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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと仮面の貴公子
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3-13





 後先考えずに適当な受け答えをしていた過去の自分を引っ(ぱた)いてやりたい。

 いやそんな事をしたら美しいこの顔に痕が残ってしまうかもしれないので、やるなら腹にパンチだろうか。いやいやそれでも美しいお腹に痣が出来てしまうかもしれない。

 やはり物理的制裁はよくない。主に倫理的な観点から。


 まともな美意識を持った者なら、その美しさに(おのの)き私を折檻する事など出来はしない。それがわかっていて未来の自分に丸投げするとは、過去の私はなんと緻密で完璧な策略を立てたのだろうか。その完璧さは美しくさえある。

 美しい策略に嵌ってしまったのなら仕方がない。責任転嫁は諦めて、素直に考え、答えるしかない。


「──聞いているの? ミセル」


「もちろん、聞いております」


 現実逃避はここまでのようだ。

 私は今、グレーテルにユージーン仮面との関係を聞かれて答えに窮しているところだった。


 フランツにルーサーとの関係や森の異変の心当たり、というか異変の原因はオッサン仮面なのでその彼らとの関わりなんかを話す必要もあったのだが、そちらはルーサーに丸投げした。

 今回は特別手当で動いてくれた。

 やはりお金でアウトソーシング出来る部分はどんどんしていくのが正しい貴族のスタイルだ。

 自分で物を考えて解決するというのはエレガントではない。そんな事は得意な誰かに任せておけばいいのだ。


「ほんとに聞いてる? なんか余計なこと考えてる時の目してるんだけど」


 相手が自分をよく知る友人とか、あるいは仕えるべき王族とかでさえなければ、だが。





 ◇





 森の騒動の後。

 ユージーン仮面はコボルトフィッシャーの死体を、そしてフリッツ仮面は簀巻きにしたオッサン仮面改めただのオッサンを引きずりながら去っていった。

 北に向かっていったので、まさかその状態で領地まで帰るのかと思ったが、聞くに聞けずに黙っておいた。結局どうしたのだろう。


 兄は去り際に私に向かってウィンクをした。正体を隠す気があるのか無いのかさっぱりわからない。

 認識阻害の仮面をしていてもそういう仕草をしたという事実はわかるらしく、私の後ろにいたユールヒェンが感極まって卒倒しかけていた。違うから。それ君宛じゃないから。流れ弾だから。


 ユージーン仮面はスーツの上半身が完全に崩壊し、ただの覆面レスラーみたいになっていたが、もう誰も気にしていないようだった。

 今はあんな騒動があったばかりで皆麻痺しているだろうが、それは森の外では通用しない。

 しかも明らかに異常なコボルトフィッシャーの死体を引きずっているのだ。

 先に避難した教師や学生たちも騎士団なり衛兵なりを呼んでいるだろうし、まず間違いなく職務質問を受ける。下手をすれば問答無用で発砲かもしれない。銃は見たことないので飛んでくるのは魔法だろうが。だとすると発法とかになるのだろうか。


 兄やユージーンがマルゴー領に戻るのなら、今回の件は彼らから報告してくれるはずだ。

 私は今回何も悪いことはしていないので怒られる心配はない。

 大きな怪我をした人もいないという話だし、こういう騒動は大変だが、傍観者として見ているだけなら結構面白かった。

 またこういう機会があったら是非観戦したいものだ。


 学園に行って王女と仲良くしろと父に言われた時はどうなることかと思ったものだが、人の多い王都はそれだけで楽しいし、王女グレーテルとも両家の思惑を超えて仲良くなれている。

 おまけにこんなイベントまで定期的に起きるとなれば、やはり都会は刺激的だ。

 私は故郷に何の不満もないが、若者が都会に出たがる気持ちもわかろうというものである。

 もっとも、今世においては一般市民の自由移住は許されていないのでそんな事は容易には出来ないが。各地の領主に納められる税金が減ることになるし、それを容認する領主など居ないからだ。

 今世でもふるさと納税のようなシステムが実装出来ればあるいは移住も容易になるかもしれない。





 今回の野外学習については問題が解決するまで棚上げとなった。

 ある意味では本来学習すべき内容をはるかに凌ぐ密度の経験が積めたと言えなくもないが、カリキュラムの予定もあるしそういうわけにもいかないのだろう。


 危険を見逃した騎士団は責任を追求された。とはいえ王都の治安を守る騎士団の業務を停止させるわけにはいかない。そこで事前の調査の責任者だった部隊長だけが責任を取り、更迭されることになった。


 部隊長は貧乏くじを引かされてしまったわけだ。


 あのオッサン仮面があの森を、ひいては学園の野外学習を狙ってきたのはおそらくルーサーを追っていたからだ。

 まあ、そうだとしても犯罪被害者が悪いという理屈など有り得ないので、悪いのはオッサン仮面でありルーサーには責任はない。

 というか、アングルス領での『餓狼の牙』の行動はすべて私の責任下で行われたことだし、あの場には私もいたので、ある意味ではオッサン仮面は私を追っていたと言えなくもない。


