炎の交通事故
こんにちは。
もしかしたら、こんばんはの人もいるかもしれないのでこんばんは。
ただいま殺し屋営業中、三話目です。
今回は、主人公の紫織が交通事故の現場に遭遇します。
それから、紫織の過去が少しだけわかったり……?
それでは、どうぞ。
キキィーッ!
私の耳に、車の甲高いエンジン音が聞こえてくる。
バアンッ!
思わず耳をふさぎたくなるほど大きな音がし、音がしたほうを見ると、女の人が地面にうつぶせに横たわっていた。
頭、腕、足、様々なところから血を流している。
「うわっ、やべっ、やっちまった!」
車から、20代くらいの男の人が姿を見せた。
「あ、あの、大丈夫ですか……?」
あれ見て大丈夫だと思えるんだ……。
まあ、見た感じまだ若そうだし、前科持ちになりたくない気持ちはわかる。
でも、倒れている女の人は返事もしないし、動きもしない。
……あれ、たぶんもう死んでるな……。
「や、やべえ、やべえ……。」
男の人は、狂ったように「やべえ。」とつぶやき続けている。
ちゃんと見てなかった自分がいけないのに……。
とりあえず、警察に通報して事情を話して、罪を償うべきだと思う。
でもあの分だと、見て見ぬふりしてどっか行きそうだな。
まあ、あれじゃ言い訳できないから、どのみちばれるか……。
男の人が乗っていたのは白いワンボックスカーで、車のボンネットの部分に、赤い血がべっとりついている。
あれは落とすのに時間かかるぞ~……。
仮に血を落とせて、犯人として疑われなかったとしても、あの人はこれから一生、人を殺してしまったという罪悪感に悩まされて生きていくんだ。
まあ、自業自得だよね。
私には関係ないや。
そう思って歩き出そうとすると、そばにあった小石を蹴ってしまったのか、コンッと音がした。
その時、男の人がこっちを見た。
瞬間、くわっと目を見開き、つかつかと私の方に歩み寄ってきた。
「お、お前、見たよな……?」
「ええ、見てましたけど。」
そう答えると、男の人はおどおどし始め、急に車の中に戻っていった。
逃げるつもりかな?
そう思ったけど、男の人は車から出てきて、私の手に何か押し付けた。
手に乗っていたのは、一万円札五枚だった。
「そ、それやるからさ、黙っててくんねーか……?」
あ、買収しようってことね。
普通の中学生ならなびいてたかもしれない。
だって五万円なんて、中学生からすれば大金だもの。
でも私は、五万円なんて持ってても使わないし、お金にもあまり興味がない。
「いえ、結構です。」
そういって、男の人に五万円を返した。
仮に私がお金に興味があったとしても、この五万円を使い切るまで、ずっと罪悪感に悩まされることになると思うし、私は、汚いお金は使いたくない。
「お前、警察にいうつもりか!?」
「いいえ。別に、私はあなたが捕まろうが捕まらなかろうが興味ありません。学校に行かせてほしいんですが、いいでしょうか?」
男の人は、一瞬ホッとしたように顔を緩めたが、そのあとすぐに顔を引き締めた。
「だ、騙されねーぞ!やっぱ信用できねえ!」
一回も信用してないじゃん……。
男の人はまた車に戻っていき、今度はナイフを取り出した。
緊急時のために、防犯グッズとかを持ち歩いているようだった。
ただ、防犯グッズを殺人に使っちゃまずいでしょ……。
……まあ、別に私は、今ここで殺されても構わない。
どうせ生きててもいいことないし、死んだ方がいっそ幸せなのかもしれない。
「うわ、それは困るわ。」
!?
突然、どこかから声がした。
今ナイフを持って近づいてきている男の人の声じゃない。
男の人って言うより、男の子と言った方が適切な気がする声だった。
「あー……、こいつがいちゃ話しできねえな。殺すか。」
ボウッ!
あつっ!
当然、私の目の前で炎が上がった。
な、なんで急に炎が!?
ガソリンをまいてライターで火をつけたわけでもないし……。
「ぎゃ、ぎゃあああ!!」
すると、さっきの男の人の悲鳴が聞こえた。
よく見ると、炎は男の人を取り囲むように燃えていた。
「な、なんだよこれええ!!お、おい、ガキ!お前がやってんのか!?」
「いえ、違いますけど。」
急に炎を起こす能力なんて、私にはない。
「ふ、ふざけんなよ!おいガキ!さっさと何とかしろ!」
何とかって……。
「どうすればいいんですか?」
「んなの俺にわかるかよ!水でも撒いて消せよ!」
ええ……、そう言われても。
さっきまで自分を殺そうとしてた人を助けるって……。
……嫌だなあ。
「そーそー!俺は、お前にそういう思考を求めてんだよ!」
すると、また男の子の声がした。
「つーわけで、とっとと話したいから、お前、早く死んで。」
ボオオオ!
炎の勢いが強くなり、炎が男の人に迫っていく。
「ひ、ひぎゃあああ!!」
ゴオオオオ!!
炎は、数分間燃え続けてから、突然、煙のように消えた。
道路には、燃えた痕も男の人も、女の人の死体も、男の人の車もない。
ただ代わりに、大量の灰が、道路の隅に積もっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回のお話、いかがでしたか?
感想などありましたら、お待ちしております。
あの謎の声の主は、次回で登場します。
それでは、次のお話でお会いしましょう。