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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと利権の舞う王都
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16-8

ちょっと姪っ子をポケモン沼に沈めてたので投稿忘れてました(





 侯爵によれば、その小さな本は理事長の手記と裏帳簿と密約の覚え書きを合わせたようなものであるらしく、およそ彼の生命線と呼べるものがすべて盛り込まれていた。


 どれかひとつでも漏れてしまえば失脚は免れないとなれば、下手に分散させて発見のリスクを増やすよりもどこかに集約して守りを固めた方がいいというのは分かる話だ。あの二重の鍵は理事長なりに最大限に守りを固めた結果なのだろう。

 それが普段自分が常駐している執務室なら目も届きやすいし、万が一自分が不在の間に部屋を漁られた場合の事を考えて、執務机や金庫などの分かりやすい場所は避け、偽装を施して本棚の大量の本の中に隠した。

 実に合理的で商人らしい用心深さと言える。


 しかし理事長もさぞや肝をつぶした事だろう。

 冷静に私自身の行動を理事長視点から振り返ってみると、こういう事になる。


 いつか来るとわかっていたタベルナリウス侯爵が、いきなり仇敵マルゴーの娘を連れてやってきた。

 本来ならば扉の外で止められるはずなのに、職員たちは素通しだ。

 とりあえず侯爵に爆弾を投下していたところ、不審者のマルゴーの娘はふらふらと本棚に向かっていき、迷わず自分の急所に手を伸ばした。

 まるでそこに何があるのかを知っているかのように。


 なるほど。

 これは理事長じゃなくても私に突撃したくなるな。

 とは言え淑女に突撃してきた罪は重いので、投げ飛ばされた彼に同情することはないが。


「それで、その証拠のよくばりセットを侯爵はどう使われるおつもりですか?」


「ふはは! よくばりセットか。面白い表現だな。無論、これはギルドを掌握するために使う。

 理事長派はおそらく次のギルド会議で私を解任するつもりだったのであろうが、これさえあればその状況を引っくり返してやる事も可能だ。

 まずは手回しだな。密約と帳簿の証拠の写しをいくつか用意して、理事長派の切り崩しと取り込み、いくらかは解任することになるだろうから、後釜につける新理事の選定と……」


 侯爵は小さな本を睨みながら何やらぶつぶつと呟き始めた。

 また私の事を忘れている。


「──っと、すまんな。

 ううむ。私は少しこれから忙しくなる。ミセリア嬢のギルド登録について今すぐ力を貸してやることは出来んかもしれん。

 しばらく待ってくれさえすれば、おそらく職人ギルドだろうと商人ギルドだろうと好きに登録出来るようになるだろうが……」


 商人ギルドの実権を握るのならまだしも、職人ギルドにまで干渉するのはさすがにやり過ぎではとも思ったが、そもそもその職人ギルドの規約だかを変えさせたのもおそらく理事長派の差し金だったのだろう。

 つまり最初から職人ギルドは商人ギルドに逆らえない構図だったということだ。侯爵も明言はしないが。

 ギルド設立の経緯こそ商人ギルドに対抗するためだったと謳われているが、それも怪しいものである。職人全体の不満のガス抜きをするために商人ギルドが手を回して形だけ設立させたという方がしっくりくる。中小企業のなんちゃって労働組合と同じだ。

 まあ、私にとってはどちらでも構わない事だが。


「待つことくらい、なんてことはありませんよ。元々別に私が急いでるわけでもありませんでしたし。

 ああでも、すでに雇ってしまった人の面倒はみないといけませんから、もう少しだけお金を貸していただきたいのと、全体の返済計画についても改めて相談させていただく必要がありますけれど」


「それはまあ、当然だな。こちらの都合で事業計画が遅れるわけだからな。

 さしあたって追加で先日貸し付けた金額と同額を融資しておこう。以降は状況次第だが、こちらの都合が付けば改めてお宅に──いや、今は屋敷にライオネルもいるのだったか。済まないが都合が付いたら使いを出すから、ウチまで足を運んでくれ」


 そんなに私の父が嫌いなのか。


 コミュ障ばかりの商人ギルドで名を馳せるタベルナリウス侯爵にさえ嫌われている父。

 きっと王国で一番友達が少ないに違いない。

 かわいそう。





 ◇





 それから数週間がたち。

 私の知らない間に商人ギルドのギルド会議だか何だかが開催されたらしく、タベルナリウス侯爵から使いの者が来た。


 屋敷でダラダラしていた父に「タベルナリウス侯爵の家に行ってきます」と言うと、「確かユールヒェン嬢の家だったか。遊ぶのは構わないが、気を付けて行ってくるように」と言われた。タベルナリウス侯爵は覚えてないのに娘の名前は覚えたらしい。あと別に遊びに行くわけではないのだが、説明が面倒なので敢えて訂正はしなかった。


