表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

児童書全集

じごくへいったゆう

作者: 月尊優

じごくはとてもおそろしいところです。

しかし、上方落語かみがたらくごでは真打しんうちがえんじる一時間以上いちじかんいじょうもかかるたのしいものとなります。

絵本ではたじまゆきひこ作「じこくのそうべえ」が有名ゆうめいです。

わたしが書くと高学年女子向こうがくねんじょしむけになりました。



----

上方落語かみがたらくご地獄八景亡者戯じごくばっけいもうじゃのたわむれ」より

 わては(めし)()うのも(わす)れてかき(つづ)けとりました。なん日も、なん日も。

 便所(べんじょ)だけは、いってまったで? ついでに(みず)くんで部屋(へや)(もど)り、またかき続けとりました。

 弘法(こうぼう)はんに、白い犬と黒い犬。「犬の目」なんてはなしもございますが、それがあったらめがねいりまへんなぁ。

 あのはなしも医者(いしゃ)がでてきましたかいなぁ? わても病気(びょうき)がっちゃさかい、いかんとならんにゃけど。

 でも、かかなあきまへんねん。(しょう)もろて家賃払(やちんはら)わんとならん。

 とにかくかくでぇ・・・



   *



 ここどこや? なんもあらへんがな。

「おぉぉ~い、(だれ)ぞおるかぁぁ~!!」

 おらへんなぁ。ほんまここどこやねん?


