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ゴルジェイの後にプレゼンを行なったファウスト博士の作品は、以前開発した物のエネルギー効率を大幅に改善した物だった。
博士が大型の機動兵器の開発を始めてから7番目の機体のリファインということで、ファウスト・ファブリカ7号機リファインという名前が付けられていた。
ベルナデッタやゴルジェイに比べれば大先輩とも言うべきファウスト博士が自信をもって出してきただけあり、7号機リファインのエネルギー効率は劇的に上昇していた。魔石の消耗は従来の7割程度であるにもかかわらず、出力は2割増しと大幅なスペックアップがなされていた。
すでに齢60を数えようという高齢のファウスト博士であるが、その技術力と成長性にはいささかの衰えもないようだ。
審査委員の高官たちも先ほどとは打って変わって満足気な表情で評価シートに記入をしている。
ファウスト・ファブリカ7号機リファインは腕のようなマニピュレータもない、一見すると小山のような多脚の機動兵器であり、デザイン的にも真新しいところは何もないのだが、全くの新技術であるゴルジェイの人型機動兵器よりも余程受けが良い。
この様子を見るに、おそらく国がこのコンペティションに求めていたのはゴルジェイのような荒唐無稽な新技術ではなく、ファウスト博士のような現行の確立された技術と地続きにある堅実な技術だったのだろう。
そんな中でゴルジェイが選出されたのは、全くの新しいエネルギー体系という文言に一縷の望みを見出したからだろうか。
まあ残念ながらその結果はお粗末なものだったが。
いや、選考委員が新技術という言葉に釣られていなくともゴルジェイが選ばれていた可能性は高い。
あれでも技術力はちゃんとあるのだ。
ゼノインサニアも、そのエネルギー源自体は荒唐無稽ではあったが、それ以外の部分は十分に高性能だった。おそらく素直に魔石を使っていればファウスト・ファブリカ7号機リファインよりも高い戦闘能力を発揮するだろう。
問題なのは筋力を使うとかいう意味不明なシステムと、それをまともに動かすにはゴルジェイ並の筋肉が必要であるという点だけだ。
そしてファウスト博士のプレゼンも無事に終わり、ついにベルナデッタの順番がやってきた。
ゴルジェイがふてぶてしい笑みを浮かべながらこちらを見ている。
いや、なんでそんな顔が出来るのか。
もしかして自分の発表はアレでうまくいったと思っているのだろうか。
「では、これより私、ベルナデッタ・アルティフェクスのプレゼンを始めたいと思います」
ベルナデッタの研究は方向性としてはファウスト博士のような、現行の魔石エネルギー技術の発展に近いものだ。
ただしゴルジェイほど極端ではないにしても、ベルナデッタも魔石のみに頼ったエネルギーインフラの脆弱性は憂慮していた。
魔科学文明の根幹とも言えるエネルギー供給を自然物である魔物から得られる魔石のみに頼っていては、これまでのように突然魔物がいなくなってしまった時に容易に行き詰まる事になる。
それは単に文明の停滞を意味するものではなく、場合によっては直接人命に関わる事もあるかもしれない。
実際、すでに一部の病院では魔導具による医療機器で命をつないでいる患者もいる。彼らは魔石の供給が途絶えてしまえば生き長らえる事さえできなくなる。
ベルナデッタは自らの作品、大型機動兵器デウスエクスマキナのスペックの説明をし、実際に起動させてデモンストレーションを行なった。
その全てを見学した審査委員たちはいくつか頷きながら評価シートに何事か記入をしている。
そしてその中の1人が挙手をした。
「スペック上の出力はファウスト博士の7号機R以上……。足回りは安定性のある四脚で、上半身は人型になっているのですね。パワーと汎用性を併せ持つというのがコンセプトですか。まさにゴルジェイ博士とファウスト博士の機体のいい所だけを取り込んだような機体と言えますが……」
審査委員はデウスエクスマキナの後部に回り、四足獣型下半身にある魔石用のカーゴを見上げた。
「その分、必要となる魔石の量は膨大になるようですね……。カタログスペックは素晴らしいものがありますし、ゴルジェイ博士のものと違いカタログ通りのスペックを発揮できるのは間違いないようですが、いかんせんコストパフォーマンスの方は……」
「お待ち下さい。まだ説明は終わっておりません」
確かに、魔石用カーゴボックスに入れられる魔石の量は膨大だ。デウスエクスマキナの起動に多くのエネルギーを必要とするのも間違いない。
しかし、それはすなわち魔石を大量に消費する事を意味しない。
もちろんそういう運用も可能だが、このデウスエクスマキナの真価はそこではない。
「只今ご説明した、戦闘能力を始めとする表面的な性能だけがデウスエクスマキナの力ではありません。それらはあくまで既存の技術の発展に過ぎず、新技術とは呼べないものです。
このデウスエクスマキナに搭載された新技術は、戦闘能力とは直接関係ない別の部分にあります」
ベルナデッタはリフトを使いデウスエクスマキナの胸部付近まで登ると、外部から機体を操作して胸部のハッチを開放した。
そこには現状ベルナデッタが持っている魔科学技術の粋を集めて作られた、真紅に輝く巨大な人工ルビーが鎮座していた。
「こちらをご覧ください。これは私が開発した魔気コンバータです。背部にある魔気インテークファンから大気中に含まれる魔の気を吸入し、それを精錬して魔石へとコンバートできます。
つまり、わざわざ魔物から取り出した魔石を供給しなくとも、自力で魔の気から魔石を生み出す事が出来、それを自らの動力源にする事が出来るのです。
通常、大気中の魔の気は魔物が生命維持のために吸入し、成長するために消費されます。そして育った魔物から魔石を取り出す事で我々は魔導具用のエネルギーを得ています。
しかしこの魔気コンバータシステムさえあれば、魔物を介さず魔の気から直接魔石を生み出す事が出来るのです。
特に現状、大陸の魔の気の濃度が異常に上昇していることは周知のことかと思いますが、これを──」
画期的な新技術、っていうとだいたい何かちょっとヤバいフラグ。
筋力ジェネレーター? 知らない子ですね(




