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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと仮面の貴公子
32/381

3-10





 そう言った後、人影は顔を上げ、月明かりにその顔が照らし出される。


 そこには我が兄が付けているのと似た仮面が付けられていた。


「──えっ」


「──なに?」


 兄と相手の口から同時に声が漏れる。

 どこか飄々としていた相手の態度が一気に硬化し、明らかに警戒した様子に変わった。

 それに応じて兄も神経を張り詰める。


 そしてグレーテルがそっと呟く。


「……認識阻害のバーゲンセールね。どっちがどっちかわかんなくなるわねこれ。ねえ、貴女のお兄様大丈夫なの? 本当に不審人物じゃないの?」


「……あ、相手の仮面にも認識阻害がかかっているんですね。相手の顔には見覚えがありませんし、私の知らない人です。この雰囲気だとお兄様のお友達でもないようですし、一体誰なんでしょうか……。まさか、森の中でこんな仮面をつけて林業を営んでいるなんて事はないでしょうし」


「……林業?」


 私とグレーテルの内緒話をよそに、事態は進む。

 謎の仮面の人物が兄に問いかけた。


「──貴様、その仮面をどこで手に入れた?」


 先ほどは呼び出したとか意味深な事を言っていたが、それよりも兄の仮面の方が重要らしい。

 あるいは興味があるものにすぐ目移りしてしまう落ち着きのない人物という可能性もある。声や物腰から判断するに結構いい歳なのではと思うが、意外と心は少年なのかもしれない。


「この仮面は、その、拾ったのだ!」


 嘘が下手か。

 認識阻害のかかった魔導具は珍しいような事をグレーテルも言っていた。そんなものがそこらに落ちているわけがない。

 私の2人の兄はどちらも超がつくほど優秀だが、どちらもどこか抜けているところがある。

 完璧であるよりも少々の欠点があったほうが可愛げがあるものなので、私は兄のこういうところは嫌いではなかった。

 前世の芸術作品でも、あえて左右非対称に作られているものなどがあったが、たぶんそれと同じ感じのやつである。


「……話す気はない、というわけか。いいだろう。

 ところで、ほんの数年前の事なのだがな。我が同志が任務中に消息を絶った。同志も今俺がしているのと同じ型の仮面を付けていたんだが、遺品はおろか遺体すら戻っては来なかった。この仮面には我々結社の技術力がふんだんに使われていて、他所で作ることは不可能だ。故に、たまたま同じ性能を持っているだけの類似品など有り得ない。

 同志に与えられた任務は、とある辺境の調査だった。貴様が仮面を拾った場所というのは、その辺境の──」


「そ、そんなことより、お前が森に魔物を放った黒幕だな!」


 誤魔化しも下手だった。

 状況から考えてその辺境とやらはマルゴー領の事だろうし、あのまま話されるとフリッツ仮面の正体がバレてしまいかねない。

 なので誤魔化さざるを得ないのは仕方がないとは思うが、ちょっと強引すぎではないだろうか。

 これが兄でなければツッコミを入れていたところだが、兄は欠点以外は完璧なので十分許せる範疇だった。可愛い。


「そんなこと、だと? 俺にとっちゃ、ここで魔物を放った事の方がよほど()()()()()なんだがな。

 まあいい。下っ端の尻拭いでネズミの駆除に来てみたら、思ってもみなかった獲物がひっかかったようなもんだ。こういうのを幸運って言うんだろうな。これも日頃の行ないがいいからだな」


 謎のオッサン仮面はくぐもった笑い声を洩らすと、背後に声を投げた。


「──で、一応確認だ! どいつが作戦の邪魔をしたやつだ? この中にいるのか?」


 すると森の中からひとりの男が顔を出し、ルーサーを見つけると、彼を指差した。

 その男の顔には見覚えがあった。

 あの時、アングルス領で逃がしてしまったあの男だ。


 ということは、この謎のオッサン仮面の言う駆除すべきネズミとは、アングルスで魔物の泉事件を解決した私たちの事だったのだ。

 そしてオッサン仮面とあの男は、ともに「結社」とかいう組織の構成員であるらしい。木こりではなかった。途中からなんとなく違うんだろうなと思ってはいたが。


 普通、国に所属している組織を結社とは呼ばない。

 であれば、もしやオッサン仮面とあの男はメリディエスの軍とは関係がないのだろうか。

 王都のすぐ近くで破壊活動などハラスメントにしては気合が入りすぎではと思っていたが、国が関係していないとなると、彼らがどこに現れてもおかしくないという事になる。


 どうしよう。

 アングルスの件を片付けた際に、ギルバートに「たぶんメリディエスの兵だと思います」とか言ってしまった気がする。

 そしてその報告を元に対応を協議するとか言っていたような、言っていなかったような。

 これはもしや、やらかしたのでは。

 いや、ひょっとしたら「メリディエス王国結婚推進社会福祉小委員会、略して結社」とかだったりしないだろうか。するかもしれない。ワンチャンある。


 私のそんな内心はともかく、オッサン仮面は物騒な話を続けている。


「そうか、そいつが……。よしわかった。じゃあそいつと、あと仮面の男には聞きたい事があるから生かしておくとしよう。手足は潰すがな。それ以外の連中には用はない。全員死んでもらう」


「……え、俺は? 俺はどっちなんだ?」


 ユージーン仮面が困惑したように自分の顔を指差していた。

 確かに、仮面の男というならユージーンもそうだ。仮面というか仮装の方が近い気もするが。

 謎のオッサン仮面は知る由もないだろうが、ユージーンは実のところルーサーと同じ証人でもある。本来は手足を潰して生かしておいてもらえる側なのだが、それを言ってしまっては正体もバレてしまう。

