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ソロモンの子  作者: 神坊
第一章 覚醒
6/6

第五話 許されない罪


カーテンの隙間から射す光に当てられ、目を覚ました。


「朝か。」


あの戦闘から一日が経った。


あの後、一階層の冒険者ギルドの受付嬢に起こった事全てを話し、ヒビキとメイというカヲルの元パーティーの二人を渡した。


そしてカヲルを家まで送って欲しいと頼むと、快く受け入れてくれた。


カヲルのことを受付嬢にお願いし、僕はすぐさまダンションに戻った。


カヲルは何か言おうとしていたがもう無理だ。あの腕を見た時から僕は()()()()()だった。


あの時の(はらわた)が煮えくり返るような怒りや憎しみがまた帰ってきた。


その怒りや憎しみのままに数えきれないほどのモンスターを倒した。


魔石なんていらない。ドロップアイテムなんていらない。そんなものより経験値が欲しい。ただ、モンスターを倒しまくり、レベルを上げて、強くならないといけないんだ。


アイツらが生きている、この事実さえあればいい。


それさえあれば僕はなんでもできる。


アイツらを殺せるほど強くならないと、リサの仇を打てない。だから、無茶をしてでも強くならないといけないんだ。


片っ端から魔物を倒した後、気持ちも少し落ち着いてから気づいた。


到達階層を大幅に更新していた事に。


もう、日を跨いでいた事に。


(ああ、もうこんな時間か。早く帰らないとな。明日も学園に行かないといけないし。)


ダンションを出て、家へ向かった。


(多分もう寝てるよな。店で何か買って帰るか。)


そして近くにあるお店で晩ごはんを買い、家へと帰った。


電気のついていない真っ暗な家に帰った後、ご飯を食べ、風呂に入り、疲れていたのか吸い込まれる様にベッドの中に入り寝た。


これが昨日の夜の事だ。


そしてこれから学園に行かないといけない。


(はぁ、面倒くさい。もうアイツらがいる場所はここのダンションだと分かっているから、情報収集なんて要らないのに。………いや、朝からダンションに行けばいいか。学園はダンジョンに近いからダンジョンに行くついでに行けばいいか。)


「じゃあ早く出るか。」


幸いにも起きたのは朝の4時だ。眠さもだるさも無い、むしろ体が軽い。今日は調子がいいな。


(朝飯は買えばいいか。)


そして支度を済ませ、家を出た。


自分を見る視線に気付かずに。




         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


二階へと繋がる階段を登る。


「シン〜もう起きないと遅刻するよー。シン?」


そしてドアを開けてシンを起こそうと部屋を見るが部屋にはいなかった。


「もう行ったの?いや、昨日あのまま帰って来ていないのかも。やっぱり冒険者組合に連絡したほうがよかったかな。」


もしものことがあったらとオロオロしていると、


「大丈夫だよお姉ちゃん。アイツならもう朝早くに行ったから。」


「そ、そうなの?なら良かったけど。でも夜遅くに帰って来て朝早くに出るなんて、何かあるのかな?」


「しらない。でも別にいいじゃん。アイツのことなんて。」


「あんたねえ、お兄ちゃんに向かって―――」


「じゃあ私もう行くから。」


「あ!ちょ、待ちなさい!」


少し注意しようとするとミアは逃げる様に家を出て行った。


「まったくもう!」


(昔はこんな関係じゃなかったのに。二人共仲良かったのにに、何があったのかな?)


そしてふと壁に立てかけてある時計を見る。


「あ!もうこんな時間!早く行かなきゃ。」


そして私も大急ぎで家を出て行ていった。




        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



         

チャイムが鳴った。


(一応間に合った。)


家を出たあとダンションに行き、魔物を倒していた。


そして気づいたらもう遅刻ギリギリの時間だった。


(次からはちゃんと時間見て行動しよ。)


そしてここからいつもの地獄が始まる。


1〜3時間は勉学だったが、4時間目は戦技の授業で自分の技やスキルだけを用いてペアの子と戦う授業だったがいつも通り技やスキルを受けるので精一杯で反撃ができなかった。


そしてお昼休みの時、ちょとした事が起こった。


(やっと昼か。いつも通りあそこで食うか。)


そう思い、席を立とうとした時だった。


「なあ、あの子可愛くないか?緑の学証……てことは一年か。こんな可愛い子居んのか。」


「ああ、やべぇ。まじタイプだ。お前話しかけろよ。」


「いや無理無理。レベル高すぎ。」


「…………綺麗。」


「どこの子なんだろう。」


そんな男子や女子の声が聞こえた。


(きっと五天女(ごてんにょ)の誰かが来てるんだろう。)


