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それからも順調に出場者がパフォーマンスをし、点数が付けられていった。
しかしその中で、私にはひとつ不満なことがあった。
それは、これまでの出場者の中に純粋な美をアピールする者が居なかった事である。
仮装やコスプレ、あるいは技巧を凝らした演技など、視覚的に非常に満足度の高いものばかりで観客は満足しているようだったが、本来のミスコンの有り様からするとかなり外れている。
もちろん本来のミスコンの意味を知っている者は私以外にいないと思うが、ミセリア・コンテストがまるでイロモノ選手権みたいになっているのは何と言うか、ちょっと納得いかない。
「……おかしいですね。純粋に美しさをアピールなさる方がいらっしゃらないようですが」
「ああ、ミセルが募集要項に「容姿の美醜に関わらず」とか書いたからじゃない?」
「それはもちろんそうなのですが、外見やパフォーマンスの素晴らしさを競うとも書いておいたはずです。普通に考えれば、それなら美しさで勝負しようという方が一定数出てきてもおかしくないと思うのですが」
「そう言われてみると、確かにそうね。なんでかしら」
グレーテルと2人で首を傾げる。
学園には奥ゆかしい人が多いのだろうか。
「……あの、恐れながら、王女殿下」
いかにもおずおずと、といった感じでエーファが申し出る。
グレーテルからは「クラスメイトだからそのようなよそよそしい態度は止めて欲しい」と再三言われてはいるのだが、根が真面目なエーファはグレーテルに対して畏まった態度をやめられないでいた。ヘレーネも同じである。
「マルグレーテ王女とミセリア様が審査員席に座っている状況で、自分の容姿の美しさを競おうなどという身の程知らずは学園にはおそらく居ないのではないかと」
それを聞いた私はグレーテルと顔を見合わせた。
世界で二番目か三番目に美しい顔が私を見つめている。
まあ確かに、これだけ美しい人物に自分の顔を採点されるというのは一般人にはちょっと難易度が高いかも知れない。
「審査員を兼ねている実行委員は全員出場禁止ですしね」
残念ですわ、とユリアが言った。出たかったのか。
私とグレーテルは同時にエーファを見た。
エーファは口の動きだけで「例外もおります」と言っていた。エーファは真面目なだけでなく、ちょっと面白い子だった。
ヘレーネも絵が上手いし、ルイーゼもネジが数本飛んでるし、ユリアの派閥は人材が粒揃いだな。
そう思って彼女らを見ていたら、そんな私の様子に気付いたジジとドゥドゥが指で自分自身を指しながら何かアピールをしていた。
なるほど。我がマルゴー勢も面白さだけならば負けてないようだ。実に頼もしい。いや頼もしいかなこれ。
まあ頼もしさだけで言ったらディーとかビアンカたちもいるし別にいいか。面白枠でも。
その後も美しい出場者はいなかったが、面白い出場者は何人もいた。
特に審査員に受けがよかったのは、学園の名物教師ツァハリアスのモノマネをしていた学生だ。
彼は老人然とした装いでステージに現れ、いくつか寒いダジャレを言った後に、不意に真面目な雰囲気になって誰かを叱る演技を始めた。
中々堂に入ったその演技は、まるでそこにツァハリアス先生が存在しているかのようで、この出場者が実際にツァハリアス先生の叱責シーンをその目で見ていた事が伺える──
「……あれ、もしかしなくてもうちのクラスの方なのでは」
「そうよ。よく気がついたわねミセル」
実技の先生すらわからなかったのに、とグレーテルに揶揄される。
いや、仮面というかお面かぶってたし、受けたこともない授業の先生だし、あれで分かる方がおかしいのでは。
あと、確かに私は今演技している彼がクラスメイトだと見抜いたが、別に名前や顔を覚えているわけではない。何の自慢にもならないけど。
私が気がついたのは、彼がしている演技が、以前私の兄ハインツが授業参観にやってきた時に実際に目の前で行なわれた事だったからだ。
あれは顔から火が出るくらいに恥ずかしかったのでよく覚えている。
当然、今もめちゃくちゃ恥ずかしい。
「ああ、ハインリヒ卿の役も自分でするのね彼。まあハインリヒ卿のセリフが無いとオチにならないしね。ていうか大丈夫なのかしら。彼たしか伯爵家の出だったわよね。次期辺境伯を笑い者にするような内容の出し物はさすがにまずいと思うのだけれど。実家の伯爵の首が切られたりしない?」
「オーガキングの首を切ったのはたぶん持ち運びに便利だからとかそういう理由であって、討ち取るだけならいちいち首など取らないと思います。あとそれは現当主のお父様の仕業です。ハインツお兄様はまだそんな無茶はしてないと思います」
たぶん。
「まあ、確かに壇上の彼の演技は賢い選択とは言えませんけれど……。人は時に、愚かな選択をせざるを得ない場合もありますわ。特に、恋する思春期の男性などは。
──その意気や良し。8点を付けます」
「ユリア様が8点なら私も8点です!」
これまでルイーゼは全てユリアと同じ点数を付けている。
これ実質ユリアが20点持ってるようなものなのでは。
「……ちょっと、ユリア様が何をおっしゃっているのかよくわからないのですが、彼は誰かに恋をしているのですか?」
「……あー。あー。なるほど。そういう事だったかー」
グレーテルが訳知り顔で頷き、頬を膨らませて私を軽く睨んだ。
なんで睨まれないといけないんですかね。
「なんですかその顔。どういう事だったんです?」
「つまり、あれよ。好きな子を恥ずかしがらせて気を引きたいってやつよ」
「……やっぱりよくわかりませんが。一般論として、恥ずかしがらせて気が引けるのは元々脈がある場合だけなのでは」
「……まあ、そうなるわよね。忘れて。なんでもない。
可哀想だから、私も8点あげとこうかしら。これでも一応王女だし、それなりの得点をあげておけばフォローにはなるでしょ」
「ミセルさんはどうされるんですか? まさか、恥ずかしいからと言って点数を不当に下げたりはしませんわよね」
もちろんである。
というか、これ実際のところは恥ずかしいのは兄ハインツであって、私はそんな兄を持って恥ずかしいという程度の感情でしかない。
公平な判断を妨げるほどの障害にはならない。
「……にじゅう……さん……点を付けましょう。内容はともかく、彼のモノマネ技術は素晴らしいものでした」
「顔がぐぬぬってるわよ。貴女のそんな顔が見られたんなら、壇上の彼も本望でしょうね」
モノマネ伯爵子息──正式な名前は知らない。知っている前提だと思われたのか誰も教えてくれなかった──への採点は概ね高めだったが、ジジとドゥドゥのみ低い点数を付けていた。
理由を聞いたら、自分たちはそのシーンを見ていないからピンとこないから、ということだった。
確かに。モノマネってそういうものだ。細かすぎて伝わらない系のやつなんかは特に。
楽しい時間というのは早く過ぎ去ってしまうもので、ミセリア・コンテストもついに最後の出場者になった。
発表順はエントリーされた順番になっていたので、つまり最後にエントリーした人物だという事だ。
ラストエントリーである。ちょっとかっこいい。
そうして壇上に上がったのは、豪奢なドレスに身を包んだ、派手な化粧の女性だった。
最後になってとうとう、私が諦めつつも待ち望んでいた、純粋な美しさをアピールする出場者が現れたのだ。




