18-15
私が心配していたとおり、フィーネはやはりフィーニスとして学園に通うつもりのようだ。
本来、マルゴー家に生まれた正式な長女は他家との婚姻のために育てられる。
以前に出会った伯母プリムラなどがそうだ。
マルゴー家は大陸最大の魔物の領域からインテリオラを護る盾であり、基本的には戦闘力と戦闘以外にリソースを割くことはない。
しかし辺境と言えども人間社会の一部である以上、それらとの最低限の交流は必要だ。
それを一手に担っていたのが「マルゴーの長女」である。
婚姻外交は貴族政治の基本だ。
教育を施した娘を有力な貴族の元へ嫁がせ、それを以て貴族社会での立場を維持し、本家の手をそのような雑事に煩わさせないようにしていたのだった。
もっとも、私が直接知っている例は伯母プリムラと妹フィーネだけなので、その施した教育とやらがまともに機能していたのかどうかは疑問だが。
そういえば、年齢的に考えると伯母の教育もあのドゥクス侯爵夫人にお願いしていたのかな。
しばらく夫人の顔は見ていないが、二代続けてこんな事になってしまったのならマルゴーに愛想を尽かせてしまっていても無理はない気がする。
そんな、マルゴーにとって最重要人物であるフィーネだが、男装して学園に入学するとなると、さすがにもう婚姻外交には使えなくなる。
これまでの社交界での挨拶とは違い、学園入学は成人後の正式なデビューのための前哨戦のようなものと考えられているからだ。
フィーネという令嬢が入学しなかった事で、表向きはマルゴーにはフィーネは存在しない事になり、代わりにフィーニスという令息がいた事になってしまう。
つまり今マルゴーにいる正規の令嬢は私だけ。
そして正規の令嬢であるはずの私は令嬢としての性器は持っていないので婚姻など出来ない。いや何も上手い事言えてないなこれ。何でもありません。
この事態に父は頭を抱えていたが、逆に言うと頭を抱えていただけだった。
これはフィーネが表向き令嬢ではなくなってしまったとしても、マルゴー家としてはさほど困らない事を意味している。
推測になるが、おそらく父と母が領地を出て好きに動き回っていることが関係しているのだろう。
これまでマルゴー家は魔物と戦い、そのために強くなる事だけを目指して家を維持してきたのだが、ここにきてその必要も薄れてきたのではないだろうか。
例外的に早いスパンで復活した鬼の魔王。
あれと戦い、下すことで、マルゴーは魔王の誕生をコントロールし魔物の氾濫を抑える術を思いついた。
もしこれが実用化出来れば、これまでのような場当たり的な対応は必要なくなるかもしれない。
制御できる災害など、もはや災害ではないからだ。
そうなれば、そのほとんど全てが魔物対策に向けられていたマルゴー家の力を他に向ける事も出来るだろう。
そもそも、他の誰にも代わりが出来ないからマルゴー家に押し付けられていた「盾」の役目だ。
その力が向けられるとしたら、それこそ誰も抵抗出来ない。
婚姻外交などもはや必要ない。圧倒的な戦闘力を背景にした砲艦外交が幕を開ける。
ていうか、父が王都に滞在している時点でもうすでに幕は開いている。
その力をある程度自分たちのために振るえるようになったマルゴーとしては、もう王家と仲良くする必要も薄いというか、そもそも国家に所属している意味が薄い。
しかしこれまでの歴史の中で、マルゴー家が政策として輩出してきた令嬢たちの嫁ぎ先は、例外なくインテリオラ王国貴族の家だ。
マルゴー本家との血の濃さや物理的距離の近さにもよるが、仮にマルゴー家がインテリオラ王国を離脱した場合、繋がりのある貴族たちも芋づる式に離脱してマルゴー家に付き従う恐れがある。
多くが辺境を護る武門の家であるため、そんな事になればインテリオラの国防力は大きく削がれてしまうだろう。
それどころか、新たに生まれるマルゴー王国にいきなり半包囲された状態になってしまいかねない。
そうなればインテリオラと戦争になるかもしれないし、いかに小康状態とはいえ、魔物の領域とインテリオラ王国の二正面作戦をするのは賢いやり方とは言えない。
せっかく久しぶりに手にした自由を、新国家の立ち上げと運営などで手放したくはないのだろう。
父が王都に滞在しているのも、あるいは自身を人質として王都に留めておくことで、マルゴー家の関係者が暴走するのを防ぐ目的もあるのかもしれない。
まあ、マルゴー最大戦力である父が果たして人質として適切なのかどうかは不明だが。
戦力という意味で考えるのなら、今の状況はインテリオラは喉元に爆弾を突きつけられているようなものだ。
やっぱり父はその辺りの事は何も考えていないのかもしれないな。本当に私たちの様子を見に来ただけなのかも。ありそう。
まあとにかくそういう事情により、婚姻外交で使う必要がなくなったフィーネの我儘が許されているのだと思われる。
いや、もうフィーニスか。少なくとも学園卒業まではそれで通す必要がある。
そして卒業したとしても、もうフィーネとして表舞台に出る事はないだろう。
世界一美しかった美少女(♀)はもう、消えてしまったのだ。
しかし、この事はマルゴーの中枢部しか知らないこと。
世間一般では依然として、世界一美しい美少女は私である。
これにて18章は終了です。
明日から次章「レディー・マルゴーと月に替わって推しを起用」を投稿します。なお「替わって」は誤字ではありません。「レディー・マルゴーと」の部分は定型文なので「レディー・マルゴーと月」に替わるわけではなく、文脈的には「レディー・マルゴーと」の部分は無視していただく形になります。ややこしいなインテリオラ語(
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