五天女とは学園にいる五人の超絶美女のことだ。

そのあまりの美貌に一部の男子学生徒からは神格化されている。


そしてその五天女と対になっているのが五天爵である。

五天女と同じように一部の女子学生徒神格化されている。そして五天女と五天爵は仲が悪く、会うといつも争っている。


(早く行くか。)


そして席を立ち、クラスを出ようとした時、


「あの、すいません。」


「ひゃ、ひゃい」


聞き覚えのある声が聞こえた。そしてクラスの女子の情けない声も。


だが次の瞬間、その声の主が誰かが分かった。


「シン・アリステアさんはいますか?」


「!?」


自分の名前が出たことで反射的に見た。


ドアの方を見ると信じられない人物がそこにいた。


クラスのみんな廊下にいた人などの視線が僕に向いてくる。


でもそんなことを気にもさせないほどの驚きだった。


多分、もう合わないだろうと思っていたからだ。


「……どうしてここに?」


少し間を開けてから彼女は言った。


「一緒にお昼食べませんか。」


その人物は、昨日助けたカヲルだった。



         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


理由はわからないけど今カヲルと一緒にお昼ご飯を食べている。


食べ始めてもう10分。


ついには食べ終わってしまった。


「……………」


「……………」


二人共一言も喋っていない。


カヲルとはリサの件があるから僕からは話しづらかった。


しかもカヲルは僕と同様、心に穴が空いているから。


ぽっかりと空いた穴は日々大きくなっている。


日が経つにつれて現実味がなくなってくるんだ。


「もしリサが生きていたら」なんてたらればを毎日毎日考えてしまう。


それくらい僕にとってリサはかけがえのない人だったんだ。


それはカヲルにとってもきっと………


するとカヲルが話しかけてきた。


「シンさん。」


「何?」


僕が言葉を返すとカヲルは席を立ち上がり、


「あの時は本当にごめんなさい。」


と謝罪した。


謝罪された僕はというと突然のことで呆けていた。


(え、何か謝罪される様なことさせられたっけ?……まったく覚えてない。いや思い出せ。きっと何かあるはずだ、何か……)


僕が必死に過去の記憶を探って考え込んでいるとカヲルが悟ってくれたのか少し笑った後に説明してくれた。


「初めて会った時、何も事情を知らないのにあんなに悪口言ってごめんなさい。」


「ああ、あれか。別にいいよ。何も事情を話さなかった僕が悪いから。だから気にする必要はないよ。」


(それに………当然のことだから。)


「もしかしてそれだけのためにわざわざ来てくれたの?」


するとカヲルは顔を少し赤らめて言った。


「………謝りたかったので。」


(ああ、いい子だな。)


「あと聞きたいことがあるんです。」


「何だい?」


一応予想はしてた。何せカヲルは噂でしか聞いていないから。


「あの時リサさんとシンさんに何があったんですか。」


(やっぱり聞いてくるよね。そりゃそうだ。カヲル()その場にいた本人に聞きたいもんな。)


「だってシンさん絶対にリサさんを置いて逃げるはずがない。だってあの時私を命懸けで助けてくれたから、だから別に何かあるのかなって。」


でもごめんねカヲル。言えないんだ、これは。


これを言ったらカヲルも僕と同じで復讐に囚われるかもしれない。それだけはダメだ。リサはこんなこと望まないから………いやこれは僕にも言えるか。


でもこれだけは僕がやらなきゃいけないんだ。あの時、リサを助けられなかった僕がやらないといけないんだ


「ごめんね。それだけは言えない。」


「そう…‥ですか。そうですよね、すみませんこんなこと聞いちゃって。」


「いや、僕の方こそごめん。」


でもいつかこの復讐が終わったら、カヲルやルイスにすべてを話そう。


これが終わったら。


「あの、シンさん。」


「?どうしたの?」


「一つお願いがあるのですが聞いてくれませんか?」


「?いいよ。その場ですぐに返事をできるかはわからないけど。」


「ありがとうございます。」


するとカヲルは緊張しているのか深呼吸をし、心を落ち着かせてから僕に言ってきた。


「私とパーティーを組んでくれませんか?」


予想だにしないカヲルの発言に僕は呆気に取られた。


「え?」


「ダメですか?」


「え、いや、べつに、ダメってわけじゃ…‥……でもどうして?」


「私、ヒーラーだから一人では入れないし、パーティーも友達も無くなっちゃったからもう他に頼れる人がいなくて。だから………」


「いいよべつに。」


「本当ですか!ありがとうございます。」


(まあ、こっちとしてもヒーラーが入るのは良い。これで回復薬を買わなくて良くなるからな。)


