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「それはその、つまりジジはエラリ、エラルド・レベリオ様に特別な想いを抱いているとかそういう……?」
「とんでもありません! 違いますわ!」
違うのか。じゃあ何なの。
「──そうですね。いい機会なのかもしれません。ここはミセリア様に白黒つけていただきましょう」
一転して落ち着いた──ように見える──ジジがそう言うと、ドゥドゥも気まずげな表情を一転させ、どこか挑むような目で私を見てきた。
「私とドゥドゥ、そのどちらの方が美しいのかについて!」
つまり、こういうことだ。
ジジとドゥドゥの様子から見ても、2人ともエラリオ氏には特別な感情は持っていない。
しかし双子という設定であり、かつ統一感のあるコーディネートをしており、しかも元々似通った顔立ちという事もあって、2人には外見的類似点が多い。
にもかかわらずエラリオ氏がジジではなくドゥドゥに恋愛感情を抱いたという事実が、ジジの矜持を傷付けた。またそんなジジに対してドゥドゥの方は、まあおそらくは若干の優越感を持ちながら、苛立ちを感じるのはお門違いだと考えている。
そして、彼女たちにとってあらゆる意味で上にいるこの私に判決を下させる事で、自分たちだけでは答えが出せない問題に一応の決着をつけようというのだ。
よろしい。
ならばわからせてやろうじゃないか。
「──わかりました。どうやらはっきりさせる必要があるようですね」
私は意識してキメ顔を作り、胸を張った。
「まず原則として、この世で最も美しいのは私です」
私がそう言うと、ジジとドゥドゥ、それに話を聞いていたアマンダたち3人の表情が一気に白けたものになった。
これは、わかりきったことを何をいまさら、という顔だろうか。たぶんそう。
「それを踏まえた上で、ひとつ、この世の真理をお教えします」
それを踏まえてる上で碌な真理ではないだろうな、みたいな顔を全員がしているが、きっと気の所為だ。
「この世には2種類の人間がいます。つまり、最も美しい私と、それ以外です」
私以外のカテゴリの中でも、グレーテルやフィーネなどの突出して美しい者や、ユリアのような地方大会出場クラス、それからアマンダのようなジャンル別大会優勝レベルなどもいるが、全てに共通しているのはやはり、私とは明確に差があるという点である。
「ですので、それ以外である皆さんの美しさに明確に優劣をつけるだけの審美眼を、私は持っておりません」
グレーテルやフィーネがおそらく世界で2番目か3番目だ、といったような曖昧な評価は下せても、じゃあ具体的にグレーテルとフィーネの2人にどういう美的特徴があって、敢えてそこに優劣をつけるのならどちらが上なのか、という細かい事はわからないのだ。
「……結局、白黒つけられない、ってことをはっきりさせただけってことかしら?」
「……ボスだからこそ許される暴論だな」
「……世が世なら信仰対象レベルだからな。知らんけど」
アマンダと『死神』たちが何か言っている。
当初、アマンダと他2人の間には何となく壁があったというか、仲が良くないイメージがあったのだが、何だかんだ言って息が合っているように思える。
やはり元々同僚であるので話が合うということなのだろうか。
アインズも王都に来ればこの輪に入れるのだろうか。
いや本人の話ではアインズは10年前とかに結社を出奔しているらしいので、ちょっと話もずれてしまうか。話がずれていることを逆に話題にする手法もあるが。転職した後に古巣の元同僚と雑談する時に「えーあの人いまだに現役なんだ」とか謎のマウントを取ったりするあれ。
まあ私は優しいので、白黒は付けられないとはっきり言いはしたが、ちゃんとフォローは忘れない。
「大丈夫ですよ。お2人とも十分に美しいです」
「……はあ。ありがとうございます」
「……ええと、身に余る光栄です?」
◇
「とりあえず、エラリオ様が強気系より小動物系の女の子の方が好みである事はわかりましたが、それ以外の情報はないのですか?」
「あっ! 外見ではなくそういう雰囲気で差がついたってことですわね! もう、わかっていらっしゃるなら、普通に教えてくださいません?」
ジジがあざとく頬を膨らませた。
早速強気系からあざとい系にシフトしようとしているらしい。
あまりイメチェンを繰り返すとキャラがブレてしっちゃかめっちゃかになりかねないので、そこは注意してもらいたいところである。
「ミセリア様。エラリ、エラルド様のレベリオ家ですが、私の記憶が確かなら、ユールヒェン様のタベルナリウス侯爵派閥に属していたのではないかと。
実務の面でも、レベリオ伯爵ご本人が王城にてタベルナリウス侯爵家ゆかりの方の下について文官として働いておられるとか」
イメチェン計画に余念がないジジを無視し、ひとまずイメチェンが必要ないと思われるドゥドゥが教えてくれる。何だかんだ言って2人ともしたたかだな。
タベルナリウス侯爵家ゆかりの人物というのが、おそらく今不正疑惑で逮捕・拘束されている当人の事だろう。
となるとその部下にあたる人物が、刺客を雇って派閥のトップの令嬢を始末しようと画策していた、ということになる。
「上を排除して自分の階級をあげよう、って画策したってところか。普通に考えれば」
『死神』がつまらなそうにそう言った。
「ですが、事は王城内での不正です。単独で行えるかというと、少々怪しいところですね。普通に考えれば、ということでしたら、その部下の関与も疑われて然るべきだと思うのですが」
「学園では確か、エーファ様とヘレーネ様もお休みしておりましたよね。あとルイーゼ様も。そのあたりの関係者が不正行為の協力者として考えられているのでは?」
「ルイーゼ様は別件逮捕なので外して構いませんよ、ジジ」
「……もう逮捕されてるんですか」
逮捕はされてないが、似たようなものである。