 (ある)いてますと、川が一本(なが)れとりまして、おばあが立っとります。


(わた)しちんは六(もん)やで。()っとりまっか?」

 ぜに入れを(ひら)きますと、()ぜにしかおまへん。いつものこっちゃけど。

百円(ひゃくえん)おまっから()()ぎょうさんもらえまっか?」

「かしてみぃ。お(まえ)、ちょうど六百円持(ろっぴゃくえんも)っとるやないかぁ。こっちではこれで六文や」

()ろたはええけど、(ふね)かなんか()りまんのんか?」

「乗り()はあっちじゃ。ひまやったらわしの身の上(みのうえ)でもきいてっかぁ?」

「わて、子どもの本かいてますねん。ネタになるんでったらきいていきますでぇ」

「ほうか、わしはえんま大王(だいおう)(おく)さんでんねん。()()()()()()()()やで?」

「ああ、ファストフードねぇ。マクドとか」

「悪いけど、わしは()()()()やねん。()()()()()()かてりんごやで」

「スマフォおまんのんか?」

「じごくにはなんでもおまっせ。渡ったところが一丁目(いっちょうめ)盛り場(さかりば)や。はやりのもんはなんでそろとる」

「はぁ、それは(たの)しみでんな。(ほか)に本かけるようなネタおまへんか?」

(もの)かきかぁ。そやな。(ころも)ぬがすはなしあるけどきくぅ?」

「おばあやったら女人(にょにん)をぬがすはなしがええですなぁ。おじいが男ぬがすはなしでったらなおよろしいでっけど」

「お前、そんなんかいとんのか? そんなこっちゃから男どうしの()ぇばかりかかれたチラシが(はい)んのや」



   *



 はなしはこれぐらいで()り上げまして、さん(ばし)のほうまで歩いて(まい)ります。

 そこでは大きい男が「はよ乗れ」いうてます。しっかし、赤い()()みたいなぶっとい(うで)でんなぁ。ええ舟具(ふなぐ)こさえまっせ。

「お前らもっと中のほうへ()れ。()ちたら生き返(いきかえ)ってまうぞ。寄れ寄れ」

「生き返りまんのんか?」

「あほ、あかんあかん。わいの責任(せきにん)になるがな。いらんことで足引っ張(あしひっぱ)らんといてくれ」


 対岸(たいがん)のほうへと舟は(すす)んで参ります。


「あんたはなんで()にましたん?」

「本をかいてるとちゅうでうえ()にしまして」

「わてかて物かきでっせ。荷車(にぐるま)にひかれましてなぁ、かいてたのは(けん)とまほうでんねん」

「わいは(ネコ)にえさあげてたけど自分(じぶん)は食えんでなぁ、春画(しゅんが)かいてましてん」

「わしかてでっせ。女子(おなご)()()()をもっと(たか)めろとか辻札立(つじふだた)てまくってましてなぁ。最中(さいちゅう)に川へドボンですわ」

「なんや、えらい物かきが(あつ)まってますなぁ」


 いうてるうちに対岸へと()きます。


「えらいにぎやかなとこでんなぁ。大型書店(おおがたしょてん)もおまんねんな。みなでいきまひょか?」


 意気投合(いきとうごう)し、みなで入ります。


蝶野牛先生署名会ちょうのうしせんせサインかい? あの中国空想小説ちゅうごくファンタジーしょうせつ第一人者(だいいちにんしゃ)でっか? わて愛好家(ファン)でんねん、いきまひょいきまひょ!」


 中に入ってみますととんでもないもんがはられたぁります。


近日(きんじつ)月尊優先生署名会開催つきみことゆうせんせいサインかいかいさい。お楽しみに」


 わて、全然売(ぜんぜんう)れてまへんで? ()んだ(あと)()れまんのんか? こりゃくやしいなぁ。

 みなはそれぞれ()きな本のほうへ()っていきました。



   *



 蝶野先生の署名はもろたけど、(かえ)られへんし、ちょっと(あそ)んでいきますか。

「おい、優。優やないかぁ」

「あ、おじいはん、仏間(ぶつま)写真(しゃしん)でみたことありますわ」

「いえい!」

「そんなんはよろしいですから」

「お前、えらいはよ()たやないか。まぁ月尊()全員早死(ぜんいんはやじ)にやさかいのぅ」

「おとんはまだ生きてますけどね」

「お前、まあじやん(マージャン)できるんやてなぁ?」

「まぁ、全国大会(ぜんこくたいかい)ではコテンパンですが・・・」

「じごくにもまあじやん()あるんやで。ついてこい」


 ひかれるままについていきますと、中では亡者(もうじゃ)たちが遊んどります。


「タバコは()えまへんの?」

「あほ、いまの時代(じだい)はじごくも健康(けんこう)まあじやんや。ぜにもかけへんで。きつえん(しつ)があるからそこでは吸えるぞ」

世知辛(せちがら)()の中でんな」


 二人と(ほか)の亡者一人が(たく)につきます。「上方(かみがた)()()()(かぎ)る」でっか。さんまは三人まあじやんのことでおます。



   *



 一回目の結果(けっか)はおじいはんが五十二(てん)と六、亡者が(マイナス)四点と九、わてが負四十七点と七。

 二回目は三人ともあと一(まい)やったけどおじいはんが負(せん)点。

 (つぎ)にわてが国士無双(こくしむそう)をしかけますねん。あと三枚で四(まん)八千点やのに亡者がリーチかけまんねん。また三人ともあと一枚。

「お、お前も西()ちやったか? じごくはこうでないとなぁ」

「ほんま残ねん賞(ざんねんしょう)ですわ」


 そん次は亡者が国士に(はし)ってますなぁ。これをおじいはんが一万二千点でけ()ばします。あとはわてが一万二千点であがっても、おじいはんが八千点。

 結局、おじいはんが四十三点、わてが負(れい)点と七、亡者が負四十二点と三。

 新参者(しんざんもん)はかないまへんな。おじいはん(つよ)すぎまっせ・・・ さすがはまあじやん(がえ)りの(あさ)に死んだだけあります。九連宝とう(ちゅうれんぽうとう)でもあがりはったんやろか?



