表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を滅ぼすために召喚した邪神が可愛すぎて気づいたら嫁にしてた  作者: 枩葉松@書籍発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/22

第11話 邪神の勘

「なあ、スピカ」


 食事を終えて、買った服のお披露目会。

 それもひと通り見せ終え、そろそろ寝ようという話になり支度をしていると、ヴァイス様は難しい顔で声をかけてきた。


「あんた、寝る時に耳栓してるけど……もしかして俺、いびき煩い?」

「あっ! ち、違います! これは、そういうものではなくて……!」


 確かに、理由も話さずにこれは失礼だったかもしれない。

 すぐさま、着けかけた耳栓を外す。


「ひとの願いや祈りを聞くことは、神の最も大切な仕事です。ただそれが邪神となると、聞こえてくるのは怨嗟の声……。あいつを殺せとか、あいつは許せないとか、憎しみや悲しみが昼夜問わず際限なくこの耳に届きます」

「そ、そうなのか。前任の邪神が心を病んだとか言ってたが、そんな状況じゃ頭もおかしくなるよな……」

「……えぇ、まあ。普段は我慢していますが、就寝中は流石にちょっと。ですので、いびきとかではないですよ。就寝中のヴァイス様は、とても静かで愛らしいです」


 安心してくださいと微笑み、耳栓を再度装着しようとした。

 だが、それよりも先にヴァイス様が私の隣に腰を下ろす。


「ど、どうされました?」

「ジッとしてろ。すぐに終わるから」


 そう言って、私の耳に手を添えた。

 何のつもりだろうか。わけがわからないまま固まっていると、


「――――――」


 彼の唇が動いた。

 だが、何を喋っているのかまったく聞こえない。


 ただ耳を手で塞いだだけで、こうはならない。

 頭の中はいまだかつてないほど静かで、少し怖くなる。


「――――よし、これでどうだ?」


 と、急に鼓膜が音を拾った。


「えっ? あの、一体なにを……?」

「耳の中に魔術障壁を張った。ちょっと調節して、特定の音を弾くように設定してある。その願いや祈りってのが耳栓で防げるなら、これでもいけると思うんだが……どうだ?」


 そう尋ねられて、ようやく気づいた。


 ……ない。

 私の頭を駆け回っていた、あの冷たい声がどこにもない。


「俺が生きてる限りは作動しとくようにしてある。これでもう、余計なストレスは溜めなくて済むな」

「……と、とてもありがたいのですが、皆の声を聞くのは私の務めです。せめて就寝中だけにしていただかないと、また何か罰が下るかも……」

「あんたがそれで体調を崩したら、誰が世話をするんだ? 自分でやるってのか?」

「そ、それは……」

「ていうか俺たちは、その、何だ……一応は夫婦なわけ、だし。苦しんでる妻を夫が助けるってのは、世間一般じゃ当然のことじゃないのか」


 恥ずかしそうに後頭部を掻きつつも、その目は真っ直ぐに私を映していた。

 力強く、強固な意志を宿して。


「それで罰とかふざけるな。余計なことしたら天界でもどこでも行って暴れるぞって、あんたの上司に言っといてくれ」


 ぶっきらぼうに言い放ち、自分のベッドへ戻って行く。

 その背中を見つめ、眩しさに目を細める。

 

 ……苦しむ人々を見ていられなくて、たくさん助けてきた。

 それで自分が損をしても我慢すればいいと思っていたし、実際そうしてきた。


 だから……まさか私が誰かに助けられる日が来るなんて、想像もしていなかった。


 手を治してくれた時もそう。

 彼は何だかんだ言いつつも、そっと私に寄り添ってくれる。


 たぶんこれからも私の不幸に怒り、不都合を許さず、何か行動を起こしてくれる。


 そんな気がする。

 そんな安心感がある。


「どうしたんだ、ぼーっとして。寝ないのか?」

「あ、えっと……寄りかかってもいいひとがそばにいるのは、こんなにも心強いんだなぁと、嬉しくなっちゃいまして」


 声は返って来ない。

 しかしその頬は、薄闇の中で僅かに朱を帯びる。


「私、ヴァイス様のお嫁さんでよかったです。これからもよろしくお願いします」

「……っ! ど、どうせそのうち後悔するんだから、俺への期待は程々にしとけよ」


 むず痒そうに言ってベッドに入り、私に背を向けた。

 そんな素直じゃないところが、正直、気に入っている。


「安心してください、後悔なんかしませんよ」

「そんなのわからないだろ」

「わからないけど、わかるんです」

「何だそれ、神の力か?」

「うーん……女の勘、ですね」

「はぁ?」


 ヴァイス様は小さくため息をついて、布団を肩までかぶった。

 さて、私も寝るとしよう。


「おやすみなさい、ヴァイス様」


 数秒待っても返事はなく、仕方がないのでベッドに入った。

 そこでようやく、「……おやすみ」とやや投げやりな口調で挨拶が返って来て、私の鼓膜を揺らす。


 それが嬉しくて、ふふっと笑って、まぶたを閉じた。

 何の雑音もなく、彼の吐息の音だけが聞こえてくる。


 そんな心地のいい夜へと、眠気と共に旅立った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