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まさか、もしかして、有り得ない事だとは思うが。
私って嫌われてるんじゃなかろうか。
いやいや、何しろ宇ちゅ、世界一美しい私だ。
嫌われてるなんて有り得ない。
仮にそう、妬まれているのだとしても、妬みや嫉みというものは相手の足を引っ張って自分と同じステージにまで引きずり下ろすことで自分を慰めるメソッドだ。
私ほどに美しさが突き抜けてしまっていれば、どれだけ足を引っ張ったところで他の者たちと同じステージまで落ちてしまうことはない。
つまり、私の美しさに対して嫉妬するのは無意味で時間の無駄だ。
少しでも合理的な考えが出来る人間ならば私を妬むような愚かな真似はすまい。
というかその前に、私の級友たちの中に友人を妬んだりするような者はいない。と思う。
だとすると普通に忙しくて私のことまで気が回らないとかだろうか。
そんなに忙しいような事あったかな。
心当たりがないな。
◇
そして父が1人王城見学ツアーに出かけた次の日。
「ちょっとミセル! 帰ってきてたのなら挨拶にくらい来なさいよ!
──あっ、お、お義母様……! ご無沙汰しております……!」
グレーテルが来た。
どうやら、昨日まで私が帰ってきていた事を知らなかったらしい。
外交に関わる話だし、国外の事はともかく、王室が私の国内での行動について知らないはずがないと思っていたのだが、だからといってそれをグレーテルが知っているかどうかはまた別の問題だということだ。
国王陛下は流石に知っていただろうが、王家ともなればアットホームな我がマルゴー家とは違い、毎日の食事を家族で共に摂るといった事もないらしい。
むしろ王家でまとまって食事を摂るなどかなり希少なケースだという話だ。誰かの誕生日とかくらいって事かな。いや誕生日ならパーティが催されるだろうし、それはないか。じゃあどういうタイミングなら一家団欒が成立するのかな。
そういうわけで、敢えて通達する必要があると判断された事以外、王家が得た情報をグレーテルが知る事はないらしい。
「そうだったのですか……。
ですが、学園は? ユリア様──がご存知だったかどうかは微妙なラインですが、ジジやドゥドゥは間違いなく知っていたはずですが」
「……あー、そう。ジジにドゥドゥね。そう……」
なんだか煮え切らない感じだ。グレーテルにしては珍しい。
まさか、私が居ない間に喧嘩でもしたのだろうか。
「2人と何かあったのですか?」
「いえ、何かがあったというわけでもないのだけれど……」
グレーテルはあまり浮かない表情である。
何もないのならそんな顔をする必要はないのでは。
私が曇りのないつぶらな瞳で見つめていると、グレーテルはやがて観念したように話し始めた。
「……実は──」
グレーテルの話によれば。
グレーテルとジジ、ドゥドゥは、実はほとんど話さないのだそうだ。
別に仲が悪いとか喧嘩をするとかそういう事はないのだが、積極的に会話をするというわけでもないらしい。
というより、ジジとドゥドゥの2人は元々マルゴー家に関係する謎の貴族令嬢という触れ込みで編入してきたので、私がその場にいる時ならばともかく、私がいない状態ではあまり話しかける人もいないのだと言う。
グレーテルも、私がいる時はほぼ私にべったりなのだが、私がいなくなると他の高位貴族たちから話しかけられるケースが急増するようだ。
まあこれまで表に出ていなかったとは言えれっきとした王女であるので当然と言えば当然か。
そんなわけで、ジジたちとグレーテルは私がいない場では実は会話がない。
これはユリアも同じであり、高位貴族であるユリアも私がおらず、グレーテルが他の貴族たちと話している間は、やはり他の貴族たちから話しかけられているらしい。
エーファたちくらいになるとジジたちと話す事もあるようだが、ユリアの世話もあるしそれもそう頻繁な事ではないそうだ。
ギスギスしている、という程ではないが、どこかよそよそしいというか、ちょっと微妙な距離感があるという事だとか。
「……知りませんでした。まさかそんな事に……」
ちょっとショックではあるが、しかしそれ自体は割とよくある事なのかも知れない。
仲良しグループとは言っても、その中でも比較的仲が良い組み合わせやそうでもない組み合わせがあったりするものだ。
私見だが、特に女子グループだとそういう事が多い気がする。男子はアホなので同じゲームをプレイしていたりするとそれだけで固まったりするからだ。この場合は別の新しいゲームが出ると自然消滅する事が多い。
私とグレーテルは仲が良く、私とジジたちも仲が良かったので、私は勝手に全員仲が良いと思っていたのだが、実はそうではなかったという事だ。
しかしそう落ち込む事はない。
別に仲が悪いと言っているわけではないのだ。
これからは私が間に立って、皆が仲良く出来るよう動いていけばいい。
「特に、最近は忙しかったって事もあるし、中々話す機会もね……。
ミセルも王都に帰ってきてるのに登校しなかったくらいだし、きっと学園に来られないくらい忙しかったのでしょうけど」
「……ええと、はい。それはもう。あまりに忙し過ぎて、この美しさが翳ってしまうかと思いました。いえさすがにそれは言い過ぎですね。有り得ません。
そ、それよりも、忙しかったというのは具体的に何がでしょうか。試験勉強でしたら、そこまでは……」
「何言って──ああ、そうだったわね。ミセルが出かけちゃってから言われたんだったわ」
「何か言われたのですか?」
「ええ。去年と今年の催事運営委員会の活動実績が認められてね。まあそれ自体は良いことなのだけれど、そんなに優秀ならってことで、卒業パーティと入学パーティの開催も催事運営委員会が受け持つ事になったのよ。
卒業パーティは出たことが無いけれど、ほら、私たちが入学したときもあったでしょう? あれよ」
全然関係ないんですが。
以前、姪っ子をポケモン沼にというお話を前書きでしていたと思うのですが、なんかどこかで詰まったとかで、今日の夜リモートで教えることになりました。
今週末に来るらしいんですが、私が旅行で不在なので、それならということで……。
子供にリモートでゲームを教える時代か……。




