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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーとメリディエス王国関連団体(仮)
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20-29





 数日間走り続け、『死神』と『悪魔』は再びメリディエス王都の土を踏んだ。

 これも普通の人間では不可能というか、「決して疲れず休息も必要としない早馬」などというものが存在すればあるいは可能であろうか、という驚異的な速度なのだが、特に誰も褒めてはくれない。


 まだミセリア商会に慣れていない者であれば、雇い主であるミセリアに申し出ればその分の能力給が貰える、と考えるかもしれない。

 しかし、この世のあらゆる評価というのは全て相対的なものである。

 職員同士で評価し合うシステムが確立されているミセリア商会においてもそれは同様で、つまり彼らの評価を行なうのは同じく彼ら自身であるということだ。

 『死神』も『悪魔』も、またアマンダも皆同じように走ることが出来るのであれば、それは決定的なアピールポイントにはならないのである。というか、アマンダは肉体能力超特化型の性能をしているので、純粋なスペック比べにアマンダを混ぜてしまうと自動的に『死神』と『悪魔』の評価が下がる。特に『悪魔』は身体の調子が異常に良くなってから日が浅いので分が悪い。

 まあ彼らの給料はインテリオラの一般的な水準よりもかなり上にあるので、身体能力も含めた実力がすでに基本給に盛り込まれていると言えなくもない。


 もちろん、雇い主のミセリアが想定していた時間よりも早く仕事が終わらせられればそれがボーナスに繋がる事もある。

 しかし今回に関しては『正義』らの救出は『死神』が提言したものであり、ミセリアも「急いでもゆっくりでもどちらでもいい」という趣旨の発言をしていた。時間短縮によるボーナスはおそらく見込めない。


「『正義』たちは王城にいるんだったか。お前、確か騎士団が作戦を終えた心の緩みを突いて潜入したとか言ってたよな。今更入れるのか? メリディエスとは言え、一応王城だぞ」


「心配いらん。前回侵入した際に一部扉を破壊しておいた場所がある」


 『死神』の先導で城へ侵入し、そろりそろりと人気のない通路を歩く。

 彼が破壊した扉というのは普段使われることのない通用口らしく、周辺に人は居なかった。

 閂止めの両開きの扉だったのだが、『死神』が破壊したのは扉の蝶番だ。

 いかに使わない通用口とはいえ戸締まりくらいは確認するはずだが、しかし使わないのなら戸締まりくらいしか確認はしない。閂が下りていればそれで締まっていると判断するのが普通であり、蝶番が壊れているかどうかなどいちいち気にはしない。

 そして蝶番が壊れているのなら、閂が下りていようが鍵がかかっていようが扉など立てかけられた板に過ぎない。


 『正義』が捕らえられている牢というのは地下にあるらしく、やがてそこへ降りる階段までやってきた。

 さすがにそこには見張りが居たが、『死神』も『悪魔』も元は結社の幹部工作員である。()()()()()()()など何の障害にもならない。

 結社仕込みの催眠で見張りを惑わし、するりと地下へと潜り込む。

 見張りたちもミセリアの白い霧を吸っていた場合、『死神』らの拙い催眠は通用しない可能性もあったが、どうやら下っ端の騎士たちまで汚染されているわけではないらしい。無駄に殺さずに済んでよかった。