 私が知る限り、父は真面目で勤勉な領主だった。加えてストイックな戦士でもあり、優秀な指揮官でもある。

 これまでおそらく、領地に引き篭もって執務か鍛錬か戦闘くらいしかしてこなかったのだろう。

 別荘で時間を持て余してしまって何をしたら良いのかわからない感が滲み出ている。

 領地にいればまだ母を伴って視察の名目でデートをする事も出来るのだろうが、数週間も王都にいれば、マルゴーと違って狭い王都では見るべきところも無くなっていく。


 要領の良い母は学園祭で知り合った貴族街のママ友とランチに出かけてしまったらしい。

 王都の屋敷の庭では鍛錬も出来ないし、することがない父はひたすらリビングでダラダラしている。

 要領の違いというよりコミュ力の違いなような気がしないでもない。お父様やっぱ友達いないのかな。


 数少ない友人である『餓狼の牙』も、ユージーンたちが今何をしているのかは知らないがルーサーは学園があるので父に構ってやる暇はない。

 未だに非常勤講師ではあるものの、生来の優秀さのおかげか授業の評判もよく、ほとんど固定でいくつかのクラスの授業を受け持っている状態だ。

 そのための準備も必要なので、最近は休日でも仕事をしている事が多い。元々は私のお目付け役だってことも忘れてるんじゃないだろうか。

 最近なんか忘れられる事が多い気がするな。





 ◇





「──おお! よく参られたなミセリア嬢! 歓迎しよう!」


 タベルナリウス侯爵邸に到着すると、超上機嫌の侯爵自らに出迎えられた。

 一応取り次ぎのためにいた執事らしき人や、何か付いてきたユリアがちょっと鬱陶しそうに侯爵を見ている。


「ええと、ミセリア・マルゴーです。本日はお招きに預かり参上いたしました。タベルナリウス侯爵閣下におかれましては──」


「よいよい! そのような形式など! 私と貴女の仲ではないか!」


 どんな仲だったっけ。

 今のところは出資者兼後見人と駆け出し事業主という関係でしかないと思うのだが。あと強いて言うなら娘のクラスメイト。


 と眉をひそめていたら、ユリアにゴミでも見るような目で見られていた。

 これ絶対誤解してるな。


「あの、何か重大な行き違いがあるような気がしているのですが、侯爵閣下は私のことをご家族にどのようにご説明してらっしゃるのでしょうか」


「決まっている。幸運の女神だよ。それもとびきりのな!」


 それだ。

 私が女神の如き美しさであることはどうやっても否定のしようがないところだが、妻帯者がよその女性を捕まえて女神とか言い出したら絶対揉める事になる。

 まさか【魅了】されていたりしないだろうな、と侯爵を見てみるが、そういう様子はない。

 また他のあらゆる精神干渉も受けないはずなので、これは純粋に侯爵に何か良い事があったから浮かれているだけなのだろう。


 とりあえず詳しく話を聞いてみる事にした。

 もちろんユリアにも同席してもらう。たぶん商人ギルドとか私の事業に関わる話なので本来ならば部外者であるユリアを同席させるのはよくないが、ここで締め出すと間違いなく誤解が加速する。





 ◇





 興奮気味の侯爵をなだめつつ、話を聞いた。


 侯爵はどうやら、あの小さな本を使い商人ギルドをほぼ完全に掌握する事に成功したらしい。

 当然、事実上の傘下組織である職人ギルドも掌握しており、もはやこの王都においてタベルナリウス侯爵の意向を無視して商売をすることは一切出来なくなってしまった。


 よくばりセットはどっちだよ、と思わないでもないが、ともかくそういうわけで侯爵はたいそう上機嫌であるらしかった。

 加えて、半ば偶発的ながらその状況をもたらした私をいたく気に入ってくれているらしい。


 話し終わった侯爵は執事に申し付け、何か高そうな布に包まれた紙のようなものを私に渡してくれた。

 なんだろう、と布を解いてみると、中から出てきたのは私がギルド会員であることを認めるという証書だった。

 紙は私が触ったことのない感触で、厚くゴワゴワしている。紙というより布とか革に近い。


「ああ、もしかしたらミセリア嬢は見たことがないのかもしれんな。それは羊皮紙だ。ギルドが設立されたのは植物紙が開発されるより前の話なので、その時からの伝統で証書には羊皮紙を使う事になっておる」


「そうなのですね。それよりあの、2枚あるのですが」


 布の中には似たような形式の証書が2枚入っていた。

 名前はどちらにもミセリア・マルゴーと書いてあるが、違う部分が一点ある。

 何の証書かという点だ。

 片方は商人ギルドのもので、片方は職人ギルドのものだった。

 しかも役職のところには「理事」とある。

 なんかいきなり理事待遇での登録らしい。3年以上の実務経験とかそういうセーフティとか無いのか。


「……どちらかのギルドにしか登録できないはずでは?」


 もし両方に登録できるのなら、侯爵は最初に私を商人ギルドに連れて行ったはずだ。そちらのほうが彼の影響力が届きやすい、と当時は思っていたはずだし。


「出来るようになった。いや、出来るようにした。今や、商人ギルドも職人ギルドも我が手のうちだからな。

 そうそう、職人ギルドの理事長だが、今はミセリア嬢やユリアのクラスメイトの……エーファだったか。彼女の御父上が務めているぞ。暇があったら挨拶でもしにいってやるといい」






16章はこれでおしまいですが、時間がないのでいつものやつはまた今度で……

でも★5はいつでも募集しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと筆者さんの姪っ子でも甥っ子でもなんでもいいからなってきます、来世で会ましょう 追記 無事になることができました
[良い点] たまにはお嬢が男装(?)してる回があってもいいなーなんて思ったり思わなかったり()
[一言] 魅力、権力、暴力ときて財力まで手に入れたお嬢様の明日はどっちだ
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