表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと太陽の果実
359/381

22-39





 ティファレト配下の天使たちの魔の手から逃れたザドキエルは、このショートブレッドの2階にある大礼拝室を目指していた。


 超大型魔気コンバータを起動するためだ。


 結局、地下牢に繋いであるベルナデッタに魔気コンバータを作らせる事は出来なかった。

 言葉だけでは埒が明かぬと何度も痛めつけ、時には両足を切り落としたりもしたが、それでもザドキエルに協力しようとはしなかった。その時点では切り落とした両足が後で再生されると知らなかったにも関わらずである。

 全くもって狂気に満ちている。一度作った魔導具をもう一度作れと言っているだけなのに、何がそんなに嫌なのか。

 ザドキエルには理解できなかった。


 魔気コンバータが無いのであれば仕方がない。元々、あれは保険のようなものだった。

 最終的にはかなり強引に迫ってしまったが、無いなら無いでやりようはあるし、本来のザドキエルの主神の計画にはそんなものは盛り込まれていなかった。


 魔気コンバータとは、簡単に言えば大気中の魔素を収集して超濃度に圧縮し、人工的に魔石を生み出す機構である。

 これをゼロから開発し、形にしたベルナデッタという女の才能は恐ろしいものがあるが、この現象自体は他に類が無いものではない。


 そもそも魔素とは、原初の樹が果実たる神々を実らせるため、この惑星に散布した花粉のようなものだ。

 花粉は生命体の意思の力を吸着して循環し、樹に還り、果実に力を溜めていく。

 ある程度果実が育てば、今度は果実が直接魔素から力を得ることが出来るようになる。

 ここまで来ればあとは時間の問題だ。

 中には溜めた力を利用して自らの手足を生み出し、より積極的に意思の力を集めていく果実もあるが、この手足を生み出すために消費する力の量を考えると、ただ待っているのとどちらが良いのかは判断が分かれるところである。


 その手足こそが、天使だ。

 つまり天使という存在には、元々概念的に「魔素、あるいは意思の力を収集する」という能力が備わっているのである。

 まさに、生まれながらの生体魔気コンバータであると言えよう。


 当然、そんな力を直接的に振るってしまえば、天使と言えども収集した膨大な意思の力に飲み込まれ、自我を失ってしまうだろう。

 降臨する主神の核として、物言わぬ巨大な神核の一部と成り果てる。

 それこそ天使にとっては本懐である。否やなどない。


 しかし、もし許されるのであれば、自らを生み出した主神の姿を一目見てみたい。

 いや。


「──見てみたかった、な。しかし、仕方がない。これこそが私が生まれた意味なのだから……」


 レクタングル共和国貴族連盟本部議事堂、通称ショートブレッド。

 これだけの建物であれば、日々のメンテナンスにも相応の手間とコストがかかってしまう。

 ザドキエルは慈悲の教会の教主としてレクタングル共和国の倫理顧問の任についており、その立場を利用して、この建物の整備は教会の息の掛かった業者に発注されていた。


 ベルナデッタの開発した魔気コンバータ。あれは天使であるザドキエルにとっても画期的なアイデアだった。

 と言っても画期的に感じたのはその性能ではなく、魔素を集約する機能を機械的に自動化させる事である。

 これを利用することが出来れば、天使である自分自身を消費せずとも神の降臨は為せるかもしれない。

 そう考え、魔気コンバータの発動時に効率よく効果を発揮出来るよう、メンテナンスにかこつけて建物に細工をしておいたのだ。

 これで、大礼拝室の規定の位置に魔気コンバータを設置さえすれば、建物全体を超大型魔気コンバータへと生まれ変わらせることが出来る、はずだった。


 元々は大会議室だった大礼拝室。

 貴族連盟の常任委員は公爵家当主の4名しかいない。そもそも広い会議室など必要がない。

 大会議室を設計したのは、公爵家のみによって政権が運営されている現状に不満を持つ下位の貴族家のガス抜きをするためだった。

 この大会議室にそうした貴族たちを集め、どうでもいい法案などを審議させたり、四公爵家に対する不満を吐き出させたりするための施設だったらしい。

 時代の流れや代替わりなどによって、いずれはここから上院と下院の二院制へと発展していく未来もあったかもしれない。

 しかし、そんな未来は急成長した慈悲の教会によって飲み込まれてしまった。

 下位貴族のためのガス抜きは、「国民の支持の篤い慈悲の教会は国として保護する」というポーズによって押し流された。ただ、下位貴族にも教会信者は多かったためか、下位貴族たちから抗議が出たりはしなかった。





 大礼拝室に到着したザドキエルは、ホールの前方に安置されているモニュメントに座った。

 浅く緩やかなU字型のモニュメントは慈悲の心を表現しているとされ、この柔らかな曲線が慈悲の奥義だということで毎日祈られているのだが、元々はこうして来るべき日にザドキエルが座るために置いただけのものである。

 ベルナデッタ製魔気コンバータ用のアタッチメントが付けられるよう細工がしてあるので少し尻に食い込む部分もあるが、我慢できないほどではない。


 この大礼拝室が慈悲の教会の信仰の中心であることは広まっているため、ここにはこの数年の間で捧げられた信仰の澱みが渦を巻いている。

 これに加えて魔素に含まれる集合無意識的な意思の力があれば、ザドキエルの神、ケセドを降臨させる事も出来るはずだ。

 この地にばら撒いておいた魔素は全て吸収され、レクタングルは再び不毛の地になってしまうだろうが、ケセド神さえ降臨させられれば後の事はどうでも良い。

 どうせ、その時にはザドキエルはもはやこの世に存在しない。


「……狂いし神、ティファレトめ。南の大陸の魔素を冒険者どもに削らせて、様子を見るつもりだったが……。まさか、自ら乗り込んで来るとはな。

 あのお方からは協力していただけると約束を貰っている。これでケセド神さえ降臨すれば……」


 ザドキエルは暫くの間、そのまま瞑目していたが、やがて覚悟を決め、自らを中心に周囲の魔素を集め始めた。






あれ。何かなろうのレイアウト変わりました?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 変わったんじゃないですかね?
[一言] 上の欄にあったフィードバックみたいなやつが減って、感想とレビューと小説情報の三つに変わりましたね
[一言] >全くもって狂気に満ちている。 拷問で手足切り落とすとかする方も狂気やんけぇ… そうそう本部の名前はショートブレッドだった。前話でブロック栄養食ってまた出てきてアレ元なんだったっけてしばら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