   *



「お前、これからどうすんねん?」

転生(てんせい)しにいこか(おも)てます」

「まあじやん()きやったらもっと遊んでいけや」

「いま、あちらでは転生するのがはやってますねん。次はれいじょうになって(わる)(やく)をしようかと」

「なれたらええな。ほな」



   *



 いよいよえんま大王のまえに立ちます。じょうはりの(かがみ)には生前(せいぜん)()おくが(うつ)しだされます。

「お前は(わる)いことばかりしとるな? なんやこりゃ? 健全(けんぜん)なまんがを勝手(かって)(ぬす)んで男どうしの絵ぇばかりになった本を買い漁(かいあさ)りよってからに。(まった)くけしからん」

「いえ、ゆうれいで義理(ぎり)(おとうと)(あに)()めるのが大変(たいへん)よろしくて」

「なんやこりゃ? (いもうと)と兄か?」

「いえ、男の子が年上のお(にい)さんを攻めるのが大好物(だいこうぶつ)でして」

「お前もかいとるのか? うそばかりかきよってからに」

「それは創造(そうぞう)です。じっさいの人物(じんぶつ)とはかんけいがなく、しかも子ども()けです」

「子どもまでだますとはまことにけしからん。よってじごくいきじゃ!!」

 転生(さき)はじごく(どう)となりました。



   *



 これが(はり)の山かぁ。

 (はな)をつんでは()け、つんでは生け。

「おい、そこでなにをしとる?」

「針山は花を生けるもんでんがな? はさみ()ってきてぇ」

「お前が(のぼ)るんや。はよ登れ」

「あんたにも生けますね。きれいなお花やねぇ。あんたを生けないと」

「こらこらこらこら、そういうところやない。あかん、こいつは(べつ)のじごくじゃ。()れていけ!!」



   *



 次はかまゆでかぁ。(あつ)そうやから水でうめるか。

 じゃ(ぐち)をひねり、温度(おんど)を下げる。

「おい、水入れたら意味(いみ)ないがな。なんでじゃ口があるんや?」

「のうたら風呂(ふろ)やおまへんがな。(せっ)けんと()ぬぐいはどこで()うたらええんでっか?」

「風呂やないかまゆでや! お前を攻め()するところや!」

「あんたがえんま大王を攻めるっちゅうのはどうでっしゃろ? きっと人気(にんき)でまっせ」

「そうか、(おれ)が攻めるんかぁ。あちらではそういうのがはやっとるんかいな?」

「こらこらこらこら、わしを攻めたらあかん。もっと下のじごくへ連れていけ!!」



   *



 なんやここは? やかましなぁ。下手(へた)くそな音楽鳴(おんがくな)らしよってからに。

 お前らには()けん。物かきにしてろう(どく)もする。わての実力(じつりょく)をみんかい!

 ろう読やのうて(あん)しょうになんのやが、(つじ)ろう読をされたら、音楽(げい)もたまったもんやない。

「またこいつか。あかん。人呑鬼(じんどんき)、でてこい!!」



   *



 人呑鬼の口に入れられてもうた。しかし、すぐさま()きだす人呑鬼。

「なんや? どうした、人呑鬼?」

「こいつ、(くさ)ってて()べられまへん」

「えええええい! 無理(むり)じゃ!! もうそいつを(かえ)してまえっ!!」



   *



「うわっ、びっくりした。優はん、いきなり生き返(いきかえ)りはりよって。部屋にぎょうさん(へん)なもん()いてはったから、そうさ令状(れいじょう)でてまったで?

悪役(あくやく)には()()()()()がつきものにございます」

落語らくごは「風刺ふうし」をします。笑点しょうてん大喜利おおぎりでよくますね。

地獄八景亡者戯じごくばっけいもうじゃのたわむれではほかにも演者えんじゃ自虐じぎゃくネタや知人ちじんを使ったものがまれます。

時事じじネタがはいるので、後年書こうねんかけばちがうおはなしになるかとぞんじます。

パソコン通信つうしん時代じだい作者さくしゃ仲間なかまからは、「舞台ぶたいおなげきでもたんびちがう。昼公演マチネ夜公演ソワレでも違う」

たしかにそうです。千秋楽せんしゅうらくを観にったわたしと内容ないようことなっていたこともございました。

映像化えいぞうかされていないと、生の舞台はそうなります。もちろん落語だって。

同じ文章でも「アルファポリス」さんばん、「note」さん版とすこし異なっているのはそのためです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