表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと陰謀の都
173/381

13-18





 横領の容疑がかけられているとして、王城に拘束されているジャンという男がいる。

 しかし彼が横領を行なった容疑については状況証拠や曖昧な証言しかなく、それも罪を確定させるには不十分な内容であった。

 さらに彼の後見人であるタベルナリウス侯爵の関与も疑われていたため、慎重に調査が行われており、現在は小康状態に近い形で落ち着いていた。


 しかしある時突然、この件について裁判を執り行なうと関係者全員に王城から呼び出しがかかった。


 ハロルド・レベリオ伯爵は困惑した。


 彼の罪状を確定させるほどの証拠などが出てくるとは思えない。

 インテリオラ王国の司法制度では近隣の国々と同じく糾問主義的な手法が取られているため、裁判人が被告人を起訴することで裁判が行われる。

 当然裁判人は相応の自信が無ければ起訴しないため、起訴された時点で被告人の有罪はほぼ確定しているのが普通だ。

 そこまで裁判人やその部下の捜査関係者が確たる証拠を掴んでいるとは考えられない。


 なぜなら、そんな証拠などどこにも存在しないからだ。

 ジャンが実際に横領をした事実などどこにもなく、当然それをタベルナリウス侯爵が指示した事実もない。


 ハロルド・レベリオ伯爵にはもう後がない。


 タベルナリウス侯爵令嬢に放った刺客が帰って来なかった時点で、少なくとも侯爵にはレベリオ伯爵家の関与が知られてしまったと考えるべきだ。

 令嬢と王家が内密につながっており、ハロルドの配下の証言とタベルナリウス侯爵側の認識との食い違いが王家とタベルナリウス侯爵との間で共有されてしまっていれば、その後の令嬢襲撃の件と合わせて誰でもハロルドを疑うだろう。

 もちろん身元保証人がおらず犯罪歴もある刺客の証言など裁判で証拠として認められることなどないが、証拠がないだけで、ジャンが無罪でありハロルドが彼を陥れたのはわかりきっているはずだ。


 にもかかわらず、起訴されたのはどういうことなのか。


 ともかく詳細はわからないが、しかし関係者として呼ばれた以上は行くしかない。

 これを正当な理由なく拒否すれば、ハロルドは召喚に応じなかった容疑で捕らえられる事になるだろう。

 そうなれば今のジャンと同じく、起訴に十分な証拠が見つかるまで王城に拘束される。証拠不十分と認定されるまでの間、重要な書類を隠し通せるとは思えない。


 こうなったら、ジャンの裁判で何とか彼を有罪に持っていくしかない。

 彼が本当に罪を犯していた事にして、タベルナリウス侯爵にハロルドを追求するだけの余裕を持てなくしてやるのだ。


 関係者として呼ばれた以上、ハロルドにもおそらく証人として少なくとも発言の機会は与えられる。

 ジャンの裁判であるのなら、裁判人はジャンを有罪にしたいはず。その裁判人の心理を煽ってやれば、多少弱い証拠や証言でもジャンを有罪に出来る可能性は十分にある。





 ◇





「これより、被告人ジャン、及び後見人アブラハム・タベルナリウス侯爵に対する、戦時交付金横領事件の容疑についての審理を始める。被告人ジャンは前へ」


 裁判人が宣言し、縄で手を縛られた男が裁判人の前に立った。

 彼がジャンだ。

 王城内ではハロルドの上司でもあったため、顔はよく知っている。孤児のくせに伯爵たるハロルドの上に立つとは、と何度も思わされた事もあったが、彼が優秀である事はハロルドが一番良く知っていた。

 そしてタベルナリウス侯爵も彼の後ろに立つ。


 さらにひとりの少女がツカツカと歩き、ジャンの隣に立った。

 背格好からタベルナリウス侯爵令嬢ユールヒェンか、と思ったが、明らかにオーラが違う。


 何だアレは。誰だ。


「裁判長。被告人の弁護をしたいと思います。同席をお許しください」


 弁護だと。どういう事だ。

 いや、制度としてそういうものが認められている事は知っているが、大抵の裁判は有罪がほぼ確定してから起訴されるため、好んで弁護をする人間などいない。


「……裁判長ではありません。私は裁判人です。裁判人はひとりがひとつの事件を担当していますから、長はいませんよ。組織上の上司はいますが、彼はこの裁判には関わりませんし、役職名も裁判長ではありません」


「失礼致しました、裁判人。被告人の弁護をします、ミセリア・マルゴーです。マルゴー辺境伯ライオネルの娘です。後見人は父ライオネルです」


「よろしい。身元保証書を確認しました。弁護人ミセリア・マルゴーの同席を許可します」


「マ、マルゴー!? なぜマルゴー家がしゃしゃり出てくる!?」


「関係者席は静粛に。用があればまた後ほど指名します。それまで勝手な発言は慎むように」


「はっ……。も、申し訳ありませんでした」


 全く予想外の名前が出てきたために、つい大きな声を出してしまった。


 マルゴー家と言えば、タベルナリウス侯爵派閥とはライバル関係にある地方領主の筆頭だ。

 地方領主はその職責上、特定の場所で会合を持ったりすることが困難であるため明確に派閥を形成したりはしていないが、侯爵派閥からは地方領主は全てまとめて一個の派閥だと見なされていた。


 そんなマルゴー家がタベルナリウス侯爵の関係者の裁判に、しかも弁護人として参加するなど普通に考えて有り得ない。


 いや、まさか、もしかして、とハロルドは考える。


 タベルナリウス侯爵派閥はこれまで、地方領主に対するライバル心から事あるごとにせこい嫌がらせのような事をやってきた。

 法に触れたり実害が出たりするほどの事はしていないが、それでも地方領主にとっては煩わしかったに違いない。

 マルゴー辺境伯からは、まるで相手にされていないような感じが伝わってきていたのだが、それでも内心では鬱陶しかったのだろう。


 そして今回、タベルナリウス侯爵が窮地にあるとどこかで聞きつけ、弁護とは名ばかりで隙あらば後ろから斬りつけるくらいのつもりで首を突っ込んできたに違いない。


 そう考えれば今回の裁判が性急に執り行われたのも頷ける。

 王家に対しても強い発言力を持つマルゴー辺境伯が強引にねじ込んだのだろう。


 もしそうなら、これはハロルドにとって追い風となる。

 

 ハロルドは期待を込め、裁判の推移を見守ることにした。





裁判官、検事、被告人(弁護人)の3者に分かれての現代風の裁判のことを弾劾主義、インテリオラ王国のように裁判官が検事も兼ねているような、裁判官vs被告人の2者による裁判を糾問主義といいます。


時代劇とかでお奉行さまがやってるお白州のアレとかは、奉行所が与力や同心に命じて捜査を行わせ、その後沙汰を下すのも奉行所なので、裁判官が検事を兼ねています。なので江戸幕府の裁判制度は糾問主義であると言えますね。専門じゃないんで多分ですけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 弁護とは名ばかりで(ハロルドを)後ろから刺す お嬢が裁判に出てきたら1人で全部ひっくり返せそうです 持ってる能力が人間に対して特攻ですからね…
[良い点] 揺さぶって突きつけて逆転するんですね。わかります。 [気になる点] なんかお嬢が弁論したら真っ黒でも潔白になりそうな感じさえありますよね。 【超美形】、【美声】、【魅了】、【威圧】、【煽動…
[一言] ハロルド、ドンマイ ぬか喜びさせてしまった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