(でも僕は条件をつける、これは必要だ。)


「でも条件をつけるよ。いい?」


「はいわかりました。」


「まず一つ、肌身離さずに毎日これをつけて。」


そうして僕は魔法道具を渡した。


「?これはなんですか?」


「これはね捜索機といってこれに自分の魔力を流すと自分の居場所がこの機械のペア機を持っている人に送られる。あ、ちなみにこれ上限が半径二十五キロメートルだから。」


「そんな道具があるんですね。」


「ちなみにこれリサと使っていた物だよ。」


「え、そうなんですか?…‥…でもこれあれば浮気できませんもんね。」


「!?」


(感鋭いな、ほとんど当たりだ。でもまさかリサに浮気を疑われて、機能を隠して渡されたと知った時は結構落ち込んだな。まあ、浮気してないけど、僕。)


「え、その反応………まさか浮気したんですか!?」


「いやいやいやしてないしてない、リサの勘違いだったんだ。まあ、この話は後で話すとして、」


「あっ、話変えようとしてる。」


「そして二つ目。」


「あっ、変えた。」


僕は無理やり話を変えた。


「21時前には帰る事。」


「はい。」


「迎って呼べるの?」


「はい、一応呼べます。でも……その………」


「?」


カヲルは赤を赤くした。


「………家まで送ってもらうのはダメですか?」


「別にいいよ。」


そう言葉を返すとカヲルは笑顔で


「ありがとうございます!」


と言う。


(僕で良かったのかな。)


そんな事を考えながら三つ目の条件にはいる。


「そして三つ目。何がなんでも自分大優先。僕も全能じゃないから百パーセント守れるわけじゃない。命の危険が迫ったら僕の事は考えずに逃げる事。」


「え、でもそれじゃあシンさは――」



「僕のことは考えなくて大丈夫だから、その時は自分の身の安全だけを最優先に考えて。分かった?」


「………はい、わかりました。」


「条件はこれだけだよ。最後に確認ね。本当に僕とパーティーを組むの?」


「はい。私はシンさんとパーティーを組みたいです。」


カヲルは一瞬も間を開けずにそう言った。


(即答か。ならこっちもここで逃げるわけにはいかないな、)


「分かった。じゃあ今日から?」


「え、今日も行くですか?」


カヲルが驚いた様に言った。


「うん。毎日学園が終わったら行ってるよ。」


「ま……毎日………?」


「うん、毎日。」


「………シンさん。毎日何時間くらい潜っているんですか?」


「えっと、18時から23時くらいまでかな。」


「それでどれくらい稼いでいるんですか?」


「大体三〜四万くらいかな。」


「それが三十日間あるので一ヶ月で………大体百万くらい。ちなみにいつからこんなまいにち潜る様になったんですか?」


「一年の八月くらいから。」


「で今が六月だから……一千万………一千万!?」


「うん、多分それくらいはあるよ。」


「えっ、シンさん分かってないんですか!?一般冒険者が月稼ぐお金が平均20万〜30万なんですよ?それを易々と超えて、しかも倍以上稼いでいるんですよ貴方は!」


「そ、そうみたいだね。」


「「そうみたいだね」じゃありません。ダンジョンは稼げない、ハイリスクで有名なんですよ!?それを学生が軽々と超えるって一体どんな魔物を倒しているんですか!?」


「普通にスライム、ゴブリン、リザードとかの下級魔物だけど。」


(昨日は違うけど。)


昨日は到達階層を大幅に更新し、15階層まで行った。


だからもうゴブリンやスライムといった下級魔物は出てこない。


出てくるのはもっと強くて少し前までは勝てなかったリザードやシャドウ、普通のゴブリンとは比べ物にならないほど強い武器ゴブリン、ウルフ、キースだ。


昨日僕はこいつらと戦ったんだ。


(昨日の俺はよくなんな奴らを倒してたよな。)


正直にいって昨日のダンジャンでの記憶はあまり無い。


ただ出てくる魔物を片っ端から倒していたから。


そう考えているとカヲルが少し身構えながら聞いてきた。


「………それを何体倒しているんですか?」


「何体とかは数えてないけどまぁ多分合計で200〜300体くらいは倒しているんじゃないかな。」


そしてこの後のことに気づいたのかカヲルは顔を真っ青にして聞いてきた。


「もしかして今日も………」


「うん。多分それくらいは倒すよ。」


「…………」


カヲルは黙り込んだ。


(え、何か変なこと言ったかな?)


