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正体不明の勢力と戦争をするのだし、出かける前はもう少し長期滞在するかと思っていたのだが、結果的にちょっとした旅行程度の日程で終わってしまった。
隠されていた娘とは言え、貴族の令嬢が外国に行くわけだし、本来ならば相手国の社交界にも顔を出すのが筋なのだろうが、そもそも私は自国の社交界にすら顔を出したことがないし、聖シェキナ神国には社交界自体が無い。というか貴族が存在しない。
なんだろう。
せっかく初のちゃんとした国外旅行だったというのに、私のした事と言えば、馬車の中からサクラが暴れるのを見ていたのと、あとは隕石を数個落として友好国を焦土に変えたくらいだ。本当に何してんの。
私が想定よりもかなり早く帰ってきてしまったせいか、王都に戻ると両親が驚いていた。
ていうかまだ王都にいたのか。帰らなくていいのかな。
王都に帰った日は向こうであった事を適当にはぐらかしながら報告し、すぐに湯浴みをして寝てしまった。
馬車の旅ってけっこう疲れるのだ。空気椅子だし。
翌日は学園に行こうかとも思ったのだが、行かなくても進級出来る事を思い出してやめた。
本来ならもっと長期間留守にしている予定だったのだ。
仕事が早く終わったのは私が頑張ったからであるし、その分は休暇だと思ってのんびりしていてもいいだろう。
クラスメイトには若干の会いたさがあるが、グレーテルには私が帰ってきた事くらいはすぐに伝わるだろうし、ジジとドゥドゥも従者として雇っている形になっているアマンダの配下から話を聞くはずだ。
学園には行く気はあまりないが仕事はするつもりなので、商会を通じてタベルナリウス侯爵も私の帰還は知ることになるだろう。そうすればユリアたちにも伝わる。
私が帰ってきたと知れば、きっと皆の方から会いに来てくれるに違いない。
来てくれるはずだ。
来てくれるよね。
とりあえず、登校はしないと決めた私は馬を貸し馬屋に返しに行く事にした。その前に教会に寄って馬車の車体も返さなければならない。
ていうか、これを私がやるのはおかしいと思うのだが。
まあ実際に借りたシェキナたちは聖シェキナ神国に置いてきてしまったし、私も暇なので別に構わないけど。
サクラに馬車を牽かせ、マルゴー家の屋敷以外には工場と宿舎しか建っていない風景を進んでいく。
辺りを歩いている工員やその関係者たちも、ここに来たばかりのころはサクラの威圧感に驚いていたようだったが、今ではすっかり慣れて──いや、何か二度見しているな。私が遠くに出かけるという話は社員たちにも周知されていたのかもしれない。それが予想外に早く帰ってきているから驚いているとか。
それとも馬が3頭に増えてるからかな。
借りた2頭の馬は神聖騎士団で着せられた馬用鎧が気に入ってしまったみたいで、着たまま帰ってきてしまったのだ。神聖騎士団もお礼の一環だとのことで快く譲ってくれた。馬たちも竜騎士討伐の際には随分活躍していたようなので、これは神聖騎士団から馬への礼である。貸し馬屋の主人がどう反応するか気になるな。何かずいぶん成長してしまっているし。
王都の教会で車体を外し、馬だけを連れて貸し馬屋へと向かう。
教会の偉そうな人──といっても態度の話ではなく、たぶん偉い人なんだろうなという意味──に聖シェキナ神国の様子を聞かれたが、もう何の心配もいらないと答えておいた。
竜騎士の本拠地はわからなかったものの、おそらくしばらくは攻めて来ないだろうし、今以上に状況が悪くなる事は無いはずだ。今は地獄だけど。
しかしその後に向かった貸し馬屋では、大変に困った事になった。
というのも、貸し馬屋の主人が「これはうちの馬ではありません」とか言い出したのだ。
確かに『悪魔』あたりも随分と成長したとか言っていたし、私もほんの少しだけ大きくなったかなとは思っていたのだが、まさか飼い主に間違えられるほど変わってしまっていたとは。
貸し馬屋の主人はどうしても納得してくれず、しまいには「もし馬を失ってしまったから代わりを用意したという事でしたら、これでは元の馬とは質が違いすぎて釣り合っておりませんので、私が差額をお支払いしなければならなくなります」と言い出す始末である。
当の馬たちはそれを聞き、馬用兜の下で寂しそうな目をしていた。飼い主にわかってもらえないのが寂しいのだろう。
それを見た私はつい、言ってしまった。
「わかりました。この子たちは私が育てます!」
帰って早々、予想外の出費があったが私は後悔していない。
新しい馬2頭については、昨日までは屋根のないところで適当に過ごさせてしまっていたが、私が引き取るとなるとちゃんとした厩舎が必要になるな。サクラ仕様の厩舎を増築しなければ。
あと名前も必要だ。
新しい飼い主の元で新しい人生──馬生を始めるということで、名前は新しく私が付ける事にしたのだ。2頭に聞くと頷くように嘶いていたので、納得してくれているようだ。王都の馬もマルゴーの馬並みに頭がいいな。
かなり迷ったのだが、どうも2頭ともサクラの弟分みたいな関係になっているようなので、同じ系列で名前を付ける事にした。
栗毛一色の方にフィレ、栗毛だがたてがみに少し白いものが混じっている方にヴァラと名付けた。
サクラ、フィレ、ヴァラ。
なんかお腹空いてきたな。
女神様「貴方が貸してくれたのはこの馬ですね?」
貸し馬屋「いえ、私がお貸ししたのは普通の馬車馬ですけど……」
女神様「正直者ですね。では両方お返ししましょう」
貸し馬屋「困りますお客様!」




