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警備隊らしき獣人たちをナイナイしてしまった私たちは、サクラのブレスで遺体などの証拠もナイナイして首都への道を急いだ。
途中、警備隊詰め所のような建物があったが、これは見つけた時点で大きく迂回して避ける事にした。
警備隊も全員が出動したなんて事はないはずだし、あの中にはまだ獣人がいるはずだ。少なくとも事務担当の非戦闘員はいるだろう。
一応、何かしらの情報が得られるまでは隠密行動をするつもりだし、もし見つかってしまったらまたナイナイしなければいけなくなる。建物中を探していちいちナイナイするのは面倒だ。かといって建物ごとナイナイするのは目立ちすぎる。
「……あのさあ。ええと、一個小隊? 一個分隊? まあこの国の軍事単位は知らないけど、それだけの戦闘員をこの世から消しておいて、今更目立ちたくないって何なの? 目立たないわけなくない?」
「ふふ。おかしな『教皇』ですね。今の所、目撃者は全て消しているので目立ってはいませんよ。証拠も消してありますから、何も無かったのと一緒です」
「いやいやいや、消しちゃった警備隊だって上司はいただろうし、家族も友人もいるだろうし、無かった事になんて出来るわけないでしょ。え、マルゴーっていつもこうなの? それともボスだけ?」
あれ、『教皇』は私のことボスって呼んでたかな。
まあいいか。どうせミセリア商会で雇う以外に選択肢ないし。
仕事は何をさせようかな。見た目だけはいいからこのままサンプル被験者を続けさせつつ広報担当とかにしようかな。「当商会の製品を使えば世界一美しい私と並んでもギリ見れるようになります」とか中々斬新なキャッチコピーになるのでは。
「フッ。どうやら理解したようだな」
「そうだ。これが『ミセリア・マルゴー』だ」
『死神』と『悪魔』がシニカルな笑みを浮かべてそう言った。何カッコつけてるの。
「……ああ、なるほど理解。つまりマルゴー家にボスが生まれた時点でこの世はボスのものってことね」
「そういう話は今しておりませんよ。
この世が私のものかどうかは存じませんが、とりあえず言えるのは目撃者も証拠も消したわけですから、警備隊の皆さんはあくまで行方不明であるとしか言いようがないということです。獣人の、ええと、レクタングルでしたか。そのレクタングル政府当局が事態を正確に把握するまで若干のタイムラグが生まれたはずですから、この隙にこっそり移動してしまいましょう」
そう考えていたのだが、当局は警備隊が行方不明になった件を思いの外重く見ていたらしい。
立入禁止区域から首都に向かう道すがら、武装した軍隊とすれ違った。
歩兵の姿は無く、戦車のような無限軌道の装甲車両や、兵員輸送用と思われるトラックなどが列をなして走っていった。
すれ違ったと言っても、道路上ですれ違ったわけではない。
耳の良いサイラスが「聞いたことがない音が近づいてくる」と言うので、ちょっと道から外れて遠くから見ていたのだ。
うちの馬たちは賢いので、見たこともないそれらの光景にも驚くことなく大人しくしていた。
おかげでレクタングル軍に見つかることなく、無事にやり過ごす事が出来た。
とは言え、大型馬車と騎兵が2騎という目立つ集団が軍に見つからないはずがない。
グレーテルの髪がちょっとピカピカしていたので、もしかしたら誤魔化す手伝いをしてくれていたのかもしれない。
「……ねえ、もしかしてあれが魔導車ってやつ?」
「そうだな。魔導車と、魔導戦車もあったようだ」
「魔導戦車というのは魔導車とは違うの?」
「魔導戦車は戦うための魔導車だ。装甲が厚かったり、魔導砲──攻撃用の大型魔導具が据え付けてあったりする。俺が知っているのはもっと大型で量産性がないものだったが……。まあ、数年も経てば改良も進むか……」
ちらりと見えた車体の横には「FF17」とか刻印があった気がする。もう17まで出たのか、と一瞬思ったが、おそらくFF違いだろう。
クロウが知っているのはこのFFシリーズのもっと初期のタイプだという事のようだ。FF4くらいかな。
「確かに、馬なしでも走ってたわね……。しかも結構速いし。馬より速いんじゃないあれ」
「馬より速いかどうかは微妙なところだが、少なくとも馬車よりは速いはずだ」
「すごいじゃない。それって、馬みたいに疲れたりしないの?」
「王女殿下は疲れる魔導具を見たことがあるのか? 俺はないが」
「それって──」
「あの、魔導車はいらない子ですからね?」
「わ、わかってるわよ」
わかってくれているのならいい。
それより、レクタングル軍の動きが異常に早いのが少し気になる。
「……そんなに重要だったんでしょうか。ユージーン様が破壊したあの柵」
「これほどの規模の軍隊だ。即応可能だった部隊を全て振り当てたと考えるのが妥当だろう。ユージーン殿が破壊したあの柵の警報が、それだけの命令を下せるほど軍部の上の方まで届いたとは思えんが」
「となると、ユージーン様が破壊した柵の警報を聞いてやってきた警備隊の皆さんを、ユージーン様が殺害したことがすでに知られてしまった、と考えるのが妥当でしょうか」
「……ねえそれいちいち俺の名前入れる必要ある? 何、全部俺の責任ってこと?」
「いいえ。責任は全て私が取ります。ただ、実行犯がユージーン様だというだけのことです」
「犯って言っちゃってんじゃねえか。あと警備隊一番たくさん殺ってたのお嬢んとこの女騎士だからな。あと馬」
私は馬上のユージーンにはそれ以上答えず、馬車を進ませた。
幸い、軍隊をやり過ごした後は誰とも会わず、レクタングルの首都までたどり着く事が出来た。




