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即死魔法が好きそうな宗教関係者を撥ね飛ばした馬車は、その勢いのまま連盟本部の玄関に突っ込んだ。
「ていうか、なんで突っ込んだんですかこれ」
「……ボスが人撥ねた方が合理的だとか言ったからじゃないの?」
「言ってませんけど」
「だって地面割った方が合理的だとか頭悪い話してる時に、人撥ねちゃえみたいな事言ってたじゃん」
その言い方だと私が一番頭が悪いように聞こえるのでやめてほしい。
あれは議論の途中に急に進路上に割り込んで来た宗教関係者が悪い。飛び出しはよくない。やはり交通法規は大切だ。
「だからボクが言ってた建物の中に入って普通に階段探す案と、地面破壊して地下室にダイナミックエントリーする案の折衷案として、建物の玄関破壊して階段探すみたいな感じになったんじゃないの? 流れで」
そうなのか。そうなのかな。それ言うほど合理的かな。むしろ両方の案のデメリットだけを寄せ集めたみたいな結論になってるのでは。しかも、緊急対応で議論の余地無くなし崩し的に決定されてしまった感がある。
いや、実際すでに玄関を破壊してブロック栄養食のエントランスにエントリーしてしまっているので他にどうしようもないわけだが。
獣人たちも、政府執行機関の玄関を馬車に破壊されて黙っているほど温厚ではなかったらしく、侵入した馬車はあっという間に警備員らしき者たちに囲まれてしまった。
少し遅れてユージーンとユスティアの騎馬も入ってきたが、彼らもまたどこからかやってきた警備員を引き連れている。
これで私たち、馬車と騎馬は無残にも破壊されたエントランスで完全に包囲された事になる。
「『貴様ら、ここがショートブレッド、連盟本部だと知っての狼藉か!』」
包囲している警備員の中でも特に偉そうな人物がそう叫ぶ。
「ええと、『もちろん、知ってる、ます。私たち、旅芸人。何でも轢きます。ドゾ、よろしく』」
ルーサーが頑張っているが、結果は芳しくない。
警備の人らはルーサーの言葉に緊張を高め、手に持っている槍のような長物を構えた。
見かねたサイラスが馬車の中から「代わろうか」と言っているが、これたぶん今更誰に代わっても大差ないと思う。いや、ルーサーが何か言う前に代わってたら違ったかな。一緒か。玄関とか思い切り破壊しちゃってるし。
「『……どうやら、真面目に話す気はないみたいだね。騒乱目的のテロリストか。しかも、この連盟本部の表玄関を破壊できるほどの力を持っていて、生身で突っ込んで来たのに怪我一つしていない……。
警備の皆さん、退いてください。ここは僕らが』」
そう言いながら偉そうな警備員を押しのけて近づいてきたのは、獣人の中でも比較的人類に近い魔力を内包しているらしい青年たちだった。
「っ!?」
そして馬車の中からその青年たちを見たバレンシアが身を硬くする。
知り合いらしい。
クロウも「あれは……」とか言っているので、もしかしたら獣人の中でも有名人なのかもしれない。
まあまあな顔立ちの若い男性4人組だし、アイドルユニットとかかな。
いや、顔立ちだったらこちらも負けていない。
ここは私とグレーテルとディーとバレンシア、あとついでに『教皇』で5人ユニットを結成して、彼らに対抗したほうがいいだろうか。
あ、そういえば顔で思い出したが。
「グレーテル。馬車ごと建物に突っ込んでいましたが、怪我とかしていませんか?」
「びっくりしたけど、別に平気よ。ていうか今それ聞くの? 何話してるのか全然わからないのだけど、そういう流れの話していたの?」
「ええ。今の彼はグレーテルが怪我をしているかどうかについて言及していました」
「あら。意外と紳士なのかしら──って、ねえ、何か剣とか構えてるのだけど、本当にそういう話をしていたの?」
