水の記憶 6 魔女の企み
シャンフィールの国王、ヨハネスは魔女とともに姿をみせた愛娘をみて盛大にため息をついた。
白銀の髪にアクアマリンの瞳をもつ王女は、大きな猫ほどの体躯の魔女の背に隠れられるはずもないのに隠れ子鹿のように小さく震えている。
(わしが一体なにをしたというのだ?)
ヨハネスは愛娘の姿に嘆息する。
両手の数ではたりない数いる子供たちのなかで、
世継ぎである第一王子よりも貴重な存在であるサラシアナ。
自分の血を分けた妹のロレッタとの子というだけでも特別な存在だというのに、水の子という特別な容姿をもって生まれた娘。
本来なら、同腹ではないといえ兄妹での婚姻は阻止したかったのだが、サラシアナの容姿ゆえそれはかなわぬこととなった。
とは言え、サラシアナは国王である前に父親でもあるヨハネスを相手でも男性恐怖症なにのである。
赤子の頃より抱っこしたくても熱が出るほど大泣きされていまいいまだに抱き締めることもかなわない。
それどころか顔をみればビクビク震えている。
可愛い妹のロレッタと自分の血を引く唯一の娘だというのに。
王が嘆息してしまうのも無理はない。
「まあまあ、サラシアナ。お父様を前にどうしてあなたはそんなふうにおびえてしまうの?お父様は怖くないでしょう?」
母の言葉におずおずとサラシアナが顔をあげてヨハネスをみる。
父と目線があうと顔をこわばらせた。
サラシアナ自身、父親は嫌いではない。
むしろ穏やかに平和に治世している父を尊敬してもいる。
けれど、
「あー、まあ、よい。そのままでよいから話をきいてくれ」
涙目の娘を前に父王が降参する。
娘になかれると弱いのは平民も王も同じだ。
「魔女どのから聞いたかもしれんが、ファシル・アルド・バードのファン・ファラシス国王がこの度、シャンフィールを訪問されることとなっている」
「・・・はい」
「表向きは光の大陸の国々の視察となっておるが、ファシル・アルド・バード国王は若くして王位を継いだせいもあり、多忙であったたためいまだに独り身でな。この視察は各国の王女との見合いを兼ねておるのじゃ」
「・・・お見合い?」
「そうじゃ。まあ、サラシアナには関係のない話ではあるが、お前の姉妹には関係してくる。なにしろファシル・アルド・バード王家の正当な血をひく国王の婚姻なのだ。大変、名誉なものになる」
大まじめにいう父にサラシアナは首をかしげた。
「でもお父様、私は関係ないのでしょう?」
水子であるサラシアナは兄弟との婚姻が決まっている。
いくらファシル・アルド・バードの王が花嫁を探しているからといって、いま父が口にしたとうりに関係ないはずだ。
「本来ならそうなのだが・・・」
国王はサラシアナの前にいる紅い瞳の魔女をみつめる。
魔女は、ヒッヒッヒツッと笑い声をだした。
「わしが王に頼んだのじゃよ」
「ヒズが?なにを?」
可愛いらしく小首をこてんと傾げるサラシアナにヒズは嗤う。
「我が主、ファン・ファラシスの案内をじゃ」
信じられない言葉にサラシアナはアクアマリンの瞳を瞬いた。