「か、カヲル……………?」


「ふ………」


「ふ?」


「ふふっ。やっぱりリサさんから聞いた通りちょと変わってますね、シンさんって。」


彼女は笑っていた。


「え、そう?てかリサそんなこと言ってたの?」


「そうですよ。リサさん貴方の愚痴すっごい言ってましたよ?朝全然起きないとか、すぐ忘れるとか。」


「そ、そんなことまで。」


「でもすごく仲が良かったんですね。愚痴言ってる時もリサさんすごく楽しそうでしたもん。貴方の事となるとあの人すごく喋るんですよ。」


「そんなんだ、知らなかったな。」


(ああ、やっぱりこういうの聞くと会いたくなるな。)


「あの、シンさん。」


「なに?」


「シンさんが知ってるリサさんの事も教えてください。あの事件のことはいいです、話す準備が出来たらで。だからいつもの、貴方と一緒にいたリサさんの事、私知りたいんです。私はいつも部屋でリサさんと話すだけだから。いつもの外でのリサさんを知らないんです。だから……」


(そっか、辛いのはカヲルもだよね。突然、この世で一番大切な人がいなくなったんだ、僕のせいで。ならせめてこれで少しでもカヲルの気持ちご楽になるなら。)


「いいよ。」


「!本当ですか!ありがとうございます!」


「うん、じゃあ明日もここでリサの話をしよう。」


「はい!」


カヲルは嬉しそうに笑いながら返事をした。


「それでどうする?今日から行く?ダンジョン。」


「はい!行きます。」


「じゃあ、17時に門の前で待ち合わせにしよう。」


「はい、分かりました。」


その約束を決めた後、僕達は予鈴のチャイムがなるまでリサの話をした。




         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




カヲルとの話し合いが終わり、クラスへと帰る途中、


「おい人殺し。」


と、話しかけられた。


"人殺し"か、僕の事だろう。


「なんですか?」


振り返ると五人組が後ろに立っていた。


制服の襟には緑の学証が着いていた。


(………一年か。カヲル案件かな?)


そして予想は的中していた。


「お前どうやってカヲルさんと仲良くなった。」


(やっぱりか。そりゃそうだな、カヲルはここじゃ美人すぎる。それに家も凄いからな。)


「別に仲良くなんてないさ。ただ話をしてただけだ。」


「嘘をつくなよ。じゃあなんでカヲル()があんなに笑顔だったんだ。」


(カヲル()?ああ、なるほどな。そりゃあの可愛さだファンクラブぐらいあって当然か。)


「カヲル()が笑うところなんて俺は一回も見たことがないぞ。まさか貴様、カヲル()と付き合っているんじゃないだろうな。返答によっては……」


と、彼が人核人形(ホムンクル)を出してきた。


敵意剥き出しだな。まあ、本当のこと話してるだけなんだけどな。


「いや、付き合ってない。本当にただ話していただけだよ。」


「ではなんの話をしていた?」


すると四人の後ろにいた男が話しかけてきた。


(なるほど、彼がコイツらのリーダーか。確かに一年にしては堂々としてるな。それなりの強さなんだろう。)


「おい、なんの話をしていたのかと聞いてるんだ。」


「ああ、答えるよ。リサの話をしてたんだ。」


「リサ・ノース様の話か。彼女がカヲル様となんの関係がある?」


(コイツも様付けか。)


「カヲルと――」


僕の呼び捨てがいけなかったのか、


「「「「カヲル()な!!」」」」


と、リーダーと彼の周りの取り巻き達がそう言った。


(………………)


「カヲル様とリサは仲が良かった、ただそれだけだよ。」


「貴様のその証言が正しいと言う証拠は、どこにある。」


「ならカヲル………カヲル様に聞いてみればいいじゃないか。なんなら初めから僕じゃなくてカヲル様に聞けば良かったんじゃないのか?」


(まあ、無理だろうけど。)


