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竜騎士たちは隊列を組んだまま城壁や門を守る神聖騎士団へ攻撃を仕掛けていたが、突然上空から虹がかかった場所の周辺だけはぽっかりと無人地帯が出来てしまっていた。
いきなりそんな現象が起きればそうもなるか。
可視化してしまったことで、逆に【虹の架け橋】を逆走し城壁を乗り越えようとする竜騎士が出てくるかもとちょっと心配していたが、そんな様子は微塵もない。
まあ、普通はいきなり目の前に虹が架かったからといって、それを登ろうなどとは考えないか。
しかし私たちが虹の上を駆け下りて来るのを見ればその考えも改めるかもしれない。この橋はボンジリにお願いして、用が済んだら消し去ってもらったほうが良いだろう。
私たち三騎はその戦場の空白地帯に颯爽と降り立つ。
戦場の空白というか、竜騎士の戦列の中心なので戦闘行為自体はもっと前線で行われているので、正確には竜騎士の戦陣の空白部分だろうか。
どうせ今からここも戦場になるので同じ事だが。
三騎全てが大地を踏んだのを確認すると、私は胸元を軽くぽんぽんしてやる。
すると察したボンジリが【虹の架け橋】を消し去った。
それだけで周囲の竜騎士たちからどよめきのようなものが聞こえた。
ここからではもうよく見えないが、この動揺が広がっていけば、城門に対する圧力も和らいでいくだろう。
まあ、その時はそう遠くないはずだ。
なぜなら、竜騎士たちにとって最も脅威となる存在がいきなり後方に出現したのだ。
前線の小競り合いなどやっている場合ではなくなる。
「では、始めましょう。
──竜騎士の皆様。私の名はミセリア・マルゴー。この地の神の代理人の求めに応じて参上しました」
これまでの経験から考えるに、たぶん周りの竜騎士たちにも私の言っている事は伝わるはずだ。
「皆様には特に恨みは──」
いや、無いこともないな。
実害は出ていないが何度か襲われてるし。
「──ちょっとだけありましたので、ちょっとだけ気合を入れて殲滅することにしますね。よろしくお願いします」
殲滅、という言葉が竜騎士の彼らにどのようなニュアンスで伝わったのかはわからないが、彼らは各々が後退り、虹が架かった時から円形の空白地帯だったところがさらに少しだけ広がった。
後ろの方では押されて転んでしまったパキケファロサウルスもいるようだ。かわいそう。いや、今からもっとかわいそうな事するんだけど。
そして私が宣言を終えると同時に、まずはクロウの魔法銃が火を吹いた。
火を吹いたという例えは火薬を使っているわけではないので相応しくはないのかもしれない。
しかし、これは例えではない。
クロウの持つ魔法銃からは、一見炎のようにも見える謎の光が長い尾を引いて飛び出していた。
ビームライフルだこれ。
そういえば前世で中学時代、近所の高校のパンフレットに「ビームライフル射撃部」という部活動が載っていたのを見たことがあったのだが、本当にあったのかな。今更気になってきた。
前世の実在のビームライフル部の事はともかく、こちらの世界のビームライフルはクロウが作っただけあって確かな性能を持っているようで、迸った閃光は真っ直ぐに竜騎士たちを貫通し、そのまま後ろの数名ほどまでを殺傷して消えていった。
ていうか目で見える速度なんだな。それ本当にビームなの。いや、ビーム云々は私が言っているだけだけど。一体何を飛ばしているのだろう。
魔石から生み出される魔法的エネルギーを利用しているのは知っているが、魔法が効きづらいと評判の竜騎士も容易に貫通したところを見るに、実際に飛んでいるのは魔法とは関係ない何かなのは間違いないのだが。
そしてその後を追うように、『死神』の駆る馬の背から『悪魔』が広範囲に魔法攻撃を繰り出した。遅れたのは、ビームライフルと比べてタメの時間が必要だからだろう。魔力を集めるとかそういう、要はいわゆるキャストタイムだ。
いつかオークジェネラルにレスリーが撃とうとしていたものと同じかどうかはわからないが、『悪魔』が広げた両手からは炎の柱が吹き上がり、みるみるうちに巨大化すると、まるで意思を持っているかのように動き出し、竜騎士たちを舐めていく。意思を持っているかのようにっていうか、『悪魔』の両手に繋がってるんだから、そりゃ『悪魔』の意思でやってるんだろうけど。
しかし『悪魔』は魔法が得意なのか。
いつかの森でフリッツと戦った時は、何か強力なスキルは放っていたものの、魔法が得意そうな様子は無かったのだが。
手加減していたのかな。舐めプしてやられて捕まるとか、ちょっとダサい。
ところがこちらは純粋に魔法であるためか、明らかに高温に見える炎に炙られても竜騎士たちにはあまりダメージは見られない。
むしろ、これまでの神聖騎士団の魔法攻撃と変わらないとわかったことで、こちらに驚いて竦んでいた竜騎士たちを逆に元気づけてしまうくらいだ。
魔法は効いていないとみた『悪魔』は片眉を上げ、今度は腰の剣を抜き放つ。
そして意識を集中するように目を閉じた。
手綱を取っているのが『死神』だと言っても、馬に乗った状態で目をつぶるのはどうかと思う。余所見している私が言えたことではないが。
そしてほんの数瞬タメをした後、『悪魔』の持つ剣が禍々しいオーラを放ち出した。
見たことあるなこれ。森で使ってたやつかな。
「──魔法が効きにくいってんなら、魔法防御無視ならどうだ? 【魔道士殺し】!」
『悪魔』が振るった斬撃は、剣の長さを遥かに越えて竜騎士たちに襲いかかり、彼らの鎧も皮も何の抵抗もないかのようにするりと通り抜けていく。
その一瞬あとには、パキケファロサウルスごと上下に両断された竜騎士たちの骸が大地に散らばった。
「……【魔道士殺し】がここまで気持ちよくハマるとなると、魔法が効きづらいってのは魔法防御が高いせいなのか?
お嬢! 竜騎士に魔法が効かねえのは魔法防御の高さのせいだ!」
なるほど。
いやいや、魔法が効かないのだから、そりゃ魔法防御が高いというのはわかりきっている。
出来れば何故高いのかが知りたかったのだが。




