13-22
ハロルド・レベリオ伯爵の抵抗はそこまでだった。
あちらにも私のような優秀で美しい弁護人でもいれば話は別だったかもしれないが、彼は今日はあくまで関係者として呼ばれただけだったのだ。弁護人なんて用意しているはずがない。
というか被告じゃなくても弁護人て連れてこれるのかな。弁護団を引き連れて関係者席に入れたりするのだろうか。発言権とかは無いと思うが。
抵抗をやめたレベリオ伯爵はぽつぽつと自白を始めた。
彼が直接法に触れるような事をしたり、またその指示をしたりといった決定的な証拠は無かったが、ジャン氏の時のように単にアリバイが無いというだけではない。もう完全に観念してしまったようだ。
「……だいたいは、そこの、マルゴーの小娘が言ったとおりだ……。
私は以前から、タベルナリウス侯爵のやり方が気に入らなかった。
侯爵は能力さえあればどんな者でも取り立てるというスタイルで、実際にそこの元孤児の男を自らの代官として王城に勤めさせ、その仕事に見合った給料と待遇を与えた。私はそれが納得いかなかった……。
確かに、ジャンは優秀な男だ。だが優秀なだけでは駄目なのだ。特に財務を預かる部署であれば、実力よりも身分が物を言う事もある。私が何度、他部署との折衝にジャンの代わりに骨を折ったか……」
まあ確かに。
財務課としては合理的に予算申請を却下しただけだとしても、それに納得できない者はいるだろう。平民であるジャン氏にヘイトが向くのは避けられない。
それを補佐役らしいレベリオ伯爵がずっと取りなしてきたのだとしたら、ストレスも溜まるか。
「……愚かな……。ジャンは平民かもしれんが、この私が後見人なのだぞ。何のために私がいると思っているのだ。そういう時は、素直に私に話を回せばよかったのだ。
それに実力主義は、王家主導でずっと以前からインテリオラで続けられている基本方針だ。私に限った話ではない。何のために王立学園に平民枠があると思っているのだ。貴族が優越感を感じるためのものではないのだぞ」
項垂れるレベリオ伯爵にタベルナリウス侯爵が声をかけた。
そう言えばいたなこの人。ジャン氏と並んで存在感が仕事をしていなかったから忘れていた。いやもしかしたらジャン氏も侯爵も発言権が無かったのかもしれないが。まあその分私がたくさん発言したからいいとしよう。
「ですがその学園でも、生家の身分によって厳格にクラス分けがされているではありませんか。あれこそ、実力主義とは言いつつも実状は貴族家を優遇するという国の方針の現れなのではないのですか」
「あれは単に、無用な諍いを避けるためのものだ。残念ながらこの国にもまだお前のように、身分の低い者の実力を素直に認める事が出来ない者がいる事は確かだからな。
現に、第一クラスと第二クラスで行なわれている授業の内容は全く同じだ。お前の主張が正しいのなら、優遇すべき高位貴族にはより高度な教育を施しているはずだ」
実際は第二クラスでは貴族同士や平民と下位の貴族との間で軋轢なんかはあるらしいが、全部ごちゃまぜにクラス分けをするよりはきっとマシなのだろう。
第二クラスに所属しているルイーゼなんかは元平民で現子爵令嬢という悪い意味で話題性の塊みたいな存在なのだが、自由時間はほとんど第一クラスに入り浸っているのであまり問題になっていない。もちろん第一クラスにもその様子を快く思っていない者もいるみたいだが、それもルイーゼと仲良くしているユリアがクラス内でも有数の実力者なので表面化まではしていない。幸運値高いなルイーゼ。
「……では、なぜ……なぜ、我々のような貴族がいるのですか……。優秀な平民さえいればいいのであれば、貴族など必要ないではありませんか……」
「ハロルド、貴族がなぜ貴族なのか、考えたことがあるか? 平民は生まれた時から平民であり、お前は生まれた時から貴族だった。それは何故だ」
「……わかりません」
「それはな、お前の親が貴族だったからだ。そしてお前の親が貴族であったのは、さらにその親が貴族だったからだ。我々が貴族で居られるのは、我々の先祖が貴族位を与えられていたからなのだ。
我々が優れているのではない。我々の先祖が優れていただけなのだ。
しかし優秀な者からは優秀な者が生まれやすい事は言うまでもなく歴史が証明している。例え当代の子は愚鈍でも、さらにその子は優秀だったなどという話はいくらでもある。
つまり我々王都の貴族は、いつか再び生まれるかもしれない優秀な者に恵まれた環境を与えるために、貴族位を与えられているのだ。まあ、地方領主はまた成り立ちが違うから一概には言えんが……」
侯爵はそう言ってこちらをちらりと見た。視界に美の結晶が映り込んでしまったから気になったのかな。
「……ハロルド。その気になれば、証拠を捏造してジャンを重罪人に仕立て上げる事も出来たはずだ。もしそうなっていれば、そこの小娘が介入する間もなくジャンは起訴され、処刑されていただろう。
そうしなかったのは、お前にもわかっていたからではないのか。ジャンの能力が、この国に必要なものなのだと……」
レベリオ伯爵は項垂れたまま、答えようとはしなかった。
「……私はな、お前の能力もまた、この国に必要なものなのではないかと思っている。だから陛下にはお前の助命を嘆願するつもりだ。お前のやったことは控えめに言っても重罪だ。おそらくただでは済むまいが──」
「公文書偽造、偽証罪、偽証教唆、脅迫罪ですね。結果的に金貨の持ち出しはされていませんので横領は付きませんが、横領未遂は付くでしょう。これでアングルス領が陥落していれば国家反逆罪で一家連座で処刑だったかもしれませんが、そこまではいかないと思います。よかったですね。
ああ、ですが狙って冤罪をかけられたジャン氏が被害を訴えれば合わせ技で極刑もあり得ます」
空気を読めないのか読まなかったのか、裁判人がそう宣告した。
そして視線が集まったジャン氏は一瞬呆けた後、慌てて答えた。
「ええっ!? い、いや、僕はその、誤解が解けたんなら、それで……。ハロルドさんには、いつもお世話になってましたしね。きっとこれまでも、僕の知らないところで僕の足りない部分のフォローをしてくれていたんだと思います。今回はそれが、ちょっと違う方向にいってしまっただけで……」
その言葉を聞いたハロルド・レベリオ伯爵から、謝罪の言葉と嗚咽が漏れ聞こえてきた。
本人も謝ったことだし、これで一件落着でいいだろう。少なくとも私は満足だ。あとの事はタベルナリウス侯爵と裁判人に任せよう。
◇
「──ミセリア・マルゴー」
帰り際、タベルナリウス侯爵から声をかけられた。この人に名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。人のことをフルネームで呼びつけるのはタベルナリウス侯爵家の家訓か何かなのかな。
「……礼は言わんぞ」
いや礼くらい言えよ。
別にこっちだって礼が欲しいわけじゃないけど。
と答えるのもツンデレみたいで何なので、言い方を変えた。ツンデレはユリアの専売特許である。美しい私は他人の畑を無断で荒らしたりはしないのだ。
「お礼は結構です。侯爵閣下のためにしたことではありませんから。ですが、ユリア様にはぜひよろしくお伝え下さいね。この私の美しい活躍を」
しかし侯爵は答えず、そのまま背を向けて去っていってしまった。何なの。
◇
それから数日が過ぎ、ユリアやエーファ、ヘレーネが登校してきた。
エーファとヘレーネの実家はレベリオ伯爵が圧力をかけてきた時点で体調不良を理由に引き籠もり、状況から距離を置いていたらしい。結果的に一番賢い立ち回りだったと思う。
娘であるエーファたちがそれを知らされたのは全てが終わってからだったそうで、ずっと屋敷の中で不安なまま過ごしていたようだ。
『死神』たちを使ってお見舞いとか送ればよかった。逆効果か。
私が弁護したジャン氏は無事に職場に復帰し、レベリオ伯爵は爵位を剥奪され、王都に持つ屋敷を接収された上で無期限の謹慎を命じられた。
重いようにも思えるが、命があっただけよかったのだろう。
王城での彼のポジションは今、ジャン氏が自分の職務と兼任して1人で頑張っているそうだ。
いつか謹慎が解かれた時、職場に戻ってこられるようにと。平民として。
これまで貴族の身分をうまく使って折衝していたわけだから、果たして平民の立場で同じように出来るのかどうかはわからないのでは、と思ったが黙っておいた。
ちなみにユリアは登校するなり私のところに「……礼は言いませんわよ」と言いに来た。
なんだあのおっさんよろしく伝えてないのかよ、と思ったが、ユリアは続けて「ていうかどうやってお父様を籠絡したんですの? なんかめっちゃ褒めてましたけど」と言っていた。
侯爵、なんかツンツンしてたけど知らないうちに私に籠絡されちゃってたのか。親子揃ってツンデレかな。
やはり私の美しさは罪なようだ。
13章はこれにて終わりです。
次回から14章ですが、サブタイは未定です。明日までに決めます(明日までに決めるとは言ってない
13章と言うことでキリがいいので、まだブックマーク、高評価などされていない方はぜひお願いします。さりげに「高」評価に限定するあたりが図々しいですね。
13の何がキリがいいかと申しますと、昔から13という数字はいい意味でも悪い意味でも何かと特別視されてきた数字であるからです。
例えばトランプはスート(マーク)ごとに13枚ずつで作られていますし、麻雀の手牌も基本的に13枚です。
他にもテレビ番組編成の1クールがだいたい13週だったり、イギリスではパン屋の1ダースというと13個の事を指したりします。これは12個プラスおまけの事なので元は12ですけど。
あとあんまり本作と関係ないかもしれませんが、タロットのアルカナでXIII、つまり13番目は『死神』のカードですね。




