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2-4 千里の道も地道にね

2-4 千里の道も地道にね


「行ってしまいましたね‥。」


 茫然自失。とはまさにこの事だ。バスの運転手は自動運転で無論いないのだけれど、乗ろうとしているであろう学生を容赦なく置いていく感じはさすがは中身はプログラムされた機械。と言ったところか。血も涙もない。


「そ、そうですね。で、でも怪我人がいなくてよかった!えっと、まだ名前聞いてなかったですよね!自分は中森佑と言います!」


「あ、私は九条絢音(クジョウ アヤネ)と言います。どうぞ宜しく。えっとそちらの方は知り合い‥ですかね?」


 「コラ!逃げるな!」と案の定依然として騒ぎ立てる灯を諫めると、アヤネさんに紹介する。


「こちらは、緋羽灯、同じ千術専門高等学校の一年ですよ。」


「あら!なんて嬉しい偶然!やっぱりそれほどの強さなら然もありなん。というところでしょうけど、同じ場所でこれほどの強さを持っている学友がいて心強いわ。」


 灯に差し出させた手を先程よりも感銘を持って握った彼女の手に、恨めしさを感じていると、灯は平然と会釈する。


「あ、よろしく。あんたも相当強いね。九条ってまさか、あの九条家の人?」


「ふふ、まあ‥そういったところよ。」


 九条と名乗った彼女は、目線を少し下げては、すぐには肯定せずに遠回しに認めた。そこから感じられるのは九条家というものが、なんらかの複雑な事情を抱えているのをその表情からも見て取れる。しかしアヤネさんか。いい名前だ。名前から既に素敵さんのオーラが出ている。


「へぇー。やっぱ名門は大したもんだな。瞬時にあれだけの水量を出せるのはなかなかいないぞ。」


 二人で勝手に進む話には全くついていけない。どうにも悔しいと思った自分は、灯を排除すると、アヤネさんと無理矢理にでも会話を続けようとする。


「あの!ちなみに九条さんは好きな食べ物とかありますか?」


「え?‥好きな食べ物ですか?んーん。」


 いきなりの質問に困惑したような表情を浮かべるも、人差し指を頬に当てながら、斜め上を見るようにして思考を巡らせるような仕草を見せる。


「おい!そんな事より!さっきバスに乗れないと入学式に遅刻だぞ!どうする?」


 低身長の灯が両腕を振ってぴょんぴょんと跳ねるように視界に入ってくる。正直言って煩わしい。


 振り払おうと邪険に扱う素振りを見せると、あ!と思い出したようにアヤネさんがこちらを見る。


「そうでした!遅刻してしまいますよ!どうしましょう?」


 なるほど‥好きな食べ物は遅刻してしまいますよ。か‥

んなわけないか。どうやら和やかな会話はもうじき終了のようだ。なんと名残惜しい事だ。こんな時間なら永遠に続けばいいのにと本気で願っているところに、灯が残念なお知らせを持ってくる。


「なら、走り決定だな。ここからなら5キロくらいだろ。九条家の人は体力強化の千術はできるか?」


「ええもちろん。あと私は浮遊系の千術も出来るのでそれで。そしたら中森さんは?」


 この未来に来てからというもの、特に体力強化などしていないし、そんな魔法みたいな力は持ってない。よって自ずと結論は見えてくる。嫌な予感しかない‥。僅かに残る希望の欠片(レアアイテム)を探すものの、辺りに代替移動手段(ポ○モンの世界ならマッハ自転車などの類いがあればBGMも変わり、かなりのスピードで移動ができるのだが‥自転車はないようだ‥)が落ちている様子もない。どうやら降参の白旗を上げざるを得ない。


「えっ‥。出来ません‥。」


 絶望感に打ちひしがれるとはこの事だろうか。仲良く登校のはずが、孤独に苛まれながら片道5キロを歩いていく事になった。


「では、また!」


 なにやら呪文のような言霊を呟くと、鋭利な先端に薄くて軽そう電子結合の塊によって作り出した半透明の羽を背中に彼女は、風の力ではない電子の力でふわりと浮き上がると、手を振ってにこやかな笑顔で飛び去っていった。


「んじゃ。遅れるなよ。」


 あしらうように手を挙げたアカリは、軽くジャンプをして、筋肉の動作確認をすると、スタンディングスタートの姿勢のまま、ギュッとふくらはぎに力を込める。こちらは風圧で仰け反りそうになるほどの風を残していく。もはやスピード違反であろう反則的な猛スピードで、道を疾駆、疾走しては、すぐに遥か彼方に消えていった。残ったのは彼女の残した風圧と、舞い上がった砂埃である。


「ゴホッ、ゴホッ‥もういいや。遅刻していこ‥。」


 砂煙に咳き込んだ自分は、二人の力を目の前にしてやる気を失った。よってとぼとぼと学校までを徒歩で向かうこととした。


 こうして中森佑の新たな始まりの日、入学式当日は遅刻である事が決定した。

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