17-16
「……あの、お嬢様」
「どうかしましたか、ディー」
「私も何かをするべきなのでしょうが、恥ずかしながら修行不足のため、馬上より攻撃する手段を持ちません。魔法は効果がないようですし……」
確かディーは執事見習いから侍女に転職したのだったと思うが、修行不足で攻撃できないとは意味がわからないな。
少なくとも、執事や侍女がするべき、お茶を淹れたり私の世話をしたりといった仕事は十分に出来ている。
戦闘は侍女の仕事ではない。そういうことは専門家に任せておけばいいのだ。
私がそう言うと、ディーは困ったように反論する。
「しかし、お嬢様をお護りするためには……」
「私の護衛でしたら、頼もしい子たちがおりますよ。ほら」
ネラとビアンカはすでに私の近くにはいない。
【虹の架け橋】を渡りきるまでは一緒にいたが、大地に降り立つやいなやどこかに消えてしまった。
そして今どこにいるのかというと。
「──『ぎゃあああ!』」
「──『な、なんだ!? どうした!?』」
「──『何が起きて……ぐあああ!』」
遠くの方から竜騎士たちの叫び声が聞こえてくる。
たぶんそこにいるのだろう。護衛なのにちょっとだけ離れちゃってるが。
そちらの方に視線をやれば、何か丸いものがぽんぽんと宙を舞い、その後赤い噴水が景気よく上がっているのが見える。
ネラがクリティカルで斬首判定を出しているのだろう。宙を舞っているのは竜騎士の首だ。
また、恐竜に騎乗した竜騎士よりもはるかに視点が高いサクラの馬上からだから見えることなのだが、敵の隊列の中程で局所的に地盤沈下が起こっていた。
いや、確かに竜騎士が突然沈むように姿を消しているが、あれは地盤沈下ではない。
何者かに足元を攻撃され、引きずり下ろされているのだ。
言うまでもなく、ビアンカの仕業である。
自分の数倍もの大きさのパキケファロサウルスを轢き潰し、その騎乗者も同じ目に遭わせているのだ。
どうやってるのかな。仔犬サイズなのに。
「……やはり護衛は必要なのでは」
ネラとビアンカの様子を眺めながらディーが言った。ですよね、と言いたいところだが、まだ私には護衛が残っている。
「大丈夫ですよ、ディー。あの子達は護衛と言っても、なんと言いますか、専守防衛、じゃなくて、先制防衛と言いますか、要は私の周りから私に危害を加えうる存在がみんな居なくなれば護身完成みたいな感じですので」
「……まあ、それはよろしいのですが。しかし、遠距離から飛び道具などを放たれては」
「それも多分大丈──」
と、言いかけたところで、遠方から数十本の矢が飛んでくるのが見えた。
虹の橋によって私たちの周りからは竜騎士たちは居なくなっているので、フレンドリーファイアの恐れがないからだろう。
私たちの乗るサクラ以外の騎馬は2騎とも竜騎士たちのただ中へ飛び込んでいってしまったため、誤射を避けるならば私たちに矢を射るのが最も合理的だ。
そして飛んできた矢はすべて、サクラから少し離れたところで見えない壁にぶつかったように止まり、そのまま弾かれてバラバラと落ちていく。
もちろんボンジリの張った結界のおかげだ。
「大丈夫です。ご覧の通り、竜騎士の方々の遠距離攻撃は通用しません」
「それなら良かっ──いえ、やはり私の存在価値が……」
だからディーの価値は戦闘力ではなくてもっと生産的な部分にあるのだが。
いや、例えディーに生産的な能力が無かったとしても、彼女はその容姿の美しさだけで十分な価値がある。
私やグレーテル、妹のフィーネほどではないにしても、ディーもユリアやエーファたちと並べて評価出来るくらいには美しい容姿を持っている。
上背がある上、顔のパーツが若干シャープなので、それを活かしたコーディネイトをすればジャンルによってはトップを取れるだろう。
例えば前世で言うところの宝塚系、特に男役のように男装をすれば──
いやいや、おかしいおかしい。
ディーはそもそも男だ。男装とかする必要はなかった。元々ただのイケメンだった。
というかそれ以前に、存在価値という言葉自体が私にとってはあまり好ましいものではない。
それではまるで、価値がなければ存在してはいけないかのようではないか。
私自身や、私の先輩としてかつて生まれてきた先祖たちの事を考える。
マルゴーのしきたりは、3人目の男児には存在する価値がないとでも言わんばかりのものだ。
安定して血をつなげ、効率的に強い一族を育て上げるためにはそういうしきたりが必要だったのかもしれないが、男児の存在を認めず、我が子から「本来の自分」を奪い取るその行為は、とてもまともな人間がすることには思えない。
しかし当然ながら、そのような考え方は間違っていると私は思う。
本来、人が人として生きることに、特別な価値や理由など必要ないのだ。
この世に生まれてきたという、ただそれだけで、人は生きる権利を持っている。
もちろん、時にその権利が対立してしまう事もある。
そうした場合は仕方がない。共にこの世界に生まれたもの同士、戦って決着をつけるしかない。
戦いの内容はお互いが納得できれば何でもいいが、まあ大体は暴力的なやり方で決める事になる。
今がまさにそれだ。
私は居並ぶ竜騎士たちを見た。
ふんわりと感じる空気。彼らと我々人類は、おそらく相容れないだろう。
どちらかが居なくなるまで、互いの存在を懸けて戦うしかない。
竜騎士はまだたくさんの数がいる。
幸い、思っていた通り竜騎士の戦闘力は高くない。こちらの圧倒的な個としての戦闘力があれば、負けてしまうことはないだろう。
しかし、たった3騎+2匹で散発的に攻撃したところで、敵は大軍、さしたる効果は望めない。
「……ディーではありませんが、そろそろ私も参加しないといけませんね。それも、大勢の竜騎士の方を効率良く片付けられる方法で」
基本的人権は認める(認めるとは言ってない




