22-50
「──こっちは任せて!」
グレーテルが左腕を銀色の光で惑わせ、少し離れたところへ誘導して行った。
あれの相手をしてくれるらしい。
「だあっ! しょうがねえなクソッ!」
ユージーンはそう叫び、ロボの右脚にフィレで馬上突撃を仕掛ける。
ただでさえ馬としては大きめのフィレの上で、槍とかではなく剣で突撃とかちょっとリーチ足りないんじゃないかと思いながら見ていたら、ユージーンは手綱から両手を離し、足のみでフィレの胴を蟹挟みにしてしがみつきながら、大きく上半身を乗り出してすれ違いざまに斬りつけていた。どんな下半身してるんだ。曲芸師か何かか。
しかしその甲斐があったか、ロボの右脚はユージーンを排除すべき敵と判断したようで、さらに追撃を行なった『餓狼の牙』の面々ともどもユージーンを追い掛けて離れて行った。あるいはパントマイムロボの右脚として、同じ曲芸師のユージーンに対抗意識を燃やしたのかもしれない。
「こちらは私たちが!」
ユージーンに対抗意識を燃やしたのはパントマイムロボだけではない。
飛び出したのはヴァラに跨がるユスティアもだ。
彼女は抜き放った剣をロボの左脚に投げつけ、突進をし、ヴァラを操り馬キックを繰り出した。
それは飛んで来ていた左脚への強烈なカウンターになったらしく、こちらも見事に敵対心を稼ぐことに成功していた。
「ちっ。しゃあねえな……!」
そんなユスティアを援護するべく、『悪魔』と『死神』も戦列に参加する。
ユスティアと2人は上手く連携を取り、左脚を翻弄しつつ私たちから距離を取っていった。
剣とか投げつけちゃってどうするのかなと思いながら見ていると、ユスティアは魔素で構成された剣のようなものを生成し、普通に戦っていた。そんな隠し芸あったのか。やはり対抗意識か。
「『……確かに、彼らに短剣を刺したのは僕だ。けれど、だからと言って、お前にこんな風に利用させるためなんかじゃない!』」
バレンシアが狙ったのは頭部。
頭部は唯一アイドルの顔がプリントされていない硬派なデザインだ。
ただ、対するバレンシアはまた何かポエムを呟いている。ここに来て急にそういうお年頃なのかな。
傍に控えていたディーとインベルが何やら私を見てきたので頷いておく。たぶん、バレンシアを手伝いたいとかそういう感じだろう。独りぼっちは寂しいからね。
バレンシアはスカートの中から5本目の短剣を抜き、ディーも同じく短剣を、そしてインベルはドリルをギュンギュン回しながらロボの頭部と戦い始めた。
すると、残されたのは私一人である。
正確にはサクラに跨がり、ネラとビアンカとボンジリもいるわけだが、騎兵という意味では一騎である。
皆頑張っているようだし私も頑張ったほうがいいかなと思ったのだが、右腕はどこかあらぬ方向へ飛んでいったまま帰ってこないし、誰と戦えばいいのだろう。
ふと見ると、パントマイムロボの胴体が寂しげに打ち捨てられている。
一人残った自分自身とどこか重なって見えてしまい、憐憫のような情が湧いてきた。
しかし当初の目的を忘れる訳にはいかない。
ちょうど邪魔な頭部や手足がもがれ、果物で言うところのヘタや皮を取り除いた状態になっている。
今なら美味しくいただけるはずだ。
じゃなかった。クロウの妹を苦しめて生み出された悪しきパントマイムロボは滅ぼさなければならないというのが目的だった。
私はサクラを進ませ、パントマイムロボの胴体部分に近づいた。
「……ですが、ただ滅ぼしてしまうというのも勿体ないですし、やはりここは有効に活用してやるのが狩るものの礼儀というものでしょうか」
となると【G線上のミセリア】では具合が悪い。青い何かを吹き出して死んでしまうだろう。いや、胴体のみのこの状態でまともに生きているのかどうかは不明だが。
これは何となくの感覚なのだが、あの青い何かが漏れてしまうと美味しくなくなってしまう気がするのだ。
「やはり、ありのままを美味しくいただくには……。
こうするのが一番なようですね。まあ、宇宙一美しい私の糧になれるのですから、そういう意味では貴方も宇宙でトップクラスの幸せ者です。【貪り──」
──油断して近づいて来たな! おのれの傲慢を呪いながら死ね!
ロボの胴体が急にぱくりと真ん中から割れた。
見たことがある。中世の拷問器具、アイアン・メイデンにそっくりだ。
そして私とサクラを飲み込まんと迫る。
「──食らうもの】。ごめんなさい。お付き合いしてあげたいのは山々なのですが、これ、途中で止められないんです」
しかし、私から放たれた金色の光がオタ芸・パントマイム・ロボ・アイアン・メイデンを飲み込む方が早かった。
長いな。頭とお尻を取って、オデンでいいか。




