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すっかり意気消沈してしまった──というよりはもう立っていられないといった様子だったが──不良学生への尋問によると。
自分のクラスにイチャモンを付けにきたのは、やはり課題のためだったらしい。
クラスの出し物で問題が起き、それによって学園祭の途中で営業停止などの処分を受ければ、立入禁止の措置もなくなりロッカーにアクセス出来るようになるのでは、と考えての事だったとか。
浅はかとしか言いようがない考えだ。そんなだから課題を置き忘れたりするのである。
常日頃から教材は学園には置いておかず、きちんと持ち帰っていればそのような事態にもならなかったはずだ。
私はもちろんそうしている。
まあディーが持ってくれるし屋敷との移動は馬車なので何も苦にならないというだけなのだが。
そう言えばこの不良学生は従者や馬車などは利用していないのだろうか。
第一クラスなら実家は最低でも伯爵家以上のはずだし、むしろ居ない方が珍しいと思うのだが。
「──あの、ありがとうございました。お陰様で、店の評判を落とさずに済みました」
ジョン何某氏が内股をすり合わせるようにもじもじしながらユリアに声をかけた。
彼は私たちと違ってスカートを履いていないのでもじもじしているとバレバレになってしまうのだ。
「……いえ、実行委員として、貴族として当然のことをしたまでです」
その様子に眉をひそめ、ユリアが答える。内股をもじもじさせているのがちょっと嫌みたい。
「……ユリア様、こいつも蹴りますか?」
「ひい!」
ジョン何某氏がきゅっと両手を股の間に挟んだ。
私もそうしようとしたが、スカートがあるためギリギリで踏みとどまった。
「お止しなさいルル。それと、言葉遣いがよろしくありませんわよ」
いや、よろしくないのは言葉遣いではなく会話の内容なのだが。内容がえげつないよう、みたいな。
ジョン何某氏は不穏な空気に耐えられず、繰り返し礼を言いながらも去っていった。
それを見た野次馬たちも散っていく。
が、何人かはそこが喫茶店であるということを思い出して教室へ入っていった。
金属片混入事件は明らかに冤罪だったし、そういう理由でこの店を敬遠しようという客はいなかったらしい。
結果的に店が目立っただけで終わったわけなので、まあラッキーだったのではないだろうか。
その後もふらふらと色々なところを見回り、会議室に戻った。
会議室には留守番でユリアたちの従者が待っていたが、特にどこかから問題が持ち込まれたという話はないようだった。ユリア本人にはエーファとヘレーネが従者代わりに付いているので、普段は従者を連れ歩いたりはしていないのだ。ちなみにエーファとヘレーネもそれぞれ従者を連れてきているが、その彼女たちは普段はユリアの従者の従者のようなことをしている。ややこしいな。
なので、会議室に戻ってからの会話は自然と例の不良学生の話題になった。
「まさか、課題を教室へ置き忘れて、それを取りに戻るために営業妨害を企てる学生がいるなんて……」
「まあ、普通はそんな事考えないわよね」
グレーテルの言うとおりだ。
目的に対して手段が大掛かりすぎる。
彼にとってそれだけ課題が大切だったということなのかもしれないが、だったら忘れていくなという話だ。
「あの方、どうなるのでしょう……」
ぽつり、とエーファが呟く。
あんな利己的な人間にまで慈悲をかけるとは優しいことだ。
まあ私や他の一部のメンバーもある意味で彼に同情しないでもないが。
「それは彼の進退の話ですか? それとも男性機能の話ですか?」
「が、学園での彼の立場の話です! だだだ、男性機能なんて知りません!」
「少なくとも課題は提出できないでしょうね。やっぱり留年かしら」
結局留年の制度ってあるのだろうか。
学園に入学できるレベルの平民であれば留年してしまうようなヘマはしないだろうし、留年するとしたら貴族くらいだろう。
もしかしたら制度自体は存在していても、留年の処分を受けた学生は貴族の体面を気にして自ら退学を選択したりしている、のかもしれない。
「そうなると、来年は私たちと同学年ですね。第一クラスの教室に荷物を忘れていたということは高位貴族でしょうし、同じクラスになるかもしれません。楽しみですね」
仮に男性機能が死んでしまっていたとしても大丈夫だ。
こちらには専門家がいる。
「……別に楽しみではありませんが、まあ、そうなるかもしれませんわね」
その後も他に目立った問題も起きず、学園祭は平穏に2日目までを終えた。
そして3日目。
この日は学園祭最終日である。
3日間の集大成として、ミセリア・コンテスト──略してミスコンが開催される事になっている。




