19-11
「──あの、他にももうひとつ、たいへん大きな違いがあると思うのですけれど」
一向に建設的な方向に進まない私たちの話に、ユリアが一石を投じた。
「フィーニス君は一応男性ということで学園に通っているのですわよね? そこが最も大きな違いなのではないかしら」
確かに。
最近はもう、個人の性別というものはほんの些細な問題であるかのように思えてしまうというか、そういえばそんな設定あったなというか、とにかく軽視しがちになってしまっていたが、ユリアが言う通り、ここに集まっているメンバーは大半が女性の格好をしており、フィーニスだけが男性の格好をしているのだった。
人は慣れる生き物だと言うが、まさにその通りだ。
私にはそんな記憶がないのだが、聞くところによれば海外から飛行機でやってきて日本の空港に降り立つと、空気が何となく醤油っぽい匂いがするのだという。同様に、世界各国にはそれぞれの国の固有の香りがあるそうだ。
そこに住んでいる人たちは当然普段はそんな匂いを感じることはないし、おそらく日本人だった私も醤油を意識したことはない。
しかし、その香りは確かに存在している。
それと同じだ。
どうやら私は女装の匂いに慣れすぎて、性別という普通ならアイデンティティの核にもなりうるファクターさえも忘れてしまっていたらしい。女装の匂いってなんだ。
「とおっしゃいますと、つまり此度の噂は男性の方により広がりやすく、女性にはあまり広がっていない、という事でしょうか」
「……それハ盲点でシタ。確かにワタシが聞いたのハ、女性の従者の方たちばかりデス」
「僕が聞いたのは男の子ばっかりでしたね。女の子に話しかけようとすると何故か逃げられてしまいますし」
でしょうね。
「なら、そういうことに、なる、のかしら……? でも──」
グレーテルが私を見る。
次いで、ジジとドゥドゥにも視線を向ける。
そう、性別によって差があるというのなら、私たちは生物学的には間違いなく男性のはずだ。
いや、それを言うのならフィーニスだって元々女性である。
というか、一年生を調べたバレンシアも本来は男性だし、そうなると男性の方に広まりにくく、女性の方に広まりやすいということなのか。
しかし三年生を調べたユリアたち3人はれっきとした女性だ。彼女たちの話では、噂はそれほど広まっていないという事だった。
ユリアたちは女性、のはず、だよね。
いや、もしかして私が知らないだけで、ユリアたちも本当は──いやいや、そんな馬鹿な。
しかし、可能性はゼロではない。
私はユリアの顔をじっと見た。
これがまさか、男だとでも言うのか。信じられない。
いや、私の方が美しいし、私の方が女らしいのだが。
「……ちょっと、何を見ていますの。私の顔に何か付いてまして?」
「いえ、特には。何か付いているのか気になっているのは顔ではなくて──」
「ちょおい! お待ちなさいミセル!」
「ひっ!」
グレーテルが急に大声を出す。
「あっはい」
ユリアがびっくりしてしまったが、私はおかげで冷静になれた。
危ないところだった。
エーファやヘレーネも何事かとグレーテルを見ている。そりゃ、何事かと思いますよね。
「ええと、い、いえ、今のは間違いで──そう! ミセルじゃなくてフィーニスだったわ! ちょっとお待ちなさいフィーニス! 貴方ね、そんな仮面なんて付けてたらまともに話してもらえるはずがないでしょう! 女の子を何だと思っているの!」
「え? わた、僕? いや、何だと思っているのとか言われても!」
フィーニスは困惑している。
まあ困惑もするだろう。何しろフィーニスは女の子だ。
ていうか、問いかけているグレーテルの方が女の子ではなく男の娘である。どういう気持ちでこれ言ってるのかな。
なんかいよいよ収拾がつかなくなってきた。
グレーテルとフィーニスがじゃれ合っている隙に落ち着いて考えよう。ちょっと混乱してきた。
まず、噂を積極的に広めている黒幕はわかっていない。
これは私に近いところに居る人物には噂自体があまり広められていないせいだ。
ただ、学園でも街でも薄くはあっても広範囲に浸透しているらしい事を考えると、黒幕は1人というより組織的なものか、あるいは自然に広まっているだけなのかもしれない。自然に広まっているにしては随分としつこいが。
次に、噂の広まりについては家庭の経済状況によってばらつきがあるらしいこと。
これは確定しているわけではないが、因果関係が全くないとは言い切れない程度には統計が取れつつある。
学園には貴族以外でも比較的裕福な家の子供しか通わないのでわかりづらいが、『死神』たちに調べてもらった街の様子からするとやはりその傾向が強い。
最後に、性別の差によってもばらつきがあること。
これは確定情報ではないというか、フィーニスの格好が怪しすぎるからという理由も十分有り得るのではっきりした事は言えない。
ただ、もし仮に性別によって差があるのだとしたら、それはおそらく見かけの性別だろう。
女性よりも男性に積極的に噂を流した方が目的に近づけるということだろうか。
インテリオラの国王陛下は男性だし、行政の上層部にも男性が多い。上層部にマルゴーの悪評を流そうとするなら男性を狙ったほうが効率はいいのかもしれない。
しかし、王族は言うまでもなく、行政の上層部に勤める人間であれば相応の給料は貰っているし、相応の生活水準は持っている。経済状況があまり良くない市民を中心に噂を蔓延させても効果は薄い。
インテリオラは絶対王政や貴族政と言われるほど血筋にこだわった政治形態をしているわけではないが、それでもやはり、話題や流行はトップダウン型の広まりを見せる傾向にある。市井で流行っているから上流階級も気になっていく、というようなボトムアップ型の文化は成熟していない。
王侯貴族は庶民の噂など気にも留めないだろう。
整理してまとめてみたが、謎は深まるばかりである。
私の混乱は収まりそうになかった。
いやー。サンタクロースっているんですね。
とんだサプライズプレゼントがありましたよ。
自室のドアノブが壊れて部屋から出られなくなりました。
最終的に部屋で筋トレしてSTRを高め、ドアノブを完全に破壊することで脱出に成功しました。
自室にダンベル置いておいてよかった(*‘ω‘ *)
やはり筋肉……筋肉はすべてを解決する……
もし、この先サンタクロースに会うことがあったら、何をするかわかりません(