「『見たとこ人間みてえだが……その魔物にしか見えねえ馬といい、ただの人間じゃねえんだろうな。魔物を使役する技術だなんて、まだ研究どころか取っ掛かりすら掴めてねえはずだ』」
なるほど。サクラは魔物ではなくてちょっと大きめの馬だと思うが、獣人たちは魔物を使役する技術を開発しようとしているようだ。物騒だな。
マルゴーの定義では魔物とは話が通じない事になっているので、使役するという発想はない。
まあ会話の内容はともかく、相手方がこちらをテロリストと見做して強制排除しようとしているのは間違いない。
警備員は誰も彼も一般人以下の能力しか無さそうだが、正面の4人は少し面倒そうだ。
このままでは満足に戦闘も出来ないだろうし、私は皆を促して馬車の外に出すと、足元に渦を生み出して馬車を王都の庭に送った。
「──あいたっ!」
ちょっと巻きでやったせいで御者台に座っていたグレーテルとルーサーがお尻を打ってしまった。
おのれ獣人たちめ。
「『なっ!? なんて美しさだ……』」
現れた私を見てアイドルユニットがどよめいた。
「『……いや、怪しい。いくらなんでも、あれは美しすぎる。御者台に座っていた女くらいならギリギリ有り得ないでもないが、あれは異常だ。おそらく──何らかの魔物だろう』」
美しすぎる、とか初めて言われたな。妙に耳慣れた感じがするけど。
しかし魔物とは失礼な。
どちらかと言うと獣人たちの方が魔物に近いだろうに。話通じないし。
「『確かにな……。あの、馬車を一瞬で消し去った技からしても、到底人間にゃ見えねえ。となると、一緒に降りてきた奴らも魔物か? 御者台のや、騎馬の奴らも』」
「『確かに、あの中心の女ほどではないが、どいつもこいつも顔だけは整ってるな』」
顔だけは整っている、という点についてはアイドルユニットの方々も同じだと思うが。
しかし言われて初めて気がついたが、アイドルユニットはともかくとして、周りの警備員たちと比べると確かに『餓狼の牙』の面々はかなり顔立ちがいいように思う。
これまではそれが普通だと思っていた。
マルゴーでも王都でも、あるいはどこぞの廃砦でも、市民や盗賊たちはだいたいそのレベルの顔立ちだったからだ。
ところがここに来て、沢山の獣人を見て気付いた。
こっちが「普通」なのだ。
今までフツメンだと思っていたユージーンたちは、実はイケメンだったのだ。
というか、インテリオラの人々は皆イケメンなのだ。
つまり、種族的に獣人たちは顔立ちが普通で、人間というのは基本的に顔面偏差値が高めという事になる。
これは何を意味しているのだろう。
単純に種族的な傾向というのなら、獣人たちの美的感覚は獣人たちに合わせたもの、つまり「ちょっと微妙なフツメンの方が好み」となるはずだ。
だとしたら「グレーテルはともかく私は美しすぎる」みたいな事は言わないだろう。「私は美しすぎる」などとは。
一体彼らの美的感覚はどうなってるのかな、と思っていると、いつの間にかアイドルユニットの視線が私を逸れて一ヶ所に集中している事に気付いた。
どこ見てるのかな、と思って視線を追ってみると。
「『……可憐だ……』」
「『くそ……正直言って、ストライクだぜ……』」
「『か、彼女も魔物なのか……? そんな、馬鹿な……いやしかし……』」
「『……この感情……これは一体……』」
そこには、複雑な表情でアイドルユニットを見つめる、バレンシアがいた。
なんだ。
やっぱり獣人の好みは獣人優先じゃないか。
今日はエイプリルフールですね。今年は特に何かをしたりはしませんけど。
あと私の記憶が確かなら、こちらの作品は投稿一周年になるはずです。
一年続けてこられたのもお読みくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。




