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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
ドクトル・アルティフェクスと狂気と峻厳
192/381

14-15

昨日予約投稿しようとして間違えてもう一話投稿してしまいました……。

読んだり読んでなかったりする方はお気をつけください。





 ゴルジェイにとっては、敵に妹を人質に取られているようなものだ。

 しかし、これもやはりゴルジェイは気にしなかった。


 なにしろ、ベルナデッタがいるのは魔気コンバータの核である巨大人工ルビーの中である。つまりあれこそデウスエクスマキナにとっての心臓部であり、デウスエクスマキナが何をおいても守ろうとする箇所なのだ。

 であれば、ゴルジェイが多少雑に攻撃をしたとしても、ベルナデッタの安全は命懸けでデウスエクスマキナが守ってくれるはずである。


「デウスエクスマキナよ……。俺の愚妹をよろしく頼むぞ! ハアァァァァッ!」


 ゼノインサニアに気合を流し込み、破壊された大地の腕を再生させる。

 気合を入れすぎてゴルジェイの鼻から鼻血が噴き出すが、気にしている余裕はない。


 再生した大地の腕は再びデウスエクスマキナに襲いかかるが、今度は拘束することなく振り払われてしまう。

 大地の腕とデウスエクスマキナには相当なサイズ差があるが、今のデウスエクスマキナにはその差を十分に補えるだけのパワーがあるようだ。


 その事を誇示するかのように胸のルビーが赤い輝きを増す。

 中で寝ているベルナデッタが物凄く目立っている。

 知らぬ間に観客が増えてきているようだが、無事に助け出された後あの妹は果たしてどんな顔をするだろうか。

 ゴルジェイは人知れず笑みを浮かべた。


 弾かれてしまった大地の腕を、今度は片手だけ叩きつけた。

 デウスエクスマキナは飛び上がり、腕を躱す。

 大地の腕が大きすぎるため、その動きは緩慢に見えているが、指先の速度はおそらく音速に近いものが出ている。

 それをフットワークで回避するなど、異常な事だ。しかもデウスエクスマキナ本体も普通に考えれば十分に大きなサイズであり、相応に重量もある。

 脚が4つある事で負荷を分散しているのだとしても、明らかにおかしい。


 よく見ると、胸の赤い光がデウスエクスマキナの全身を包み込むように覆っているのがわかる。

 おそらく、あの光が機体の保護と全体的なスペックアップをしているのだろう。

 インチキめいた効果も大概にして欲しいものだ、とゴルジェイは巨大な大地の腕を振り回しながら思った。


 ゼノインサニアが大地の腕を振り、デウスエクスマキナがそれを回避し、またゼノインサニアがもう片方の腕を叩きつけ、デウスエクスマキナがそれをガードする。


 ゴルジェイもスケールの違いすぎる腕を操作するのはさすがに難しいのか、単調な攻撃しかしない。

 対するデウスエクスマキナはゴルジェイの攻撃の癖を覚え始め、明らかにガードよりも回避の頻度の方が増えてきた。


 連続して大地の腕を回避したデウスエクスマキナは、どこか余裕の感じられる動きで次の腕を回避しようと飛び上がる。


 しかし、それはゴルジェイの罠だった。


「──かかったな」


 飛び上がったデウスエクスマキナの真下の地面が突然爆発し、そこから第3の大地の腕が現れた。


 ゴルジェイの意思によって動かされる大地の腕は、当然ながらゴルジェイが想像できない動きをすることができない。

 ゴルジェイは逞しい2本の腕しか持っていないため、本来3本目の腕を動かすのは難しい。

 ゆえにか現れた第3の腕は簡素な形状になっており、親指のような太い指が2本しか生えていなかった。


 だがそれで十分であった。


 第3の腕はその2本の指で、デウスエクスマキナの四足獣型下半身の腰をがっちりと掴む。

 空中で身動きが取れなかったデウスエクスマキナに回避する術は無かった。

 ちなみにこの時、ゴルジェイの脳内では自分の足でカニバサミを仕掛けるイメージが展開されていた。


 さらに残った2本の大地の腕の指先が、動きを止めたデウスエクスマキナの両腕を摘む。


「これでもう動けまい! そして──まだこちらには、ゼノインサニア本体がある!」


 その状態で大地の腕を固定したゴルジェイは、ゼノインサニアで大地を蹴り、上空で拘束されているデウスエクスマキナに飛び掛かった。

 そして、勢いはそのままに人工ルビーに手を伸ばす。


 ゴルジェイの狙いに気付いたデウスエクスマキナは人工ルビーを光らせると、赤い力場のようなものを生み出し、ゼノインサニアの接近を阻もうとした。

 力場の範囲に入ったゼノインサニアは、まるで粘度の高い油の中に飛び込んだかのように動きが遅くなる。

 その力場は人工ルビーに近づけば近づくほど強力になるらしく、ルビーの周りの力場は透明な壁のごとくゼノインサニアの指先を拒絶した。


 しかし、それで止められるゴルジェイではない。


「まだだ! アースハンド・キィィィック!」


 大地が盛り上がり、今度は巨大な脚が現れ、ゼノインサニアの背を蹴り上げる。

 その勢いを乗せ、ゼノインサニアの指先がデウスエクスマキナの力場の壁を歪ませた。


 その瞬間、ゼノインサニアの指先が砕ける。

 力比べでは勝てても機体の強度は付いてこられなかったようだ。


 砕けた指先から花緑青に輝くバイタルリキッドが流れ出す。


「うオオォォォ! パゥワアアァァァフィンガアアアアアアア!」


 流れ出たバイタルリキッドがさらに輝きを増し、力場の壁を侵食し始めた。

 それを感じたデウスエクスマキナは焦って身を引こうとするが、下半身と両腕を拘束された状態ではどうしようもない。


 力場を侵食し、無力化したゼノインサニアは、砕けて花緑青の血に塗れた指を人工ルビーに叩きつけ、砕き、ベルナデッタを抉り出す。


 そして大地の脚を蹴り、離脱する。


「これで終わりだ! アァァァァァァァス・エンドォ!」


 大地の腕がデウスエクスマキナの両腕と四足獣型下半身を砕き、空中にばら撒いた。





 ◇





「──ん、ううん……」


「ようやく目を覚ましたか、出来の悪い妹め」


 ゼノインサニアのコクピットの中で、救い出したベルナデッタが目を覚ました。

 簡単な診察は行なったが、身体には特に問題はないようだった。

 意識も戻ったのであれば心配はいらないだろう。


「……あれ……? 私何してたんだっけ……。確か魔気コンバータのハッチが固くて開かなくて……」


「それなら心配いらん。ハッチはもう無い。二度と閉める事はないから、開かなくて困る事もあるまい」


「何それどういう──てか、お兄ちゃん頭どうしたの!?」


 ベルナデッタと同じ、黒い艷やかな色をしていたゴルジェイの髪は、真っ白になっていた。


「あと何か顔色超悪いし、黄緑色に光り輝く鼻水が垂れてるし……」


 噴き出した鼻血からも血の色素が抜け、バイタルリキッドと同じ生命の色になってしまっている。


「話せば長くなる。無事なようなら、とりあえず移動するぞ」


「うんわかった。てかここどこなの? 狭! あ、コクピットか。ゼノインサニア?」


「話は後──」


 その時、外から唸り声のようなものが聞こえてきた。


 覚えがある。

 これはデウスエクスマキナの声だ。


 慌てて破壊したデウスエクスマキナを確認すると、砕かれた人工ルビーの破片が全て、赤い光に支えられるようにして宙に浮かび上がっていた。


「ああああああ私のデウスエクスマキナが無残な姿に! 無残な……無残な……? 何あれ……」


 ルビーの破片はお互いに引き合うように寄り集まっていき、砕けた断面をぴたりと合わせるとひとつ大きく赤い光を放つ。

 光が収まるとそこには、元の通りの球体に戻ったルビーが宙に浮いていた。


「……なんだと……馬鹿な」


 さらに人工ルビーは赤い光を垂れ流し、辺りを赤く染め上げる。


 ルビーから溢れた赤い光は、光というより霧か(もや)のようにゆっくりと沈んでいく。

 するとその赤い靄は、地面に散らばっているデウスエクスマキナの腕の残骸にまとわり付くと、それを持ち上げ、倒れたままのデウスエクスマキナの機体の側に置いた。


「まさか……」


 赤い靄は腕と機体本体の破断部分に集まってくると、腕を運んだ謎の力で引きちぎられたフレームやケーブルをひとつひとつ丁寧に繋ぎ合わせ始めた。

 その様子はまるで、腕のいい外科医の手術を見ているかのようだった。


 腕を繋ぐと、今度は破壊された下半身に靄が集まり、同じように修復していく。

 しばらくすると、流石に破壊の痕は残っているものの、デウスエクスマキナはほぼ完全に元通りになってしまった。


 そして最後に本体胸部に浮かんでいた人工ルビーがすっぽりと入っていき。

 デウスエクスマキナは再び4本の脚で大地を踏みしめ立ち上がったのだ。


「……なにこれ……夢? まだ夢の中なの……?」


「……まずいなこれは。もう、ゼノインサニアを動かすエネルギーが……」


「ゼノインサニアを動かすエネルギーって、じゃあやっぱりここってゼノインサニアの中なのね。

 お、お兄ちゃん……。まさか、その白髪って……。いえ、それよりその鼻の、もしかして元は鼻血だったんじゃ……」


「話は後だと言ったはずだ。いや、言いかけただけで言ってなかったか? まあいい。今はそんな話をしている場合ではない。

 しかし、どうするかな……」


 今度こそ、どうしようもない。

 いや、仮にどうにか出来たとしても、その後また復活されるようなら同じことだ。

 こういう場合、核となっている部分を破壊すれば何とかなるのがセオリーというものだが、最初の一回目で核から破壊したというのにこの有様である。

 まるで、あの赤い核が「治すこと」に特化している存在であるかのようだった。


 もはや、打つ手は無かった。





 そこに、不意に涼やかな声が響いた。


 肉声ではない。

 直接言葉の意味だけが、一方的に伝えられるような、そんな不思議な感覚だった。


 しかし、その言葉の真意を理解出来たものはその場にはいなかった。





 ──これ、どちらがヘラクレスなんでしょう。






次回からお嬢視点になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 脳内に鳴り響くG○ンの明鏡止水の音楽
[良い点] 更新ありがとうございます!! どこぞのクイーンオブハートさんを幻視してしまったw かにばさみのイメージ中に更に蹴りを加えるゴルさんスゲー!!マルチタスクもお手の物。 [気になる点] ゴルさ…
[一言] ヘラクレスてw
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