表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと鏡写しの王子たち
94/381

8-3





「ミセル。貴女が優しくて面倒見が良いのは知っているけれどね。まあこれは一般的な話なのだけど、あまり護衛対象に肩入れしすぎるのもどうかと思うのよ。そういうのはいざという時の判断を鈍らせる原因になるというか、自分にとって本当に大切なものは何かって事を見失ってしまう事になりかねないみたいな」


 勉強会中は視線はうるさかったもののお口は静かだったグレーテルだが、帰りの馬車に乗り込むと不満が一気に噴出してしまったようだった。

 めちゃめちゃ早口で話しかけてくる。


「王子殿下の事を言っているんですか? ですが学園長からお願いされた事を考えますと、あのような形でも目や手の届く範囲に置いておくのは合理的だと思うのですが」


 今頃は学園を出て国が用意した宿舎で国が用意した護衛に守られているはずだが、学園にいる間は私たちが気にかけてやらなければならない。

 私たちがというか、私がだが。ビアンカやネラは基本的に私にしか注意を向けていないし、ボンジリは寝ているので。


「それは……わからないでもないけど。でもユールヒェン嬢と競争するとか、そんなチーム戦みたいな事をやって、ことさらに連帯感を植えつけたりする必要とかはないんじゃない?」


「あれは別にそういう意図はありません。ただちょっとユールヒェン様の視線が鬱陶しかったのと、あのままだとルイーゼ様が一緒に二年生になれるかどうかわからない状況でしたので」


「二年生になれない、ってそんなことあるの?」


 留学はあっても留年という文化はないのかもしれない。

 あるいはあってもこれまで誰も該当した事がないのか。

 いずれにしても、制度としてあろうが無かろうが二年生になったときに授業についていけないのではどうしようもないだろう。矯正するなら早い方が良い。というか、学校の授業と言うのは良くも悪くも全学生に対して平等で画一的なものなので、対処が遅すぎると矯正不能になる。


「比喩的なお話です。二年生になっても、授業に全く付いていけないようではそれは果たして立派な二年生と言えるのでしょうか、という」


「ああ、まあ、それはそうね……。ごく稀にだけれど、付いていけずに退学したなんて話も聞くし」


 いきなり退学か。厳しい。

 が、これも仕方がないのかもしれない。

 学園に通う学生の大半は、将来の自分の地位のために勉強をしている。

 そこで結果が残せなければ当然将来にも希望が持てなくなるだろうし、どうしても出来ないのなら早めに見切りをつけて別の職業訓練をした方がいい。

 学園に通うには少なくない額の資金が必要になるが、それが回収できないとしても、芽が出ない努力を続けていても人生を無駄にするだけだ。いわゆる損切りという判断をする事になるが、それなら早ければ早いほどいい。まあ、本人がどうであっても親や家が認めるかとはまた別なのだろうが。


 しかし、クラスが違うので勉強会で少し見ただけではあるが、ルイーゼは地頭(じあたま)はそう悪くないように思えた。

 遅れを取り戻すのは容易ではないしユールヒェン次第ではあるが、多分何とかなるだろう。退学までは考えなくてもいいはずだ。

 ちなみにエドゥアールは普通にスペックが高く、インテリオラより学習の進度が遅れていたようだったがすぐに追いつけそうだった。もしかするといきなり成績上位も狙えるかもしれないレベルだ。容姿も生まれも良い上に頭の出来まで一流とは、天は彼らに何物も与えたもうたらしい。

 とはいえ、彼らの祖国は結社とマルゴーのせいでしっちゃかめっちゃかになってしまっているので、幸福水準とかがあるとしたらそれで差し引きトントンといったところだろうか。


 そう考えると、私もいつかはこの美しさのツケを支払う時が来るのかもしれない。

 いや、そういえばすでに遠足を台無しにされたり挨拶回りを邪魔されたり賢くない者たちに攫われたり色々しているのだった。だいたい全部結社のせいなので、あれの存在こそが私の美しさに対するアンチテーゼということなのかもしれない。

 まあそれは今はいい。


「競争と言うのは手っ取り早くやる気を出させるのに最適な手のひとつですからね。もちろん当人の性格によりますが、今回の当人というのはどちらかというと負けず嫌いのユールヒェン様ですので」


「成績の怪しいルイーゼ嬢をユールヒェン嬢に面倒みさせようってわけね。確かに、指導する指導するとは言っていたけれど、ただ毎日べたべたしてるだけで建設的な何かをしているようにも見えなかったし」


 これで礼儀についても躾けてくれるのなら文句もない。別に最初から文句があったわけでもないが。





 そうしてしばらく、私たちは勉強会をして過ごしていく事になった。


 なお帰りが遅くなることについては母が難色を示していた。やはり王子の護衛などさせるべきではなかったと。

 ただ、私が可愛い顔立ちをした男の子ですよと言うと、ほんの少しだが興味を示した様子だった。

 ここまで来るとなんというか、私の存在そのものが母の中の何かを歪めてしまったようで微妙な罪悪感を覚えないでもない。





 ◇





 王子の護衛と言っても、具体的に何から守るのかに関しては何も言われていなかった。

 インテリオラの王都は治安が良いので、アルカヌムのような特殊能力全振りの異常犯罪組織でもやってこない限りは基本的には安全だ。

 王子がもともと亡命に近い形で留学してきた経緯を考えると、明確に彼の命を狙う者がいるとすれば、それは彼らの母国の人間であろう。


 結社がオキデンス王国にどのくらいの投資をしていたのかはわからないが、もし例の謎スキルをばらまくレベルで投資していたとしたら、王都を守る騎士団では少々心もとない。彼らの実力を私はあまり知らないが、彼らは王都近郊で暗躍していた仮面のオッサンに見事に出し抜かれた前科があるからだ。


 とはいえ、学園が終わった後に普通に騎士団ないし衛兵などで王子の宿舎の護衛をしているという事は、国としてもおそらくそこまで危険視はしていないのだろう。

 そう考えれば、私としてはグレーテルを見守るついでに気にかけておくくらいで十分仕事は果たせそうな感じなので、気楽に勉強会をやっておけばいいわけだ。


 領地を出てからこの方、久しぶりに平和な日々を過ごしている気がする。





 と思っていたのだが、ある時、王子たちと別れて学園から出たところで謎の集団の襲撃を受ける事になった。

 襲ってきたのは見るからに忍者といった風体の輩だった。


 どこか懐かしいような気がしながらも、忍者なんていたのかと少し意外に思った。今世ではそもそもアジア系の顔自体見たことがなかったので、東洋人はいないものだと思っていた。

 いや別に忍者が東洋製だと決まっているわけではないか。前世でも、欧米出身ながら忍者の里で資格を取得した人物とかもいた気がするし。逆に日本人のサンタとかもいた。


 ともかく、襲ってきた忍者たちは錬度も連携も申し分なかった、と思う。戦闘を見る間もなく倒されていたので実際のところはわからない。馬車を守るユージーンたちに鎧袖一触で倒されていたからだ。さすがはマルゴーを代表する傭兵たちである。なんだかんだ言っても普通に強い。

 ただ、この王都にあってそんな『餓狼の牙-1』を相手に襲撃そのものを実行せしめた時点で、何らかの非凡な実力を持っていたのは間違いない。


「ユージーン様。殺してはおりませんよね。どこのどなたか聞いてみたいのですが」


 お守りの乗馬鞭を握りしめながら、馬車から顔を出して聞いてみた。

 グレーテルやディーがやめなさいよと言わんばかりにドレスの袖を引っ張ってくる。


「ああ。……しかしお嬢もなんつうか、だいぶスレてきちまった感じがするな……。出来ればもっとお淑やかでいて欲しかったもんだが」


 ユージーンが鞭を見ながら引き攣った顔で言う。鞭の性能は母から聞いているらしい。

 私としては別に好んでこれを振り回したいわけではなく、ただ練習がしたいだけである。

 街中でやると騎士や衛兵がとんでくるかもしれないので、やるなら屋敷に帰ってからだが。


「そういえば、騎士様や衛兵の方が来ませんでしたね。こんな怪しい方々が王都を、しかも貴族街の学園付近をうろうろしていたら、すぐに通報されてしまうと思うのですが」


「そいつは変装のせいだろうな。こいつら、まるで普通の町人みたいにそこらを歩いていやがったからな。それがいきなり黒ずくめに変身したと思ったらこれだ」


 それでは本当に忍者ではないか。

 なるほど、襲撃を敢行できたのはそのおかげか。


 私が興味津々に見ている前で、ユージーンが倒れた忍者を抱き起そうとし。


「──! しまった! お嬢、頭を下げろ!」


 言われて咄嗟に窓から顔を下げると、直後に轟音が響き渡った。

 轟音は連続して鳴り響き、何度か空気を震わせると唐突に静かになる。


 恐る恐る再び馬車の窓から外を見ると、少々焼け焦げた様子でユージーンがごほごほ咳をしていた。

 手には黒い布の切れ端を握りしめている。

 あれは先ほどまで抱き起そうとしていた忍者の装束の一部だろうか。

 ということはまさか。


「……やられたぜ。まさか自爆しやがるとはな。お嬢、怪我はねえか」


 咄嗟に頭を下げたため、私には怪我はない。

 爆発の衝撃も馬車の窓から多少は入ってきたようだが、マルゴー謹製の馬車はどういうわけか無傷だった。以前も矢を受けても平気だったので、そういうものなのだろう。


「……はい。私もグレーテルもディーも無事です」


 耳を押さえているが、馬車の外に興味を示していなかったグレーテルには怪我ひとつない。

 襲撃を受けたというのにこの落ち着きようである。王族だし慣れているのかもしれない。


「……ユージーン様。これは失態ですよ」


 ディーが私に頬をくっつけて、小さな窓からユージーンを睨みつける。


「わかってる。くそ、マジで最近いいとこねえな……。てか、どいつもこいつも敵が特殊すぎんだよ。なんだよ身代わりだの自爆だの……」


 ユージーンは悪態をつきながら黒い切れ端を投げ捨てた。


 しかしさすがの私も驚きだった。まさか、忍者に襲われるとは。

 しかも死ぬと爆発四散する。


 これは帰ってから対策会議が必要だろう。





青春終了のお知らせ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] また厄介な相手だなぁ
[気になる点] 更新ありがとうございます!! 自爆したってことはそばに居たユージーンは血肉まみれ? [一言] さらっとルイーゼが落第なりして学園を去っても笑えるんですがw
[気になる点] 餓狼の牙-1という表記なんでそりゃ呪われた武器っすよ 多分幸運値下がる系の
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