19-9
いずれにしても、不自然な噂の広がり方から言って、何らかの企みをしている黒幕が存在しているのは間違いない。
そいつをどうにかしなければ、噂の燃料が切れる事はないし、噂が消える事もないだろう。
しかし、やりたいこととやっていることが理解不能な上、一部を除いたマルゴー関係者には全く尻尾を掴ませないとなると、さすがに黒幕を特定するのは難しい。
その除かれた一部というのがよりにもよってフィーニスというのも頭が痛い。何なら最後まで除いて欲しくなかった一部だ。本当に一体何を考えたらあのフィーニスだけがマルゴー関係者から漏れるというのか。どう見てもアレよりマルゴーらしい関係者も居なかろうに。いやそれはそれで複雑だけど。
数日間、そんな事ばかりを考えていたせいか、クラスメイトにも心配されてしまった。
そのクラスメイトだが、催事運営委員会は仲良くリストラされてしまったものの、その事自体に特に思うところはないようだった。
むしろ、あのまま続けるのだとしたら、下手をすれば自分たちの卒業パーティも自分たちで企画運営する事になるのではと戦々恐々としていたらしい。
このタイミングで解散したのはむしろ良かったと言えるだろう。
真面目なエーファやドゥドゥあたりは後任や引き継ぎについて気にしていたが、後任なんて決まっていないし、引き継ぐ相手がそもそもいない。それに私が生徒会長に言った通り、実務能力を疑われてのリストラなので、引き継ぐようなノウハウも無い、事になっている。別に放っておけばいい話だ。
それに私たちから引き継ぐにしろ、私たちが手を出す前に戻すにしろ、どうせ学園が発注するのはグスタフ興業だ。どうとでもフォローは出来る。
すでにリストラされてしまった身であるし、フォローなんて本来ならばしてやる義理はない。
しかし、新催事運営委員会がヘマをしようが生徒会がヘマをしようが、最終的にその被害を被るのは罪もない学生たちなのだ。
それはさすがに、よろしくない。
というか、イベントを何もしなかった場合最短で被害を被るのは卒業パーティでの私たちなので、フォローせざるを得ないというか。
人というのは誰しも、自分が一番可愛いものなのだ。特に私。そう、私が一番可愛い。あれ、何の話してたんだったかな。
「──王城にはそんな噂は聞こえてきていないわよ。まあ私が知る限りではだけれど。王家はマルゴーと関係を強めようとしているところだから、忖度でもされているのかしら」
そう、クラスメイトに心配されていた話だった。
「タベルナリウス商会にも、そしておそらく商人ギルドにも聞こえてきてはおりませんわね。
……マルゴーに忖度してウチへの情報を遮断していると判断するのは、いささか腑に落ちないでもありませんが」
グレーテルとユリアでもそれとなく聞き込んでくれたらしい。
しかし王家に忖度していたとしても、王城は別に王家の自宅というだけではない。
あそこはインテリオラ王国の行政府である。王城に勤めているものは、もちろん王家に対して忠誠を捧げているという建前ではあるが、そういう事情とは関係なくインテリオラ王国の運営を円滑に行なうために必要な人材が集められているのだ。
それに建前通りに王家に忠誠を捧げているのであれば、マルゴーの悪い噂は真っ先に知らせて然るべきだろう。
そうであれば、中央からは遠ざけられているとはいえ王女のグレーテルの耳に全く入らないというのは考えづらい。
同じ事が商人ギルドにも言える。
タベルナリウス商会単体であれば、百歩譲ってそういう事もあるかもしれない。
しかし以前のギルド理事長交代劇でも分かる通り、商人ギルドも一枚岩ではない。主流は握ったとはいえ、タベルナリウス侯爵や私に否定的なイメージを持つ理事や商会長もギルド内にはいるはずだ。
そうした勢力がもしマルゴー家についての否定的な噂を耳にすれば、露骨にならない程度に気をつけつつも噂を広めるような動きをしてもおかしくないだろう。
これはどういうことだろう。
王城に勤める職員や商人ギルドの関係者が噂についてあまり知らないという事は、普通に考えれば噂を流す方が意図して彼らを避けているという事になる。
だとすれば、黒幕はインテリオラ上層部とマルゴー家がすでにズブズブだと判断しているという事なのか。そして商人ギルドもマルゴー家に掌握されていると考えているのだろうか。
明らかに事実とは異なっているし、噂という情報戦を仕掛けている黒幕にしては事前調査がお粗末すぎる。
「……もう少しはっきりと、噂を聞いている人とそうでない人とを区切ってみないとわかりませんね」
「ドゥドゥの言う通りですね。けれど、私たちがおおっぴらに動いても正確な情報が集まるとは思えません」
ジジとドゥドゥが、まるで鏡写しのようにこてんと首を傾げて悩む様子を見せている。
美しさの絶対値こそ私やグレーテルには及ばないが、このように類似した容姿を利用した連携をみせれば本来のポテンシャル以上のものを作り出すことも出来る。
端的に言って、非常にすばらしい。
ていうかこの子たち元々双子でも何でもなくただの従兄弟同士だったと思うのだが、なんでポーズがシンクロしてるんだろう。これ絶対家で練習してるだろ。今度2人同時に映れるくらいに大きな姿見を送るとしよう。