多分ファンクラブの掟かなんかで接近禁止とか会話禁止があるんだろう。


「………分かった。貴様の言い分を認めよう。そしてこれは警告だあまりカヲル様に近づくな。」


「それは無理だ。」


「……なに?」


「これからいつまでかは分からないが昼を一緒に食べることとパーティーを組む約束をしたからな。」


そう言うと彼の後ろの取り巻き達から「何!?」「羨ましい」などの声や殺意のこもった「殺す」「万死に値する」などが聞こえた。


(ッ!殺気!殺す気満々かよ。)


「やめろお前たち。」


そう彼が言い放つと殺気が一瞬で消えた。


(流石はリーダーだな。)


「我々はカヲル様が幸せならそれでいい。だが貴様。妙な真似はするなよ?その時は我々が制裁を加える、覚えておけ。」


そう言い残して彼らは帰って行った。


(カヲルの幸せか………あいつらはカヲルの何を見てるんだろう。あんなに近づく奴に厳しいのなら、なんでヒビキ達は大丈夫だったんだ。)


脳裏に浮かんでくるのは一日前にカヲルを漁った三人組だった。


「はあ、面倒だな。早くクラス戻ろう。」


だが、クラスでも一悶着あった。


「おい、落ちこぼれ。あの可愛い子は誰だ、教えろ。」


クラスに戻るや否や、クラスの男子や女子からの質問攻めだった。


「一年のカヲル・ヴァレンだよ。」


だが、クラス中の男女がカヲルの名字を聞くや否や離れて行った。


「ヴァレンってあの、」「マジかよ、」「私、呼ばれてるんだった、それじゃあ。」「お、俺も飲み物買ってこよ。」


(なるほどな、そりゃ友達ができないわけだ。)


だがそんな中、一人だけ話に入ってくる人がいた。


「おい、落ちこぼれ。来い。」


そう言うとルイスはクラスを出た。


(ルイスか……まあ、案の定くるのは分かってた。)


そして僕は先に行ったルイスを追う。



         ◇◇◇◇◇◇◇◇



ルイスについて行き、たどり着いたのは人通りの少ない一階の教室だった。


二人で教室の中へと入っていく。


入った瞬間ルイスは僕の襟を左手で掴み、僕を壁へと押し付けた。


「ガハッ!?」


壁に押し付けられた衝撃で僕は意識が飛びそうだった。


当然だがルイスのレベルは僕よりもずっとずっと上でランク1だ。


ランクはこの世界の超えられない、変えられない絶対的なルールの一つだ。


例えルイスが手加減をしたとしても圧倒的なレベル差がある僕には入るダメージが多い。


ルイスの襟を掴む手に更に力が入る。


そしてようやくルイスが何を言いたいのかがわかった。


「リサの次はあの女の子か!?」


「………!」


(やっぱりリサ関係だよな。だって、ルイスは………)


「何か言えよ!」


するとルイスは襟を掴んでいた手とは逆の右手で僕の右頬を殴った。


「ッ!」


僕は殴られた衝撃で倒れた。


「お前、忘れてないよな!リサを殺したのはお前だぞ!お前一人だけ魔法で守られて、リサを目の前で見殺しにしたんだぞお前は!!」


ルイスは僕を馬乗りし、何度も何度も顔を殴った。


だけどさっきほどの痛みは無かった。殴られる度に痛みの変わりにルイスから悲しさや後悔、憎しみが伝わって来る。


そしてそれが伝わってくる度に、僕の中にある穴は大きくなっていく。


「もう時間が経ったから許されるとか思ってんじゃねえよ!許されるわけがないんだよ!」


(わかってるよ、そんなことぐらい。許されたいなんて思ってないよ。)


「お前はこれからずっと許されないんだよ!ずっとずっとお前はリサを殺したっていう罪を許されることはないんだよ!」


(知ってるよ、そんなこと。)


「こんなことなら俺が………お前じゃなく……俺が……」


ルイスは殴るのを止め、そう小さい声で言いった。


(ああ、ほんとだよな。)


「お前はずっとその罪から逃げる事も消す事も許される事もない、永遠にだ!」


ルイスはそう言うと部屋を出て行った。


(もしも、あのばに居るのが俺じゃなくてルイスだったらリサは死ななかったのかな。)


そんな事を考えてしまう。


(ああ…授業…遅れ…る…な……)


ルイスが出て行った後、すぐ僕は気絶した。


そしてまたあの夢を見る。最近ずっとそうだ、この夢しか見ない。


でも何か変だ、夢の中なのに現実味がある。まるで本当にここにいるみたいだ。


そして何より()()()()


