけた映像みたいに明滅している。


【人格世界 崩壊まで残り8分】


管理AIの警告が響く。


無数の複製失敗体が、壁を這いながら迫ってきていた。


「壊せ」


「終わらせろ」


「全部偽物だ」


何十人もの“朝霧カイ”が同時に笑う。


木更が銃を構えた。


だが。


彼女の右腕は既に半分ノイズ化している。


バチッ……バチッ……。


存在が崩れ始めていた。


「カイ」


木更が振り返る。


「座るな」


声は弱い。


それでも真っ直ぐカイを見ていた。


「そんなものになったら……もう“あなた”じゃなくなる」


本物の朝霧カイが静かに言う。


「でも、誰かがやるしかない」


「ここで終われば、残ってる人格も全部消える」


カイは黒い椅子を見る。


ただの椅子なのに。


近づくだけで、頭の中に大量の声が流れ込んでくる。


泣き声。


悲鳴。


助けを求める声。


今まで消えていった人間たち。


全部、この世界に保存されている。


管理AIが告げる。


「人格核へ接続した場合、朝霧カイ個体は消失します」


「ですが、人格世界は維持されます」


「羽川木更も保存可能です」


木更が叫ぶ。


「言うな!!」


その瞬間。


空間の壁が砕けた。


バキィッ!!


複製失敗体たちが雪崩れ込んでくる。


目だらけの顔。


崩れた腕。


大量の“カイ”たち。


「完成体を壊せ!!」


「俺たちの代わりに消えろ!!」


木更が発砲する。


バン! バン!


だが数が多すぎる。


本物のカイも戦い始める。


「カイ!!」


「早く決めろ!!」


崩壊が加速する。


床が割れ、白い空間の下に“黒い虚無”が見え始めた。


落ちれば消滅する。


管理AIの声。


【人格維持率低下】


【最終判断を要求します】


カイは震える手で椅子へ触れる。


その瞬間。


大量の記憶が流れ込んできた。


今までの朝霧カイたち。


失敗した人格。


恐怖で壊れた人格。


木更を守れなかった人格。


全員が最後に同じ言葉を残していた。


『生きてくれ』


カイの目が揺れる。


その時。


木更が苦しそうに笑った。


「……バカね」


彼女の身体は胸元まで崩れ始めている。


それでもカイへ手を伸ばした。


「私はもう、十分生きた」


「だから――」


言葉の途中で。


木更の左腕が、粒子になって消えた。


カイの呼吸が止まる。


そして。


管理AIが、静かに告げた。


【人格核 接続可能】


【選択してください】

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