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美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険【なろう版】  作者: 原純
レディ・マルゴーと煌めく珊瑚
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2-1

二章になります。よろしくお願いします。





 学園が始まるまでにはまだ時間がある。

 それまでに私がすべき事。

 それは一般的な貴族令嬢の振る舞いを身に付けることだった。


 大まかな礼儀作法は私の専属の世話係のマイヤから教わっているし、父にも母にも基本的にはそれで問題ないと言われている。

 しかし同時にこうも言われている。

 お前はちょっと自己主張が激しすぎる、と。


 そんな事を言われても、私自身にはそんなつもりは全くない。

 ただ私から溢れる美しさが、自動的に周りの目を釘付けにしてしまうだけだ。


 とはいえ、いずれはどこかの家に嫁ぐのが貴族家に生まれた令嬢の宿命である。

 舐められるようでは問題だが、社交の場で夫よりも目立ってしまうのも問題な事もある。華美な服装や化粧で人目を惹きつけるのはいいが、そこでさらに出しゃばるのはよくない。

 つまり、私にはそういう謙虚さが足りないという事らしい。


 実際に私がどこかの家に嫁ぐ事など有り得ないのでこれまではどうでもいいファクターだったが、学園という閉じられた世界で社交をするのであればそうもいかない。

 私以外は貴族令嬢として真面目にやっているのだ。必要ないからと私だけ疎かにして悪目立ちするのも良くない。


 というかそもそも私は病弱な令嬢という設定なので、目立つ時点でNGである。


 そういうわけで、入学までの短い間にはなるが、妹と共に礼儀作法の指南を受ける事になった。

 指南役は亡き祖母の友人で、マルゴー家と懇意にしてくれている侯爵夫人である。普段から妹の礼儀作法の指南をしてくれている方なのだが、今回そこに私も混ぜてもらう形だ。

 私の性別までは知らされていないが、訳あって私が病弱な令嬢のふりをしなければならない事は知っている。

 よくそんな怪しげな話で納得してくれたものだ。我が家に何か弱みでも握られているのだろうか。


「──ミセリア嬢! また目に力が入っていますよ! 学園中を魅了する気ですか! 相手の目は直接見てはいけません! 常に目を伏せて! 言葉も最低限に! 声でも被害者が出ます!」


「はい。申し訳ありません」


「もっと声を小さく!」


「……はい。申し訳ありません……」


「儚げなお姉様もお美しいです!」


「ありがとうフィーネ。貴女も私の次に可愛らしいわ」


「わあ! 嬉しいです!」


「ミセリア嬢! 貴女はやる気があるのですか!」


「はい。申し訳ありません」


「声が大きい!」


「……はい。申し訳ありません……」


 実にやりにくい。


 本格的に令嬢としての振る舞いを学べるとあってやる気に満ちて参加したのだが、私がやる気に満ちて練習すると叱られてしまうのだ。

 かと言ってやる気を出さないでいると、それはそれで見抜かれて叱られる。

 やる気を出した上で、やる気を見せずに弱々しい仕草をしなければならない。

 しかも学園に行ったら常にその状態でいなければならないのだ。

 これは一体何の罰ゲームだろうか。


「ですが、油断さえしなければ所作はもう完璧と言っていいですね。さすがはマルゴー家の隠された【天才】といったところでしょうか。

 なぜ貴女のように才気あふれる令嬢を秘匿しなければならないのか全く理解できませんが……」


 令嬢ではないからでしょうね。


「はい! お姉様は何をしてもいつも完璧でお美しいのです!」


「……ありがとうフィーネ。でも、あまり大きな声で言わないでね。恥ずかしいわ……」


「儚げなお姉様もお美しいです!」


「ふむ。この様子ならよろしいでしょう」


 どうやら夫人の合格を貰えたらしい。

 これで私の方の準備は終わったと言える。


 残る問題は王都へ連れていく世話係だ。





 ◇





 世話係となれば、これからしばらく生活を共にする事になる。

 当然私の性別について知っている者の方が都合が良い。

 しかし現状それを知っているのは私の両親と我が家の家宰であるクロード、その妻マイヤの4人だけ。

 この中ならばマイヤを連れていくのがベターだが、王都に行く事になればしばらくマルゴー領には帰れない。クロードとマイヤにはまだ子供がいないため、夫婦仲を引き裂く形になってしまうのは心苦しい。

 そういうわけで、多少のリスクは飲み込んで新たに秘密を知る者を増やす事にしたのである。


 問題は誰にするかだ。

 

 私としては気心が知れているという意味で、ユージーンたち『餓狼の牙』を再度雇用して連れていく案を推した。彼らは性別以外で事情を知っているし、説明の手間も省ける。身の回りの世話などは別に自分でどうにかできるし、格好だけそれらしくして付いてきてくれるだけでいい。


 しかしこれには父と母が反対した。

 うら若き乙女の世話係がむさ苦しい男というのはあり得ない、というわけだ。

 実際には乙女ではないので何でもいいのだが、確かに外聞はよくない。私が社交界に出ないという事実も相まってあらぬ噂を立てられそうではある。


 そこで父が推したのは屋敷で働くメイドの1人だ。

 いずれ妹フィーネのお付きにする予定だった者らしいが、予定外に私が学園に行く事になったため、繰り上げるという形になる。

 元は孤児らしいが現在は我が家の寄り子の男爵家の養子になっており、身元は申し分ない。

 生まれから現在までの一切をマルゴー家の世話になっている事もあり、忠誠心も確かだそうだ。


 母が推したのは屋敷で働く従僕の1人だ。

 歳こそ若いが男性なので、本来ならユージーンたちと同じ理由で却下されるべきだが、そう父に言われると母はドヤ顔で言い放った。それなら女装させれば問題ないじゃない、と。


「問題ないわけがないだろう……」


 父が眉間を揉みながら言った。


「ええ。お父様のおっしゃる通り、問題は顔ですよね。女装すれば誰もが私のように美しくなれるとは限らないのですよ、お母様」


「そこじゃない!

 そもそも今皆が悩んでいる問題の発端がその部分なのだぞ。この上さらに問題を増やしてどうする!」


「あの、差し出がましいようですが、もう少し真面目に議論なさった方がよろしいかと」


 クロードに怒られてしまった。


「私は真面目にやっている! ふざけているのは女たちだけだ!」


 父が切れた。

 全くその通りなので、私も頷いた。


「そうですね。私も真面目にやっています」


「お前もそっち側──いや、確かにお前は女側ではないが、真面目にやってもいないだろう。真顔で嘘を言うな」


 心外である。極めて真面目に意見しているのだが。


 それはそれとして、やはり私の世話係なのだから、最終的には私が決めるべきだろう。


 少し実務的に考えてみる。

 世話係ということは私の身の回りの世話をするということだ。

 普段の一般的な世話などは誰でもいいとして、貴族の子女の世話となれば、着替えや湯浴みなどの場面でも甲斐甲斐しく世話をする必要が出てくる。

 ひとりで出来るとは言っても、マルゴー領の屋敷の中ならともかく王都ではどこで誰が見ているかわからない。どうしようもなく頼む事もあるかもしれない。

 見た目からして男性ならばそれを理由に遠ざける事もできようが、女性ではそうもいくまい。周りからは同性同士にしか見えないだろうし。


 最悪、着替えや湯浴みの時は近くに控えさせておいて、手伝ってもらっている風に装ってもいいだろう。

 しかし、洗濯などはさすがに隠れて自分でやるわけにはいかない。


 例えば父の言う通り、妹の侍女になる予定だった娘を借りていくとする。

 その場合、その娘は女装している男の下着を洗う事になる。

 大丈夫だろうか。ギリギリアウトな気がする。


 例えば母の言う通り、女装させた従僕を連れていくとする。

 その場合、その男は女装している男の下着を女装して洗う事になる。

 字面だけ見ると完全に新手の地獄だ。業が深いにもほどがある。

 さすがに私の美しさでもフォローしきれない。


 そう言ってみると、皆微妙な顔をして頷いた。


「……確かにな。どちらにしても、年頃の者にやらせるには少々酷なことかもしれん。かと言ってそれを喜んでやるような者では別の不安も膨らんでくるしな……」


「お父様。仕事を喜んでやれる分にはよろしいのでは?」


「いや、そういう……。いや、いい。何だか疲れた。もう考えるのも面倒だ。

 クロード。すまないが適当に見繕っておいてくれ。お前が信頼できると思う者ならもう誰でもいい」


「……承知いたしました」


 クロードは眉をぴくりとさせながらも、それを父に見られる前に素早く頭を下げた。


 その後すぐに頭を抱えてしまった父には見えていなかっただろうが、私には見えていた。

 クロードの表情もそうだが、にやりと邪悪に笑った母の貌もである。


 そして父は、誰もふざけてなどいなかったと思い知る事になる。







女性がたくさん出てくる希少回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 執事になったのに女装してメイドになりお嬢様と思っている坊ちゃんの下着を洗うことになる…女装して…ってなにこの地獄! それを喜んでやる使用人、全部をクリアしていないだけでやばいひとになりますね…
[一言] あっ…(察し) 女装増えますねこれは 女装した男の下着を普通の女の子が洗うよりは女装した男の下着を女装した男が洗う方がまだマシ…かなぁ… 業は深いですけどね、けっこう
[良い点] 章が変わって多少落ち着くかと思いきや、むしろ飛ばしまくりであるw
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