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前回のタベルナリウス侯爵邸の調査とは違い、今回はレベリオ伯爵邸の人々から聞き取り調査などをする必要はない。
いや、物的証拠が見つからなければ聞き取り調査などから伯爵の交友関係を当たる必要が出てくるかもしれないが、証拠さえ見つかればいいのだ。
というわけで、前回していたような融和浸透作戦みたいな事はしないと決めたようだった。
私の目には詐欺を駆使して無銭飲食していただけに見えたのだが、あれでも『死神』たちにとっては面倒なミッションだったらしい。
何にしても、やり方は彼らに一任しているので、私としては結果さえ出してくれれば文句はない。
◇
優秀な我が部下たちは、前回同様数日で結果を持って帰ってきた。
さすがである。
彼らのスキルマップを作るとしたら、これで詐欺行為と護衛と作戦立案と潜入調査が「1人で出来る」になるだろうか。「指導が出来る」かどうかは彼らに部下を与えてみなければわからない。
「早いですね」
「途中で探すのが面倒になってな」
私が褒めると、『死神』は目をそむけた。
一瞬ツンデレかな、と思ったが、答えた内容がちょっとおかしい。照れて誤魔化したというよりは、何かズルをしたのが後ろめたいといった様子だ。
ただ今の所、特に騒ぎが起きているという話は聞こえてきていないので、いつか私の実家に襲撃してきた時のように物理で解決しようとしたとかそういうわけではないようだ。
考慮するべき被害が出ていないのなら問題ない。
「面倒になると、早く結果が出るのですか?」
それなら常に面倒な仕事を頼んでおけば超高効率なのでは。
私が優れた上司であることはもはや疑いようがない。優れた上司は部下の能力を最大限まで引き出してやれるのだ。
「いやな……。屋敷のどこに何があるのかもわからんし、そんな状態から探すくらいなら最初から知っている奴らに教えてもらおうと考えてな」
「ジジの言ったとおり、確証がない状態で無理やり聞き出したりするのは違ほ、ルール違反ですよ」
確証があったとしても公人でもない者が勝手に尋問や拷問をすることは違法なので、とりあえずルール違反と言い換えておいた。
私の部下たちは私の意思を実行するための者たちだが、時に非合法行為に手を染める事もある。しかし私が決めたルールには従ってもらわなければならない。それが組織というものだ。まあルールと言っても特に明文化もしていない曖昧なものだが。何故なら明文化すると何かの拍子に流出してしまい、両親や国に叱られたりする恐れがあるし、あと気分で変更したくなった時に煩わしいので。
「いやそんな事はしてないから大丈夫だ。
アマン、ダもいたからな。短時間ならともかく、あいつには普通の隠密行動なんて無理だ。どうやったって目立つ。だから、いっそ目立ってもらえばいいかと思ったんだよ」
レベリオ伯爵邸内部に『死神』と『悪魔』が潜んでおき、アマンダを普通に訪問させたらしい。
アマンダはタベルナリウス侯爵の手の者だと名乗り、内密の話があるからアポを取りたいと正面玄関から門兵に取り次ぎを頼んだのだという。
門兵レベルが今回の件に関与しているとは思えないが、派閥の長であるタベルナリウス侯爵の名を出されては無視はできない。アマンダが本当にタベルナリウス侯爵所縁の者かどうかわからないにしても、門前払いするわけにもいくまい。
伯爵本人はこの時王城に詰めていたようだが、そうして伯爵邸にアポを取りに来た美男子の話はレベリオ家の家令にまず伝えられた。
報告を受けた家令はすぐに配下の使用人に命じ、主人の部屋や書斎から何かを持ち出させた。
持ち出されたのは束状の紙で、それらは地下のワインセラーへと持ち込まれたらしい。
「なるほど。あえて不審な人物を不用意に近づける事で、相手に警戒を促したのですね」
「……誰が不審な人物よ」
「タベルナリウス侯爵と彼の屋敷は監視されているはずですからね。しかも、王家に近づいたと思われる令嬢の暗殺にも失敗しています。そんなタベルナリウス侯爵の手の者となれば、それが本物だろうと偽物だろうと黒幕としては警戒しないわけにはいきません。
どこの誰が行ったとしても、タベルナリウス侯爵の名を出した時点で不審人物と認識されていたはずですよ。アマンダだから特別どうだという事ではありません」
「まあ、そう言われればそうね」
そういう事情とは別にアマンダ個人が一般的な人材とは言い難いのは確かであるが。
「その束状の紙とは何らかの書類か帳簿でしょうか。ワインセラーに持ち込んだというのはいかにも怪しいですね。ワインセラーというのはワインを適切な環境で貯蔵しておくためのものであって、書類を保管するのに適しているとは思えません」
「明らかに偽装工作ね」
「乾燥した環境はボトルワインを保存するのに向いていませんので、ワインセラーはある程度湿度が保たれた状態にあると思います。書類を置いたままにしておくとカビてしまうかもしれませんね。もしそれが何らかの証拠になるのなら、早急になんとかしたほうがいいかもしれません」
「まあそう言うと思ってすでに持ってきているわけだが」
『悪魔』がそう言い、懐から紙束を取り出した。
考えてみれば、屋敷の中の家令や使用人たちの行動をそこまで詳細に知っているということは、潜伏していた彼らはその一部始終を見ていたということだ。
隠された証拠をそのままにして戻ってくるはずがない。
面倒だったから場所を教えてもらったというのは、不審なアマンダを囮にして証拠品を炙り出したということだったのだ。
「素晴らしいですね」
私はそれを受け取ろうとして手を伸ばし、思いとどまってやめた。
おっさんの体温で温もった書類を触るのにちょっと抵抗があったからだ。冷めるまで待とう。
「中を確認してみないとわかりませんが、これがあれば逆転の一手を打つ事が出来るかも知れません」
「……なら早く確認しろよ。おい、なんで受け取らねえ」
スキルマップとは製造業とかでよく使われている社員の能力管理用のツールで、どの作業者がどんな作業がどのくらいできるのかを表にしたものです。
各作業ごとに
指導できる ……4
1人でできる ……3
サポート付きならできる……2
できない ……1
とかで評価して、作業者のスキルをわかりやすく管理するためのものですね。例えばトイレ掃除が1人で出来るのならトイレ掃除の欄は3点、みたいな。
点数や記号ではなく四角いマスを順に塗りつぶす形で描くタイプもあります。
だいたいの現場では有効に活用されていません(偏見




