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「──ふう。まるで拘束具でも付けられているかのような、とは言ったが……。やはりこれは、拘束具のようなものだったようだな。人間どもは何故こんなものを好き好んで着ているのか……。理解に苦しむ」
全裸になった生徒会長、いやイェソドは恍惚とした表情でそう呟いた。
いや、理解に苦しんでいるのはこちらの方なのだが。
なんだこいつは。露出狂なのか。
あるいはイェソドが言うように、生徒会長が着ていた服が本当に拘束具だったのか。
これ、どっちなんだろう。
イェソドが露出狂なのか、それとも生徒会長が被虐嗜好なのか。
後者の場合、頭をぶん殴った程度では治らないかも知れない。むしろ殴ってもご褒美になってしまって、何の矯正効果も発揮しない恐れすらある。
いや、そもそもぶん殴るのは様子がおかしい生徒会長を元に戻すためであり、それはおそらくイェソドの影響下にあったせいだと思われる。
だとすれば、地上に降りてきて生徒会長に憑いているイェソドを何とかすればいいわけで、仮に生徒会長がドMでもイェソドがドMでないのなら問題無いはずだ。
「……生徒会長……。まさか、露出狂だったなんて……」
グレーテルの呟きが聞こえた。
あ、やっぱ問題無くないなこれ。
ていうかグレーテルは彼を生徒会長本人だと思っているのか。まあそりゃそうか。
だとするとグレーテルにとって、この生徒会長は王女と辺境伯の娘に大魔法で攻撃して身体を火照らせ、その後服を脱いで全裸になるという奇行をしたことになる。
まずいな。どう罪を軽く見積もっても死刑が妥当だ。
どうする。
生徒会長を殴って治すのは確定だとして、その前にグレーテルを殴って記憶を飛ばすべきだろうか。
いや、それは別に後で出来るか。先にやる必要はない。
やはり、まずはイェソドの排除だ。
「ははは! これはいいな! これならば、急拵えの依代でもそれなりに動ける!」
全ての服を脱ぎ去ったイェソドは宙に浮いたまま、上下左右に動き回って身体の調子を確かめている。
その度にその、なんだ、随意筋に制御されていない部位がぶるんぶるんと暴れまわっている。そう、ええと、髪の毛とか。
「……ハタから見たらあんなふうに動いているのね」
ハタからじゃなければ見たことあるのかな。あんなふうに動くのを。
風呂場で体操でもしているのだろうか。それならわかる。私もしてるし。
「幻惑の効きが悪いのなら、物理で決着を付けるまでよ!」
ぶるんぶるん体操をやめたイェソドが、貫手を構えて突っ込んできた。
しかし、幻惑とかいう攻撃なのか曲芸なのかわからない行動と違い、明確に攻撃を仕掛けてくるなら私の護衛が黙っていない。
速度の乗ったイェソドの貫手は私の足元から跳び上がったビアンカが白刃取りの要領で止めて見せた。
「──なにぃ!?」
そしてその時にはすでに、裸の生徒会長の背後にネラが張り付いていた。
「ぐっ!? だが!」
ネラの一閃はしかし、生徒会長の首の皮一枚を斬っただけで終わってしまったようだ。
瞬時に銀色の光が生徒会長の首に集まり、ネラの爪を防いでいた。
いや、ちょっと待って。
それ通ってたら生徒会長もろとも死んでいたのでは。
中身はともかく、身体はなるべく傷付けないようにと伝えておくべきだったか。
しかし不意打ちでネラが仕損じたのは私が知る限り初めてだ。
これはネラにとって非常に遺憾な事態だったらしく、生徒会長の背中に乗ったまま猫目が細くなっていく。
いやいや、ちょっと待ってって。ストップ。
慌ててそう念じると、ネラはちらりと私を見た後、不満げな表情で音もなく生徒会長の背中から消えた。
ただ、不満であったのはネラだけでなく生徒会長も同じらしい。
彼は首筋に手をやると、そこに付いた血を見て怒りを漲らせた。
「──クソ、こうも簡単に傷を負わされるとは……! やはり、この程度の依代では……!」
言いにくいのだけど、たぶん服着てないからだと思います。
襟とかあったら防げていたのではないだろうか。
「もっと、この地に愛され、かつ長く魔素を浴び続けた血、その系譜があれば……」
そんな事をぼやいている。
自分が有利だと思っていたときは景気よく喋っていたのだが、何かに躓くと全部人のせいなのか。別にいいけど。
しかし、先ほど彼が自分自身で言っていたように、この星は元々持っていた緑の光を赤い光に抑えこまれた状態にある。
緑の光がこの地のエネルギーだとすれば、それに愛されつつも魔素にも親和性がある血なんて、あるはずがない。
まあ、魔素がこの地に蔓延するよりも古くから血を繋いでいるような血統とかなら、ワンチャン可能性が無くもないかも知れないが。
文句ばかりのイェソドだったが、接近戦のために私の近くまで来たことで、私の後ろに居たグレーテルに気がついたらしい。
急に目を見開いてグレーテルに熱い視線を送り始めた。
なんだ、私には全くそんな素振りは見せなかったのに。
好みの問題なのかな。私のプラチナブロンドより、グレーテルの薄紅珊瑚色の髪の方がいいとか。
「──この感じ……貴様……。そうか、インテリオラの王族か! それに、常に二番手に甘んじ、あの女神の背中を見ることしか出来ないもどかしい感情……! いいぞ、私の新たな依代にぴったりだ!
しかし、魔イナスイオ素が異常に濃いな……! が、今の時間ならば!」
すごい失礼なこと言ってる。
確かにグレーテルは私が居る限りは永遠に二番目か三番目だが、お前は二番ですらないだろうに。
あと、時間が何か関係あるのか。
そういえば、巨大な月もさっきより少し高くなっている気がする。
「さすがに、奴ほど異常に強固な自我は持っていまい! 【狂気侵犯】!」
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
侵犯じゃなくて夜明けとか開放とかにしようかとも思ったのですが、
ルナティック夜明けはそういうタイトルのゲームが昔あったし、開放でパンドラにしようにもそういう建造物がどっかのゲームにあったなと思ったのでやめました(
ゲイムギョウ界は狂気に満ちてるな……




