水の記憶 7 王女の困惑
(どうして私が?外になんてほとんど出たことないのに)
サラシアナは唖然として父と魔女をみつめる。
そもそもサラシアナは城の外にでたことなど、公務を含めても数えるほどしかない。
水の子であるサラシアナはとても目立つので護衛が困難なこととその人気ゆえに式典に国民が殺到してしまいパニックになるためだ。
そして何よりサラシアナの対人恐怖症が考慮されていた。
そんなサラシアナにファシル・アルド・バードの国王の案内が勤まるとはとうてい思えない。
ヒッヒッヒッとヒズが笑う。
「なあに大丈夫じゃ。ファシル・アルド・バードの国王はちーっと変わっておっての。水の子であるそなたのこともたいして興味はないじゃろうが、平民たちの暮らしぶりには好奇心の塊での。いまごろ勝手気ままにシャンフィールのどこぞかを歩き回っておるじゃろうて。なので、サラシアナ王女。そなたは儂と一緒に国王を迎えに行けばよいだけじゃ」
「ヒズと一緒に?」
「さようじゃ。もちろん、そのままでは目立つので髪と瞳の色をかえてからじゃがの」
ほれっと魔女が手をひとふりする。
「おお」
「わっ」
周囲にいた国王や王妃、騎士や侍女が驚きの声をあげた。
「えっ?」
きょとんとサラシアナは目を見張る。
見知った長い銀髪が漆黒の輝きをはなつ。その輝きに目をみはる瞳はやはり深い宵の色。
黒髪黒い瞳の少女がそこにはいた。
もともと顔のつくりは繊細で精霊のような少女だったが、漆黒の雰囲気をまといとなりにたつ魔女の親族にみえる。
「そうれ、わしもわかがえるとするかの」
ヒヒヒッとヒズは自身にも魔法を使う。
その姿に周囲は王女の時以上に唖然とした。