 おまけに調査をした後にテロリストが入り込んでしまったとなれば、完全に騎士団の落ち度だとも言い切れない。

 部隊長が貧乏くじというのはそういう意味だ。

 王族を含めた多数の貴族の子女が危険に晒された以上、誰かが責任を取らなければならない。その槍玉に挙げられてしまったのだ。


 街や民衆の安全を守るという意味では、テロリズムを未然に防げなかった点においてはたしかに騎士団の手落ちではある。

 しかしそれは今回の件の責任とは少々論点が違う。騎士団の運用上の問題点については別個で考えるべきであり、それはこれからの警備計画の見直しなどで対応していってもらいたい。


 何が言いたいかというと、私は更迭されてしまった部隊長を不憫に思ったという事である。


 私はグレーテルを通じて王都の防衛責任者に連絡を取り、部隊長の左遷先をマルゴー領にしてもらえるよう打診した。

 マルゴーには自前の軍隊があるので王都の騎士団関係者は1人もいないが、これからも王家とマルゴー家の関係を維持していくためには、いずれは軍事面での協力も必要になるだろうということで、新たにマルゴー駐在騎士という役職を創設してもらったのだ。


 王都の防衛責任者は「マルゴーに行かせるなんて、いくらなんでも、詰め腹を切らされて左遷される男にそこまで悲惨な仕打ちをするわけには」と渋っていたようだが、打診の出どころが今回被害にあった貴族の子女であると言われると黙って受け入れてくれたという。そこまで怒りを感じておられるのなら仕方がない、と。

 ちょっと何を言っているのかわからなかったが、とりあえず私の望む通りになったので良しとすることにした。


 すでに父には手紙を(したた)めている。

 赴任してくる騎士は、兄が証拠を持ち帰ってしまったために異変の原因が厳密に特定できず、仕方なく首を切られた可愛そうなおじさんなので、どうか優しくしてやってほしい、と。まあ会ったこともないのでおじさんなのかどうか知らないが。


 グレーテルも快く頼みを聞いてくれたし、これで実習の分のカリキュラムの代替授業が終われば万事解決かなと安心していたところで、そのグレーテルに王城に拉致された。


 そして以前からよく使っている彼女の私室に通され、尋問を受けているというわけである。





 ◇





「で、考え事は終わったかしら」


「はい。あ、いいえ。余計なことなど考えておりません」


「……まあいいわ。そんなにその、言いたくない関係なの? あの赤い筋肉仮面とは」


「いいえ、そういう訳でもないのですが……」


 本人は一応正体を隠したがっているだろうに、それを他人が勝手に明かしてしまうのはどうなのか。

 正直、ユージーンとは元雇い主と傭兵という関係でしかないので、そこまで踏み込んで良いものかどうかわからない。


 と、ここで美しい私の脳は閃いた。


 ならば、ユージーンともっと仲の良い人物に丸投げしてしまえばいいのだと。

 アウトソーシング万歳である。

 そういう人材派遣業を今世で営んでやれば、もしかしたらひと山当てられるかもしれない。

 あ、それが現在の傭兵組合か。もうあった。


「……本人たちも隠したがっているようなので言い出せなかったのですが、どうかこのお話はグレーテルの胸の内にだけ秘めておいてくださいね。

 実は、あの赤い仮面の男性はルーサー先生のお友達なのです。

 関係の浅い私の口からその正体を明かしていいものかどうかは判断出来かねますので、どうしてもとおっしゃるならルーサー先生のお口から聞いてもらえませんか?」


「……なんだ、浅いの。だったら別にどうでも……。

 ていうか、やっぱりあいつのお仲間だったんじゃないあの変態。私の【直感】は間違ってなかったってわけね」


「ええ、まあ。結果的にはそうですね。今回はそうでしたが、いつも当たるとは限らないのが勘というものなので、あまりそういうものを基準に言動を決めるのは……」


「勘じゃなくて【直感】だってば」


「べつにどちらでも……なんか今日、ちょっと面倒くさいですねグレーテル」


「私これまで生きてきて貴女より面倒くさい人間に会ったことないんだけど!?」






これで3章終了という感じです。お兄様側のリザルトについてはまたおいおい(未来の自分に丸投げ

明日から4章になりますが、現在その日に書いたものをその日にお出しするという鮮度を優先した執筆を行なっておりますので、どういう話になるか現時点で全く未定です。

今日中には考えて明日書きます。大丈夫です。瑠璃原珠があと34個集まったらきっと書きます。


ところで、お気づきの方も多いかと思いますが、前作の「黄金の経験値」では場面転換には「*」を使っていましたが今作では「◇」を使っています。

「*」を使っていたのは、単に文中に出てくる可能性が極めて稀でありながら、Shift+ワンキーで出せる記号だったからであり深い意味はありませんでした。

今回変更したのは、男の娘が主人公のお話で頻繁に「*」とか出てきたらサブリミナルなナニカで妙な気分になってしまう読者様が出てきてしまったらちょっと困るなという配慮からです。他意はありません。


別に「◇」ではなく「★」とかでもよかったんですが、「★」なら自分で書くのではなく皆様に頂いた方が嬉しいなと思い……

はい、いつものアレですね。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きがwww
[一言] スキルだっていえばいいのに
[良い点] 3章完結おめめめめでとうございます これからも楽しませていただきます [一言] 後書きに書かなかったら誰も気付かなかった説…あると思います * 直感と【直感】の認識の差ですかね 【】が…
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