18-10
結局、積んでいた金貨の3倍くらいの金貨袋を積み上げたのだが、グスタフ三世は最初に積んでいた分の2倍でいいと事業の譲渡に頷いてくれた。
じゃあなんで3倍も出させたんだ。もしかして私の胸元見たかったのかな。
グスタフ興業を私の商会に吸収合併することにしたはいいが、差し当たっては学園の卒業パーティの設営などを任せるだけで他に特別な事をする予定はない。事業主は私になるが、グスタフ興業としてのトップは変わらずグスタフに務めてもらうつもりだ。いや私が雇うのだからこの場合は「勤めてもらう」が正しいのだろうか。難しいなインテリオラ語。
預かってきた企画書をグスタフに渡し、不明な点があれば王立学園のエーファに確認するよう指示を出し、私たちはグスタフ興業商会を後にした。
私はグスタフ興業については詳しくは知らないのだが、興業とか言うくらいだし、今回のようなイベントの設営だけでなく、例えば芸人の斡旋だとか人材の派遣のような事もしているのだろう。
であれば人手を集める伝手なども持っているだろうし、工場で働きたいがどうすればいいのかわからないといった人を集める事も出来るかもしれない。
とりあえず卒業パーティが終わったら聞いてみるつもりだ。
これで人手不足が解消できるなら、グスタフ興業を傘下に置いた甲斐もある。
「……結局、私は何の役にも立ちませんでしたわ……」
ぱかぱかと、のんびり馬車を牽く馬の足音を聞きながら考え事をしていると、隣に座ったユリアがそうぽつりと漏らした。
今日乗ってきたのはタベルナリウス家の馬車だ。
サクラの牽く馬車で来るつもりだったのだが、仕事を依頼しに行くのに相手を威圧してどうするのと言われたので学園に置いてきた。
確かにサクラは立派なので、その勇姿を見せびらかしているかのように見えてしまうかもしれない。中にはそれを威圧と捉える者もいるだろう。
なのでタベルナリウス家に馬車を貸してもらえて助かったと言える。
これはさすがにユリアが居なければ貸してもらえなかっただろうから、十分役には立っている。
お互いに足りない部分を補っていると言えるだろう。
傘には傘の、雨合羽には雨合羽の長所があるのだ。
それぞれに適した活躍の場は別なのかもしれないが、両方使って困るということもあるまい。
「今回は、たまたま私の方が手札が多かったというだけのことでしょう。きっとユリア様の方が活躍出来る事もありますよ」
「……そう、ね。いえ、そうかしら……?
どこからともなく突然商会ごと買い取れるほどの現金が出てくるような貴女よりも、私の方が活躍出来るタイミングなんてあるかしら……?」
「世の中、お金だけではありませんよ」
しかし、ユリアはじっと私の顔を見ている。その視線にはどこか責めるようなものも混じっている。
もちろん、口に出されなくてもわかっている。ユリアが私に対して抱いている劣等感は、資金力だけではない。
「世の中、お金と容姿だけではありませんよ」
「わざわざ言わなくても結構ですわ! 相変わらず腹が立ちますわね……!」
怒られた。
しかし元気は出たようなので何よりだ。
それから学園に戻った私たちは、後の事をエーファに丸投げした。
多少困ったことがあったとしても私の名前を出せばうまいことやってくれるはずだ。グスタフ興業の人たちにとっては毎年の事だろうし、客がちょっと変わったところでやることはそう変わらない。
企画書を業者に渡してしまえば、学園で私たちが出来る事は少ない。
卒業パーティの準備はもう終わったと言っていいだろう。
あとは当日、グスタフ興業のスタッフと協力して参加者を案内したりするだけだ。
◇
やがて卒業パーティの日がやってきた。
と言ってもこの学年には知り合いは居ないので、特に何か思うところはない。
去年であれば、一応は知り合いと言えるゲルハルト元生徒会長先輩閣下がいらっしゃったのだが、別に在校生はパーティへの参加が強制ではなかったので出なかったのだ。あれ、生徒会長閣下先輩だったかな。もう忘れてしまった。
今年も別に出る必要はないのだが、一応イベント運営に関わる者として知らんぷりは出来ず、一応催事運営委員全員で並んで参加していた。
これほどの美少女たちが並んで参加しているとなれば、当然ダンスの誘いはそれはもう凄まじい事になる。
と思っていたのだが、誰もやってこなかった。
私やグレーテルは言うまでもないが、他のメンバーも他でなら学園で一番レベル、つまりスクールアイドルクラスか、あるいは世界で通用するレベル、つまりグローバルクラスの美人ばかりだ。
「ど──」
「──うして誰も声をかけてこないのでしょう、って顔をしてるわね。ミセル」
セリフをグレーテルにインターセプトされてしまった。
凄いな。どうしてわかったのだろう。
「言っておくけれど、この学園で私たちの事を知らない学生なんて居ないわよ。特に私や貴女の事はね。その上で声をかけてくるような命知らずは居ないでしょうね」
何で命知らずに限定するのかな。
私たちに声をかけたら命の危険でもあるのだろうか。
何となく釈然としないものを感じながらも、とりあえず誰からも声をかけられることはないのは理解した。
まあたとえ声をかけられたところで踊れるわけでもないし、別にどうでもいいのだが。
というわけで私たちは壁の花としてパーティを眺めている。
もちろんただ眺めているわけではなく、何か問題が起きたら対処するためでもある。
パーティ会場であるホールでは、卒業生や自由参加の在校生たちが思い思いにダンスを踊っている。
中には在学中の思いの丈を伝えようとする学生なんかもいるようだ。
人気のある学生の近くには列が出来てしまっていたりする。
あれはダンスの相手を待つ行列だろうか。それとも告白順番待ちかな。青春だな。
これ自分の番が回ってくる前に誰かの想いが成就してしまったらどうなるのだろう。そう考えると、列に並んで待っている人は皆自分より前にいる人の不幸を願っているということなのかな。青春ってなんかドロドロしてるな。
「というか、あの方見たことありますね。どこで見たんでしたっけ……」
何か母のファッションセンスに似ている気がするな。
どこで見たんだったかな。
仮ザベスじゃないか!
あれそういう名前でしたっけ(うろ覚え




