追放された自称器用貧乏、王女様に拾われる
「レイン。器用貧乏なお前はもう必要ないんだよ」
俺は昔から器用貧乏だと言われていた。
どんなことでもそつなくこなし、ある程度の基準値は達成する。
色んな職業を経験し、最終的には魔法剣士に落ち着き、そして『英雄の灯火』というパーティに拾われた。
順調にパーティは快進撃を続け、Sランクになろうとした直後のこと。
「嘘だろ……アルキ?」
俺は、パーティからの追放を言い渡された。
「俺、なにかしたかな? もしそうなら謝る。だから理由を教えてくれないか? な?」
「なにかしただぁ? 何もしていないから追放だって言ってんだよ!」
リーダーであるアルキは酒が注がれたジョッキを投げつけてきた。
どうにか避けるが、仲間にそんなことをされるとは思わなくて動揺してしまう。
「他の皆もそう思っているぞ! なぁ、ビビ、エイル!」
「ええ。あなたは何もしていない。顕著な成果を上げるわけでもなく、ただ平凡なことをしているだけ」
「その通り。我らはもうすぐSランクになる。そんなパーティに特に目立つわけでもない器用貧乏を置く理由がないよね」
「お、お前ら……俺はちゃんと戦ってたし、アシストもしていた! 確かに器用貧乏かもしれないけど、役には立っていたはずだ!」
反論するが、俺に向けられる冷たい視線は変わらない。
その光景を見て、アルキはくつくつと笑う。
「見てみろ。皆、お前なんて器用貧乏な無能だとしか思っていないぞ!」
俺は……努力してきたつもりだった。
器用貧乏なりに、必死に戦って貢献してきたつもりだった。
でも、全部彼らにとっては『特に何もしていない』でしかないのだ。
もう……俺の居場所はここにはない。
「分かった、俺は出ていくよ」
そう言うと、三人はケラケラと笑い始めた。
どうやら俺を酒の肴にしているらしい。
これまでより勢いよく酒を飲み始めていた。
「それでいい! ま、元気にしとけよ。俺たちはSランクパーティとして、最強を目指すからさ!」
俺は椅子から腰を上げ、踵を返す。
笑い声が背後から聞こえるが、聞こえないフリをした。
ギルドから出ると、そんな自分が惨めで涙が溢れる。
悔しい……俺は結局器用貧乏なだけで、なんの役にも立てなかったのだ。
「彼らにはもう、これも必要ないよな」
俺はそう言って、『バフ』を解除した。
瞬間、体が一気に軽くなるのが分かる。
パーティ全員に『全ステータス強化』のバフを常時発動していたのだ。
それから解放されたとなると、魔力の消費も減る。
あらゆる職業を経験してきたからこそできる技……だと思っていたが、器用貧乏なだけ。
そう考えると、自然とため息が溢れた。
「とりあえず、あそこへ行くか」
ずっと、この街にいても悲しいだけだ。
ソロの冒険者となると、色々と依頼を受ける時に不便が生じる。
ともなれば、人が多い場所に行くべきだ。
「王都、か。久しぶりだな」
ビアン王国の王都。
俺はそこに向かうことにした。
時間は夜遅くではあるが、一応魔導列車の終電には間に合うはずだ。
一人、駅へと向かってチケットを購入する。
「隣、すみません」
「ええ」
俺は一人の少女の隣に座った。
フードで顔が見えないが、容姿端麗なのは分かる。
あまり見るのもあれなので、ぼうっと天井を見上げる。
ガタンゴトンと動き出す車内。
このまま無事、王都に到着する。
そう思っていた。
「な、なんだ!?」
列車が急停止し、体が前のめりになる。
――そうだ。隣の少女は!
怪我をしていたら不味いと隣を見るが、そこには誰もいなかった。
どこに行ったのか、なんて思うよりもまず再度衝撃が走る。
「魔族だ!」
「逃げましょう!」
乗客が外を見て慌て始める。
「や、やばい魔力量を感じる――本当に魔族っぽいな……!」
俺は窓から身を乗り出し、剣を引き抜く。
線路の上には、一体の魔族とフードを被った少女の姿があった。
一部の魔族は人間とも仲が良いが、あの魔族は額に魔王軍の紋章がある。
つまりは――敵だ。
「不味い……!」
あんな少女一人で魔族に勝てるわけがない。
気が付いた頃には、俺は駆け出していた。
「あなたは!?」
少女と一瞬目が合うが、俺は止まらない。
どんな理由であれ、相手の魔族は敵対している。
「ああ? 人間が俺様魔族に勝てるとでも――」
『攻撃強化』『切れ味強化』『疾走強化』『爆破属性付与』。
俺は体と剣にあらゆるバフをかけ――
一瞬にして魔族を切り倒した。
討伐を確認した後、俺は剣を収めて少女に駆け寄る。
「君! 魔族相手に一人で立ち向かうだなんて危ないじゃないか!」
すると、少女はフードをめくって顔を露わにする。
あ、あれ……この少女どこかで見たことがあるような……。
「なんていう力なの……いや、今はいいわ」
何か少女がぼそぼそと言っている。
待て待て。やっぱり見覚えがある。
「あなたに命じます」
「え、え……?」
間違いない。
ビアン王国の第一王女――エレア様だ。
「私の専属剣士になりなさい」
王女様は、俺にそんなことを言った。
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