 だから困惑しているのだろう。


「す、すみません。後はお願いします!」


 森から顔を出していた男が再び暗闇に引っ込もうとしたその時、謎のオッサン仮面は彼を捕まえて森から引きずり出した。

 なぜ。

 仲間ではなかったのか。

 私の疑問と同じ困惑を、引きずり出された男も顔に浮かべている。


「俺は確かに、貴様の尻拭いをするとは言ったがな……。それも貴様が、きちんとクソを全部出し切ってからの話だ!」


 表現が美しくない。

 思わず顔をしかめる私の前で、オッサン仮面は男を魔物の泉に蹴り込んだ。


「──ぇっ」


 男が渦に吸い込まれるように消えていく。

 どちらがどちらかはわからないが、前回の事を考えるとあれがおそらく入力側の──





 ──ゥウオオオオオオオーン……!





 呆然と事態を見守る私たちの前で、もうひとつの泉の奥から獣の遠吠えのようなものが聞こえてきた。


 その遠吠えを追いかけるかのように、泉の中から太い腕が現れる。


 その腕は毛皮と筋肉に覆われており、すぐ側に立つオッサン仮面の腰よりも太い。

 明らかに腕一本が通り抜けるのが精いっぱいと思われた泉の渦だが、中から強引にもう一本の腕が現れ、泉をこじ開けるように広げていった。

 泉は本当に瘴気が渦巻いているだけといった見た目で、とても物理的に触れられるような物には思えないのだが、中からならそうでもないのだろうか。


 こじ開けられた泉の中心には中を覗きこめそうな穴が開いてしまっているが、見ようと思ってもマーブル模様の謎空間に満たされているだけでまったく様子が分からない。突きだしている二本の腕もどこからどうやって出ているのかはっきりとしない。


 そんな謎空間の中から、咆哮と共に獣の首が飛び出した。

 さらに首に続き、肩も、胴も、そしてついには全身も顕現する。

 二本の腕で泉をこじ開けながら、ゆっくりと全貌を現したそれは、二足歩行の巨大な──プードルだった。


 しかしその形相は恐ろしく、もう何人も飼い主を食ってやったと言わんばかりの(かお)をしている。

 腕同様に首も筋肉に覆われ、比喩ではなく丸太のような太さをしている。

 これが泉に蹴り込まれた男の成れの果てだろうことは明らかだが、前回のゴブリンリーダーの時のような、人間だった頃の面影はまったくない。いや強いて言うなら犬種がプードルなのが面影なのかもしれないが。


「──ちっ。クソは所詮クソか。フィッシャーとはな。せめてソルジャーかリーダーくらいなら俺も少しは楽が出来たんだが。実家は漁師かなんかだったのか? まあいい。賑やかしにはなるか」


「コ、コボルトフィッシャーだと!? この威圧感で!? 馬鹿な……ジェネラルかキングクラスの迫力はあるぞ……」


 フランツが冷や汗を流し、震える声で言う。


 コボルトはゴブリンよりも少しだけ賢い魔物だ。戦闘が得意でない個体は人間や他の魔物を襲う事はなく、水辺で魚を獲ったりして暮らしている者もいる。そういう種はコボルトフィッシャーと呼ばれている。

 種族的に別のものなのか、それとも同種内での個体差なのかは不明だが、フィッシャーに分類されるコボルトは皆あのようなプードル顔をしているらしい。ここは授業でやった。

 見た目で強さがわかりやすいので、コボルトはゴブリンよりも賢いものの、戦いやすい魔物だと言われている。


 キングクラスの最弱種。

 前回の強ゴブリンもそういう存在だったのかもしれない。

 人間を泉に通せば、極度に強化された変異モンスターを生み出す事が出来る。出来てしまう。

 そういう事なのだろうか。

 魔物の研究が進んでいるらしい我がマルゴー領も──もしかしたら、同じことが出来てしまうのだろうか。


「──さて。所詮は低級魔物のこいつが俺の命令をきちんと聞いてくれるかどうかはわからん。だから殺されちまわないように、貴様と貴様は俺が直接相手をしてやるよ。

 他の連中は犬の餌だ。命尽きるまで、せいぜいそのまま震えてろ」


 オッサン仮面が剣を抜き、フリッツ仮面に向けた。

 フリッツ仮面とユージーン仮面も身構える。

 と、ここで気付いたのだが2人とも素手だ。武器の類は携帯していない。

 格好があまりに異常すぎてこれまで違和感に気付かなかった。

 兄は本来魔法剣士だし、ユージーンも剣を使う前衛の戦士だ。


 明らかな強キャラムーブをかますオッサン仮面と強化プードルを相手に、そんな装備で大丈夫なのか。






ストックが切れましたので、もし明日更新されてたら「おっ頑張ったな」と思ってやってください。

盆暮れ正月以外は休まず更新することについては定評がある(多分)ので、多分何とかするとは思いますが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シリアスキラーなお嬢のお陰で?安心して続きを待てます。 それにしても仮面の出所w 敵仮面の芝居掛かった登場シーンが台無しに
[一言] 大丈夫か?
[良い点] 非人道的な技術に憤るお嬢。本当にいい子なんだな。ちょっと変な子だけど。 [一言] 事件が佳境に入って凄く続きが気になりますが、無理せず体に気を付けて執筆してください。
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