(どうしてだ?前はなかったのに。)


目の前を見ると人がいる。またこの人だ。


いつも夢に出てくるこの人だ。


そして初めて知った。彼が蒼色の髪をしている事に。


その人は泣いていた。その人が両腕で抱えている黒髪の女性は死んでしまっているのか微動だに動かない。


その人は何かを泣き叫いでいた。


あたり一面が蒼黒い炎で燃えている。


そしてここで夢は終わる。


下校時間に流れるチャイムで起きる。


(カヲルとの約束に遅れる行かないと。)


「ぐッ!」


動く度に激痛が走る体を無理矢理起き上がらせ、支度をしようとクラスへと戻る。


一階から階段を登り四階へと行く。


やっとクラスが見え、そして気づいた。


カヲルが僕のクラスの前で待っていた事に。


カヲルは僕に気づくと、すぐさま顔を真っ青にして僕のところまで来た。


「どうしたんですかシンさん!何があったんですか!?」


そう、僕は今とてつもなくひどい状態だった。


口や頭からは血を出し、両頬は青紫色に腫れ、綺麗な白のワイシャツは真っ赤に染まっていた。


でもさっきまでの痛みと比べるとあまり痛くない。何でだろう。


「私の回復魔法でもこんな大怪我治せない。シンさん、保健室に行きましょう。」


まるでカヲルの話が聞こえない。なんだろうこの脱力感と虚無感は。まるで自分の身体が空っぽになったようだ。


「シンさん?」


カヲルが尋ねてきた。それでようやく僕は気がついた。。


「ああ、どうしたの?」


「い、いえ、何でも。それよりも早く保健室に行きましょう。手、貸しますよ。」


カヲルは手を差し伸べてきた。


「ごめんね。迷惑かけて。」


僕はその手を取り、カヲルの肩に手を置き、体を少し支えさせてもらった。


「全然迷惑なんかじゃありませんよ。………一応理由は聞きません。その方がいいですよね?」


「ああ、そうしてもらえると助かる。」


「はい、分かりました。」


「ありがとう、カヲル。」


そして僕らは保健室へと向かった。




         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ダンジョン56六階層 〜隠しセーフティーポイント〜


「あ”あ”クソッ!邪魔が入った!本当なら腕だけじゃなく足も来る予定だったのに!」


声を荒げている男がいる。


「主人よ、落ち着いてください。」


「そう気を落とさないでください。またいい機会がありますよ。」


それを宥める二体の従者。


「次の機会だと?俺達にそんなものがあると思うか?三年間俺達はこの大陸で一番発展している首都にいるんだぞ?そして得た情報はゼロだ。他の奴らは一年間で何かしら情報を持って帰っているのに俺達は三年間でゼロだ。しかも一番出る確率が予言では高かったのにだ。」


男達は焦っていた。三年間と言う長期間の滞在で何も得た情報がないという事を上層部に知られたら、と。


「最悪の場合、()()()()が俺たちにはまっているぞ。」


「「………………」」


「クソッ!これもあの金髪の女のせいだ。ここは神力が少ないせいで再生が出来ず、応急措置しか出来ない。」


(しかも()()を使って最大限に防御力を上げた防御魔法で男を守るとは。)


「もういっそ、俺が全員殺ってしまうか。まだ覚醒していないようだしな。殺した後でも回収はできる。ダンジョンの中ではいくらでも死の偽装など出来る。」


そう言い男は笑みを浮かべる。


「主人よ、出したら私がその役目をいたします。」


すると一体の従者が男の前で片膝を地に付け提案を出してきた。


「出来るのかガリアル。」


「必ずや見つけ出し、主人の元へと神魂を献上しに参りましょう。」


「……確かに片足がない俺よりお前の方が楽かもな。では改めて命令する。」


    『ソロモンの魂を我の元へ持って来い。』


「御意!」


そう言うと従者は自分の影の中へと消えた。


従者が消えた後に、


「良かったのですか?行かせて。」


と、もう一体の従者が話しかけてくる。


「ああ、別にいい。」


先程までの余裕のない様子とは反対に、今男はとても落ち着いていた。


「ですが、もし何かガリアルが事を起こしてしまっては………」


すると男は「フッ」と笑った。


「その時はその時だ。ガリアルがやったことはガリアル自身がなんとかするさ。俺達は待てばいい、アイツが何か情報を持って帰ってくるの。」


そう言うと男と従者は影の中へと消えた。


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