勝ったら無罪。負けたら極刑。地獄かな?
「どうしてエレア様がこんなところに?」
「敬語じゃなくていいわ。様もなし。王女様からの命令です」
「あ……ああ」
車掌さんや乗客に感謝され、どうにか列車は動き出した。
「抜け出したのよ。色々あって」
「それでも第一王女が抜け出すって……」
あまりにも無謀というか無茶というか。
ともあれ、どうしてフードを深く被っていたのかは理解できた。
「で、敵対している魔族に見つかって襲われたところ、あなたと出会ったの。えーと、名前は?」
「レインです。あの、剣士ってことは俺って宮廷で働くことになるんですか?」
「そうね。それも第一王女専属として」
「お、恐ろしい……」
なんて大層な仕事なんだ。
というか、器用貧乏な俺が就いていい職では決して無い。
ちょっと、そこら辺を伝えておくべきだ。
「俺は器用貧乏なだけで、特別強いわけじゃない。事実、仲間からも追い出されたわけで……そんな俺がエレア様――エレアの専属って」
「追い出された……? それって本当なの?」
『追い出された』という単語にやけに食いついてくる。
別に変な話題でもないから、説明することにした。
「ええ……失礼だけど、あなたの元仲間たちって馬鹿だったりする?」
失礼というか、王女様が決して言ってはいけない言葉を放っているのだが。
「馬鹿じゃないと思うけど、何か変なことでも言ったか?」
「変に決まっているじゃない! あなたは器用貧乏じゃないわ! そう、言うならば万能!」
「万能って……というか近い近い」
体をぎゅっと寄せてくるものだから、色々と当たってしまっている。
駄目だ駄目。意識するな。相手は王女様だぞ、下手すれは死刑死刑。
「それほどまでにレインがすごいの! あなた、見た感じ魔法剣士でしょ?」
「そうだけど……」
「私も魔法剣士をやっているの。でも、お父様が用意してくれた相手は弱いし危ないからって拘束はするし」
「あー、だから抜け出したのか。で、俺に訓練相手になって欲しいとかそんなところか」
「うん。それで、帰りの列車に乗ったら上玉を見つけたわけ!」
「そっか。でも本当に俺でいいのか? もっと色んな――」
言葉を紡ごうとすると、指で口を塞いできた。
もごもごと反抗するが、離してくれない。
「謙遜しなくていいの。なんせ、私が選んだ人なんだから!」
うーん。本当に俺でいいのか甚だ疑問ではあるけど、反論しても無駄そうだな。
逆にありがたいと思おう。パーティ探しを飛び越えて王女様専属の訓練相手になれたのだから。
釣り合うかどうかは疑問だけど……。
「あ、着いたわ。降りよ」
「速いな。さすがは列車だ」
と言っても、朝日が顔を覗かせている。
たっぷり徹夜で王女様とお話をしていたわけだ。
なんか、贅沢なことしてるなー。
エレアは再度フードを被って王都を歩く。
まだ街は起きていないが、念のためだろう。
「エレア様!?」
「しっ! 静かに!」
宮廷の門番が驚いた表情でエレアを見るが、すぐに黙らす。
さすがは第一王女。迫力が違う。
多分、自分の部屋へと向かっているのだろう。
バレないように、足音を殺して宮廷内を歩いていた。
「……ここよ。とりあえずお父様への紹介は後で――」
扉を開いた瞬間、俺は男の人と目が合う。
やけに見覚えがあるお顔で……。
「お父様!?」
「エレア!! 心配したんだぞ!!」
そこには、エレアの父親であるイル国王の姿があった。
エレアに抱きついて「大丈夫か!?」と叫んでいる。
……嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
イル国王が俺のことを睨めつけ、静かに言う。
「貴様がエレアを連れ出したのか」
やっぱりそうなりますよねぇ……。
「ち、違います! ええと、その……」
言い淀んでいると、エレアがイル国王の顔を掴んだ。
おいおい、この王女様豪快だな。
「お父様。安心して、彼は私を救ってくれたヒーローよ。そして、これから私の専属魔法剣士兼特訓相手になるの」
「な、何を勝手なことを!」
「レインの実力は本物よ。お父様が用意してくれた人より何倍もすごいんだから。不満なら、今いる最高の魔法剣士を出してちょうだい。レインと戦わせて、彼が勝ったらお父様は黙って私の言う事を聞いて」
本当に豪快だな……。
「……ふむ。しかし、レインとやらが負けたら我は認めん。事実、真夜中に我が国の第一王女と一緒にいたのには違いないからな。罪人として扱うぞ」
「構わないわ」
……え?
今、王女様すごいこと約束しませんでした?
「それじゃあレイン、頑張ってね!」
ものすごい笑顔で、エレアは微笑みかけてきた。
勝ったら無罪。負けたら極刑。
――地獄か?
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