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ダンジョン02

「第六宝石国:初級ダンジョン:入口番号0022」

巨大な岩肌洞窟。その先に、真っ黒な暗闇が広がっている。


光ひとつなく、ただただ深い暗がりが空間を覆う。

いかにもダンジョンの入り口にふさわしい威圧感を漂わせる、その場所で


赤のタンクトップに紺色のマントを羽織り、漆黒の逆立った髪に赤の鉢巻を播いた少年が、元気よく疾走する。

砂嵐を舞い上がらせながら、急ブレーキを踏むように立ち止まると、ポケットから豆粒ほどの宝石を取りだして、思い切り上空に投げた。


舞い上がった宝石は、重力に従い、少年の目の前へ落下してゆく。


暗がりの中、少年は迷いもなく、自分の腰に納めていた剣を素早く取り出し、宝石を真っ二つに割った。

すると、オレンジ色の光の粒子が広がり、少年の剣が炎の「幻」を帯びて、めらめらと燃え上がった。


「名を名乗ろう!俺はゼイフィア・ユエル!太陽の光を1万年浴び続けた焔の剣を操る世界唯一の剣士にして、万人が見とれる筋肉の持ち主。俺に触れるとケガするぜ!」


ゼイフィアと名乗る少年は、昨日、鍛冶屋のオヤジから受け取ったばかりの新しい、炎の「幻」をまとった剣を洞窟の入り口方向から歩いてくる人物に対峙し構えた。


勢いよく燃えるその「幻」は、やがて少年が剣を構える相手の顔を映し出す。


そして、相手の少年が掛けている銀の眼鏡が炎の光を反射した。

少年の瞬足で撒き散らした砂埃が肺に入ったのか、ゴホゴホと咳払いをしつつ、メガネのフレームを片手で持ち上げる。


「おやおや、貴様。私の名を知らぬようだな。ふむ。いいだろう。我こそ身の内に水と風の力を秘めし、最強の槍使い士レゼルヴ・ヴィカ。炎の剣など、この清き水刃で無力化し、木端微塵にしてしんぜよう。」


同じく、レゼルヴと名乗る少年もポケットから豆粒ほどの宝石を取り出し、上空へ投げた。


槍をバトンのようにくるくると回し、宝石が目の前に落下したところで、槍の矛先で器用に宝石を真っ二つにする。

すると、水の塊が槍を覆い、螺旋状に槍を取り巻く。


ちなみに、これは「幻」であり、少年が水と風の力を秘めているわけではない。


両者はしばらく互いに睨み合うと、阿吽の呼吸でふっと地面を蹴った。


「せいやあああああっ」


「うおおおおおおおっ」


前方向に数メートル進んだ先で、刃と刃が交じり合う。


金属音がダンジョン内に響き渡り、その太刀筋は目に負えないほどだった。

赤と青の光が素早く交差し、時折火花を散らせながら残像を残している。


レゼルヴの槍がゼイフィアの足元をすくいそうになりながらも、力強い太刀筋でその攻撃を跳ね除け、一方のレゼルヴは、重たい一撃に押されそうになりながらも、華麗な槍裁きと分析で見事にかわしていく。


両者は、どちらも引けを取らないほどの互角な争いを続けていた。





――まだ、太陽の光が届く洞窟の壁。


「ふーん。しばらくかかりそうやね。隊長も来ないし昼寝しよ。」


漆黒の闇に染まる迷宮の奥を見やり、目を細めながら、少年がつぶやく。


なりきり魔法バトルを迷宮内で繰り広げている少年2人と同じく、黒い髪に赤い瞳で、やや長髪で整った顔立ちのためか、見方によっては女の子にも見える。着物のような少し長めの裾から両腕をのぞかせて組むと目をつむり、眠りの体制に入った。


「ふふふ。アスカ君、本当は二人のことが羨ましいのね。」


前髪を両側に分け、セミロングの長さの少女がアスカの斜め向かいで緑色の布地を広げて座り、水筒のお茶をコップに移して、隣に座る同胞に渡しながらつぶやいた。


「ふむ。アスカも遊び心をもつ少年だったとは。」


セレナに渡された第七王国産のお茶をすすりながら、ナギサはほっと息をつく。

お茶栽培が盛んな隣国。

それは、第七宝石商自治区も例外ではなく、迷宮宝石と合わせてお茶栽培が特産品であった。


アスカは微動だにはしない。


「ふふ。最初、第七自治区からナギちゃんたちが留学して来たばかりの時は、とてもクールな印象だったけれど、段々アスカ君のこと、分かってきたわ。」


「そうでしょう。面白いんですよ。アスカは。」


セレナは、アスカの分のお茶をコップに注ぎ、そっとアスカに手渡す。

アスカは片目を開くと、「ありがとう」とつぶやき、お茶を口に含んだ。


セルナは「うん」とつぶやくと、再びシートに腰を下ろす。


「さて、お味はどうかしら?」


「結構なお手前で。また腕を上げましたね。」


アスカと同じく、着物のような少し長めの袖。

セレナは、伸縮性のある紫色の半袖に、長めの黒い手袋、白いショートパンツにタイツという格好だが、

アスカとナギサはY字型の襟に、着物風の袖をしたトップス、袴形のズボンという出で立ちで、第七宝石商自治区特有の服装をしていた。


「本場の子にそう言ってもらえてうれしいわ。」


セレナは嬉しそうに微笑んだ。すると、木の陰から長身の少年が姿を現し、手を振りながら近づいてくる。


「こんにちは。セレナさん。それから..君たちがヒスイ(第七自治区)の留学生だね。はじめまして。今日第七班の副隊長を務めます、フォーデルハウトです。よろしく。」


「はい!よろしくお願いし_」


ナギサは立ち上がり、フォーデルハウトを見上げた瞬間、硬直した。


「ナギ、どうした__」


異変を察知したアスカが、フォーデルハウトとの間に入り込む。

目があった瞬間、アスカも息を呑んだ。


洞窟の暗がりでもわかるほど青いスカイブルーの瞳。

そして、髪は黒色をしているが、時折、日の光に照らされて金色に光る。


「魔法つかい__。」



宝石族の人々は、600年の寿命を除き、ある意味、不死身だった。

怪我を負いさえすれど、回復能力に長けており死にはない。

しかし、例外がある。


「どうしてここに___。」



震えた声でつぶやいた瞬間、入り口の奥から火薬をにおわせる突風が巻き起こった。











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