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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと陰謀の都
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13-19





 私は初めて入ったインテリオラ中央裁判所の中を見渡した。

 雰囲気は前世の日本のものに近いような気がするが、彩色が全体的に白い。

 たぶん建材に白い石が多く使われているからだろうが、どことなく宗教施設の匂いもするような気がする。


 と思っていたら、少し高い位置に座る神官らしき人物を発見した。事前に紹介された裁判長ポジションのおじさんは別にいるので、あれは裁判長ではない。

 インテリオラの裁判は判事兼検事と被告の二面裁判だと聞いている。

 被告人のジャンの顔は知らないものの、さすがに被告が一番高いところに座っているとも思えないので、おそらく裁判に直接関係のある人ではないのだろう。

 直接関係があるわけでもないのに偉そうな立場で参加している神官がいるということは、裁きは神前にて下されるとかそういう文化なのだろうか。そんな説明は受けていないのだが。





 ◇





 裁判が開始され、形式的に自己紹介したら知らないおっさんにウザ絡みされた。


 やだ何なの、私が美しいせいかなと思っていたらおっさんは裁判長に注意され、ジャン氏を挟んで私の反対側に立っているタベルナリウス侯爵も舌打ちをしていた。

 彼も関係者で、タベルナリウス侯爵とは顔見知り。状況から察するにあれがレベリオ伯爵だろう。


 タベルナリウス侯爵派閥の人間であれば、この場にマルゴー関係者が存在している事のおかしさもわかるはずだ。

 私が美しいせいで声をかけられたわけではなかったらしい。


 ともかく、冒頭こそちょっとしたトラブルはあったが、裁判は私が弁護するまでもなく淡々と進んでいって、淡々と行き詰まった。

 元々証拠不十分で起訴されていなかったくらいなので当たり前である。


 今回起訴されたのは、私がグレーテルを通じて先ほどの裁判長に起訴してもらえるようお願いしたからだ。


 私の目的はこの場所でジャン氏の無実を証明することと、さらに彼を陥れた人物を告発し、そのまま有罪にしてしまうこと。


 前世の日本の裁判であればそういう場合、その場で新たな被疑者の罪が追求される事はない。とりあえずその裁判は終えてから、改めて検察が立件したりとかそういう流れになるはずだ。

 今の所、インテリオラではそういう事例は起きたことがないのでわからないのだが、事前に裁判長に聞いたところでは、被告人をその新たな真犯人に挿げ替えて裁判を続ける事は可能であるらしい。

 裁判の目的は特定の人物の罪を明らかにする事ではなく、事件の真相を明らかにする事であるからだそうだ。


 なので起訴をする裁判長的には、ジャン氏の有罪を証明出来なくても結果的に事件の主犯を有罪に出来るのなら、裁判長としての株は上げられるらしい。別に裁判長のポイントのためにやるわけではないが、それで協力してくれるというのであれば動機は別になんでもいい。





「──以上が、被告人が横領を行なったとされている経緯ですが……。残念ながら、決定的な証拠と呼べるものはありません。

 被告人からは何かありますか」


 裁判長がそうこちらに水を向けてきた。

 自分で起訴しておいてその言い草はないだろう、と思えるが、検事が判事を兼ねているのでこれはしょうがない。本来、そんな状況で裁判が開かれる事自体あり得ないのだ。裁判長もさぞ内心困っていることだろう。


「裁判長、発言してもよろしいでしょうか」


「弁護人、どうぞ。それと、何度も言いますが裁判長ではありません」


「失礼しました」


 私もせっかくの裁判だし「裁判長!」って言ってみたいだけなので、別に本当に間違えているわけではない。


「ジャン氏の有罪が証明出来ないことは、もはや明らかです。裁判の目的は真実を明らかにすることですので、つまりジャン氏の有罪が証明できないことこそが真実であると考えられます。

 すなわち、もう無罪でいいのでは」


「……ちょっと、何を言っているのかよくわからなかったと言うか、それはさすがに詭弁ではないかと思いますが、言いたいことはわかりました」


 私も自分で何言ってるのかわからなくなりそうだったが、裁判長には何とかわかってもらえたようだ。事前にだいたいの流れを打ち合わせておいたからかもしれない。


 そしてここから、真実を明らかにするためにそもそも何故ジャン氏に容疑がかけられたのかという方向に話を持っていくのが私の書いたシナリオなのだが──


「ちょ、お待ち下さい!」


 その前に待ったがかかった。

 声の主は先ほどのウザ絡みおじさん、推定レベリオ伯爵だ。


「……先ほど、用があれば指名しますから、静粛にとお願いしたはずですが」


「あ、はっ、も、申し訳ありません! しかしですね、そこの、ジャン氏については一度は容疑者として挙げられたわけですから、何らかの疑惑はあったはずです! それを、証明できないからと言って無罪にするのはいささか乱暴では……!」


 ウザ絡みおじさんは裁判長に叱られながらも、今度はめげずに主張を続けた。

 しかも何故か私を睨みつけながら。

 何なの。やっぱり私が美しいせいなの。


 裁判長は眉をひそめながらもそれ以上は指摘せず、話を続けた。


「つまり、発言者が言いたいのはこういうことですか。

 容疑をかけられた以上は、容疑をかけられるだけの理由があったはずだから、それを明らかにするまでは審議を終えるべきではない、と」


「そ、そうです! おっしゃる通りです!」


 え、いいのかそれで。

 まあ本人がいいのならいいか。


「わかりました。確かに一理ありますね。

 ──ではこれより、被告人がなぜ横領の容疑をかけられるに至ったのか。その真実について審議をしていく事とします」






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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてこれ墓穴掘ってません? 容疑かけられるまでの過程を詳しく見ていったらどっか矛盾してそうですし、そうでなくとも微妙なとこが有ればお嬢がそこを起点にぶち壊しそう…
[一言] 裁判人、今回苦労しそうだなあ
[一言] ウザ絡みおじさんが邪魔してきたが裁判長(裁判長ではない)の名アシストで無問題。
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