「……『審判』たちは、『正義』のところにゃもう居ねえのか?」


「……俺が知るか。だがもし地下に居るのだとしたら、見張りはあの程度ではないはずだ。居ないと見ていいだろう」


「……居たらどうすんだよ」


「……片腕を切り落とし、ボスのところへ持っていく」


「……わかったよ。もう言わねえから当てつけみたいな事言うなよ」





 見張りは地下へと降りる入口だけらしく、牢番のようなものは居なかった。

 あるいは階段の外に居た騎士たちこそが牢番であったが、地下牢の主と同じ空間にいたくなかったから階段の外に控えていたのかもしれない。


 そう思わせるほど、牢周辺の雰囲気は異様だった。


「……霧……炎……霧……炎……霧……炎……」


 薄暗い中、女にしては低めの掠れ声が石壁に反響し、まるで地の底から響いてくるかのように感じられる。


「……うるさい……しゃべるなよお前……くそ、頭がおかしくなりそうだ……」


 それに紛れて少年らしき声も聞こえる。

 少年は女に話しかけているようにも聞こえるが、女の方はひたすらに「霧」と「炎」という単語を繰り返しているだけで会話になっていない。

 言わずと知れた、『正義』と『教皇』である。


 なるほど確かに『死神』が言った通り、『正義』の様子は尋常ではない。尋問しても埒が明かぬとばかりに地下牢に打ち捨てられているのもわかる。

 一方で『教皇』は、自分で「頭がおかしくなりそう」と言っているのが確かならばまだまともであるのだろう。しかし『皇帝』の話では、『教皇』は聖シェキナ神国から逃げてきたところを拾っただけであり、残党グループに合流したのは最後であったという。慎重な『皇帝』らしく、そんな『教皇』の事は『正義』を見張りに付けるくらいには信用していなかったようなので、それもあって『審判』たちは「尋問の価値なし」と判断したのだろう。『教皇』が合流した頃ならばまだ『審判』たちも霧を吸ってはいなかったはずだ。


 聖シェキナ神国と言えば、割と最近『死神』たちも赴いていたところである。

 リザードマンに似た謎の知的種族による侵略を受けていたが、最終的にミセリアが力技で解決していた。

 『教皇』がどのタイミングで国のどこに居たのかは知らないが、生きてこうしているのなら運が良かった方なのだろう。少々同情しなくもない。


「……あれが『正義』だ」


「いや、言われんでもわかるわ。まあ確かに、異常な状態っちゃ異常な状態だな。昔俺たちがマルゴーの地下牢に繋がれてた時よりは随分マシな待遇に見えるから、あんま悲惨って感じはしねえけど」


「……あの時の俺たちには、まだ軽口を叩く精神的余裕があった。だが、今の『正義』には……自我すらあるか怪しいところだ」


「……そう言われると、まあ……。そうかもな。こいつらも、自分で選んで行動した結果こうなってるって意味じゃ自業自得なのかもしれねえが、まさか知らねえうちにボスと敵対して事故で精神が崩壊する事になるなんざ思ってもみなかっただろうしな……」


 牢の作りは単純で、鍵を破壊すればすぐに外に出してやる事ができそうだった。

 鉄製の頑丈な鍵だったが、『悪魔』の手にかかれば大した障害でもない。


「……『ちょっと魔道士殺し(プチアルマロス)』」


 ナイフ状の魔法防御貫通の刃を作り出し、鍵を細切れにする。仮に何らかの魔法的な保護がかけられていたとしても、この刃の前では無力である。


「さて。じゃあとっとと『正義』を攫ってトンズラしますかね」


 『死神』が牢に入っていく。

 すると、隣の牢から叫び声が聞こえた。


「──何だ! おい! そいつをどこかに連れて行くのか!? だ、だったらボクも連れて行け!」


 どうする、と『死神』を見ると、首を横に振られた。

 まともな奴は連れて行かない、ということらしい。ただ牢に繋がれているというだけでは『死神』の同情は引けないようだ。


「わりいな。残念だが──」


「待て! お、お前! お前……『悪魔』だろ! 今のスキル、それにその話し方! 覚えがあるぞ!」


「──『死神』。わりいが、こいつも助けちゃやれねえか?」







お前……! 俺のこと、覚えて──

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― 新着の感想 ―
[良い点] となると悪魔お前ほんまに悪魔本人じゃないと否定されたから腕切り落としたんかww
[一言] 悪魔、そんなに嬉しかったのか…
[一言] 『悪魔』お前…実は結構気にしてたんだな。
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