14-12
「──うおおおおおおお! パウワアァァナッコオォォォ!」
ゴルジェイの魂の叫びに応えるかのように、ゼノインサニアは拳を振り上げ、デウスエクスマキナに叩きつけた。
コンペティションの時はさほど変わらない体高であったため、その頃であれば頭部に叩きつける事が出来ていたであろう拳は、大型化したデウスエクスマキナが相手では胸あたりまでしか届かない。
ゼノインサニアの拳により、デウスエクスマキナの胸部がわずかにへこむ。
コンペティションで見た通りの構造であるなら、胸部には魔気コンバータの核となる巨大ルビーが収められているはず。
つまり、あの胸部装甲は他の装甲より薄めに作られている可能性が高い。
にもかかわらず、この有様だ。
これでは他の部位を攻撃したところで満足にダメージは与えられないかもしれない。
そもそも、魔気コンバータはデウスエクスマキナにとって最も重要な機関である。
構造上仕方が無かったのかどうなのかは知らないが、その最重要機関の防御が最も薄いとはいったいどういう了見なのか。
仮にも戦闘を行なう兵器として設計したのなら、そういった防御面での安全率はもっと考えておくべきである。
「……とは言え、ゼノインサニアで思いきり殴りつけても軽くへこませるのがせいぜいなんて防御力があるのなら、すでに十分だと言えなくもないが……」
ゼノインサニアは操縦者を選ぶ。
適切な能力がなければ起動することさえ出来ない。
一度、研究所の周りをうろついていた警備員を捕まえて操縦席に放り込んでみたのだが、何とか歩かせる程度がせいぜいでとても戦闘行動など無理な様子だった。
国家を守る精鋭の兵士とかならばともかく、雇われの警備員なら仕方がないかもしれないが、少なくとも一般人ではまともに動かせないのは間違いない。
結果、今の所は開発者であるゴルジェイ本人の操縦適性が最も高いという事になる。
そのゴルジェイが操るゼノインサニアの一撃でさえ、この程度である。
一応客観的な性能評価として既存の攻撃手段との戦闘力の比較は行なっているが、ゴルジェイが操るゼノインサニアの拳の一撃は移動式の大型魔砲の一撃を凌駕する。
数値上ではコンペティションでファウスト博士が見せた新型の主砲と同程度の威力だ。
もっともこちらはゴルジェイの気合に左右されるため、常に高パフォーマンスを発揮出来るというわけではないのだが。
「しかし、あれで破壊出来ないとなると、どうしたものか──っと、まずい!」
ゼノインサニアに胸部を殴りつけられ、仰け反ったまま停止していたデウスエクスマキナが再び動き出す。
デウスエクスマキナは立ちはだかるゼノインサニアを敵と定めたのか、その手に生えている鉤爪のような指を振るい攻撃を仕掛けてきた。
「危ない! ハァァァァァ! パウワアアァァァアヴォイ──ぐはっ!」
ゴルジェイは咄嗟に回避しようとしたが筋力の充填が間に合わず、回避しそこねて相手の爪を掠らせてしまった。
爪が掠ったゼノインサニアの左側の脇腹は爪の形にえぐり取られ、そこからまるで血のように青い液体が流れ落ちる。
これはゼノインサニアを動かすために全身に巡らせてある特殊な液体である。長年の研究の末にゴルジェイが作り出した新しいエネルギーと動力システム、その土台となっている物質──バイタルリキッドである。
ジェネレータを停止させている時は無色透明の液体であるが、筋力を込めてエネルギーを充填させると青くなり、ほのかに発光する。
流れ落ちたバイタルリキッドからは徐々に筋力エネルギーが抜けていくので、機体をつたっているうちはともかく、地面に落ちる頃になると透明になってしまう。
ゼノインサニアは機動兵器であるため、当然戦闘を想定して設計してある。
戦闘を行なうのであればダメージを受けるのも当然なので、機体の各部はブロック化してあり、ダメージを受けた部位が明らかであるなら、コクピットでその部位へのバイタルリキッドの供給をカットすることでダメージコントロールを行なう事が出来る。
「だが、これで左下半身のパフォーマンスが落ちてしまうのは避けられないな……。やはり、筋力エネルギーは効率が悪い上に即応性に問題があるか。やれやれ。実戦に優るデータ取りは無いということだな」
言いながらも、ゴルジェイはデウスエクスマキナの次の攻撃に備えて全身に筋力を漲らせる。
今度は回避してやる、という強い決意からだったが、しかしデウスエクスマキナはゼノインサニアを無視し、再び街に向かって歩きはじめた。
「チッ! こちらのことなど眼中にないというわけか! それともそんなに街に欲しい物があるのか?
──おい! ベルナデッタ! そいつを止めろ! それ以上街に近づくな! 被害が出てしまうぞ!」
呼びかけてみるが、全く反応はない。
これは戦闘を開始してから度々繰り返していることなのだが、一度も返答は無かった。それどころか、声に反応している様子さえない。
あれを操っているのがベルナデッタであるなら、さすがに全くの無反応ということはないはずだ。
だとすると、デウスエクスマキナは何らかの理由によりベルナデッタの制御を離れ、暴走状態にあると考えるのが妥当である。
「……全く、何をしているのだあいつは……。後先考えずにモノを作るからこうなる。尻ぬぐいはいつも俺だ」
しかし、このまま放置して街に被害を出すわけにはいかない。
ゴルジェイはゼノインサニアの中で拳を握りしめ、決意を新たにする。
何より、不出来とは言え愛する妹を都市破壊の犯罪者にするわけにはいかなかった。
パワーアーム……特に目的もなく腕を動かす時に使う
パワーアボイド……避けろピ○チュウ!みたいなやつ
パワーナックル……殴れピ○チュウ!
なお単に気合を入れるためだけのワードなので、別に言う必要はない模様




