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大変申し訳ありませんが、明日と明後日は更新をお休みします。
次回投稿は12/5(日)になります。
よろしくお願いします。
「……入学パーティや卒業パーティというのは、学園のフォーマルな行事なのでは。そうしたフォーマルな行事を学生の集まりに過ぎない催事運営委員会が取り仕切るというのは」
「学園祭だって同じでしょう」
同じだろうか。
私の中では、学園祭だとかオリエンテーリング的なサムシングだとか、そういうちょっと軽めな行事と入学式や卒業式のような伝統的行事を同列に扱うことに抵抗があるのだが。だって入学式とかけっこう偉い人来るし。
しかしこの世界において、学園祭を始めとするちょっと軽めな行事はおそらくは私が初めて始めた事である。
これまで入学パーティと卒業パーティくらいしか行事がなかったのだとすれば、学園には伝統的行事しか存在しなかった事になる。
そのため学園関係者としては、伝統的行事とそれ以外の行事という分類をする事自体思い浮かばないのだろう。
だから今のうちはまだ、伝統を蔑ろにするなみたいな事を言う偉い学園関係者は存在しないのだ。
あと、王立学園の場合、何なら来賓よりも在校生の方が偉い人である可能性がある。
偉い人が来るから入学式・卒業式が格上だとするのなら、王立学園においてはさほどの意味がない事だと言える。何しろインテリオラ王国の階級制度の頂点に立つ王家の人間が学生として通っているし。
さすがに学園祭に王室の人間が来たという話は聞いていないが、タベルナリウス侯爵のように大貴族本人が来たという例もあるし、別に入学式とかに拘らなくても普通に偉い人は来るのだ。
そういう事情もまた、入学パーティや卒業パーティが特別視されていない理由になっているのだろう。
まあ伝統や格式を理由に無意味にイベントを差別したりしないのは、多様性や発展性を阻害しない意味では良いことなのだが、全部まとめて催事運営委員会に丸投げされるのはちょっと困るな。困るというか、面倒だな。
しかしなるほど。
そのせいで非常に多忙になってしまったがために、ジジもドゥドゥも私に会いに来られなかったというわけだ。
そういう事なら仕方がないな。
というか、私も手伝った方がいいだろうか。手伝った方がいいよね。屋敷でだらだらしている場合ではなかった。
「そういう事だったのですね。わかりました。では私も明日から学園に行き、卒業パーティや入学パーティの準備を手伝うとしましょう」
正直面倒だしやりたくないが、一応私が委員長ということになっているので行くしかない。
さすがにその状況を知った上で参加しないというのは美しくない。
◇
「というわけで、明日から登校することにします」
その日の夕食の席で早速報告した。
「……やっと働く気になったか」
「お父様。まるで私が、働いたら負けかなと思ってるかのような言い方はおやめください」
「なんだそれは。お前、そんな事を考えていたのか」
「ですから、思っていませんてば」
「しかし普段から考えていなければ、突然そんな言い回しは出て来ぬだろう。労働から何故急に勝ち負けの話になるのだ。誰と勝負をしているというのか」
確かに。
働く、というワードから連想してつい言ってしまったが、前世でならともかく今世ではあまり一般的な言い回しではなかった。
この国では基本的に、成人した人間は誰もがちゃんと働いている。
貴族も例外ではなく、以前も述べたと思うが、仕事が出来ない無能であればいかな高位貴族であろうとも容赦なく落ちぶれていく。
もちろんこの「働く」というのは必ずしも収入を得る事だけを意味しているわけではない。世帯の中の誰かが収入を得ているとして、他の家族はそれをサポートするという形も立派な労働である。
貴族家の夫人や結婚前の娘なども同様だ。だいたいの貴族の場合、当主に代わって家の中を管理するのが彼女らの仕事である。
また平民についても言わずもがなだ。働かなければ生き残れない。
いや、そうとは限らないか。裕福な商家の次男坊とかなら、働かなくても左団扇で生きていけるかもしれないな。
その点、貴族の方が厳しい環境だと言えるかもしれない。ノブレス・オブリージュではないが、貴族の家なら相応の格式や礼を求められる。金が無いからと言って家財や土地を売るなど許されないし、逆に金があるから働かないといった事も許されない。それが嫌なら爵位を返上して在野に下れというわけだ。代わりに爵位が欲しい優秀な平民はいくらでもいる。
働いたら負けかなと思ってる、というフレーズは、働かなくても生きていけるのであれば勝ち組だろうという思想による考え方だ。しかしこの国の多くの国民にとってそれは一般的な思想ではないという事である。
まあ私やグレーテルのような一部の例外については、本来なら屋敷から一歩も出ずに静かに過ごすのが最適解であり、働くなど以ての外なのだろうが。
そう考えると父もかなり毒されてきたというか、柔軟になってきたな。私が商会を立ち上げたお陰かな。
もちろん領地貴族である我がマルゴー家の仕事は領地の管理である。
家宰のクロードを連れてきていないという事は、今はクロードが父の名代としてマルゴー領を仕切っているのだろうが、任せているから大丈夫だと言って父が遊んでいていい理由にはならない。いや多少はいいのだろうが、結構長いこと王都にいる気がする。
「……まあ私のイノベーティブな言い回しは置いておいて、働くと言えばお父様がたはよろしいのですか? いつまで王都でサボっているのでしょうか」
「……何を言っているのだ、ミセル」
父も母も、こいつ大丈夫かという目で私を見てきた。
大丈夫かと問うているのは私の方なのだが。
「何のために私たちが王都に滞在していると思っているのです。別に貴女の企画した学園祭とやらを見学するためだけに来たわけではないのよ」
「お前の馬はどうか知らんが、普通は王都とマルゴー領を行き来しようと思えば何日もかかる。移動は最小限にするべきだ。
学園祭とやらを見学しに来たのはついでだ。私たちが王都に来たのは、フィーネの入学パーティのためだ。
お前のときは来られなくて悪かったが……今は情勢が落ち着いているからな」
え、フィーネってもう15歳になるの。
そういえば私ももういつの間にか最高学年だし、そりゃそうか。
そういえばTwitterもやってます。
@harajun1001
なんで急にアピールする必要があるんですかね(




