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ゲームの裏側で  作者: 滋賀ヒロアキ
3/3

最終話

「やはり胸か!! 胸がいいのか!? お前ら胸が大きければ誰でもいいのかぁ!!」


一言一言区切るように言いながら、その度にカウンターを叩く白井。三回目辺りでカウンターにヒビが入り始め、ドットが少々歪み始めた。


「まぁ……元気だせよ、白井」


そんな白井に新しくウーロン茶が入ったコップを渡す赤川。

一方の青山は、白井が表示させていたものと同じキーボードをなにやら操作している。


「すごいね……見事なまでに黒泉さんの一強だよ」


「まさしく他の追随を許していないのね」


隣の黄島も、青山と共に画面を見て意見を述べている。……顔は笑っていたが。


「まぁなんとなく予想は出来ていたが……やっぱり黒泉が一番人気か~。まぁ当然と言えば当然な気もするな」


言いながらウンウン、と頷く赤川。

そしてその言葉にピクン、と眉を反応させる人物。


「……納得いかないわ」


氷点下まで冷えきった声が聞こえた。

声の主は言うまでもなく……


「私よりも黒泉が……いや、この際アタシが不人気なのはいいわ。黒泉さんの人気が高すぎるのに納得がいかないんだけど?」


目元を若干濡らしつつ、グイグイとウーロン茶を喉に押し込んでいる白井だった。なんかもうあれはウーロン茶じゃなく酒のように見える。


「いや、黒泉さんが人気なのは……ある意味当然というか、必然というか……」


キーボードを消した青山は、苦い顔をしながら言った。『白井の味方をしてやりたいのだが、相手の方が正しいのだからどうしようもない』というような表情だった。


「実際黒泉さんの√はねぇ……」


「緻密に練られたシナリオ、計算され尽くした伏線、黒泉のヒロイン力……どれを取っても完璧なのね。製作陣が力を入れてるのが丸わかりなのね」


「俺も残念ながら黄島に同意だなぁ……」


「グゥっ……」


その言葉に歯ぎしりするしかない白井。彼女も、黒泉√の完成度の高さ自体は認めているのだ。


「━━━と、いうか、その噂の黒泉さんは?」


まだ来てないけど、と辺りを見渡す青山。険悪な雰囲気を変えようとする所は空気が読めているが、そこで相変わらず黒泉の話題を出してしまうのは空気を読めていない。


「あー……それはなぁ……」


赤川はそんな青山の行動に困惑しているが……とりあえず乗っかる方向を選んだようだった。


「どうやら俺らの製作者(神様)も、黒泉がここまで人気になるのは想定外だったらしい。それで今朝、急遽黒泉を主役にした追加DLCストーリーの作成を決定したらしいんだ」


「えっ!? 追加DLCストーリーの主役!?」


そしてその言葉に、今度は黄島が食い付く。

黄島までもが、黒泉の行方(そっち側)の話題に行ってしまったため、白井は完全に放置プレイを食らった形になってしまった。

白井は不機嫌そうに眉を動かし、また飲み物をグビグビと喉に流し込んでいく。

そのことに気づかず━━━いや、青山は少し気づいたようだが━━━三人は話を続けていく。


「いいのね~黒泉さん。DLCストーリーの主役に選ばれるなんて、『あなたは人気者です』て製作者(神様)に認められたようなものなのね」


「そうだな。だから今は、その収録に行っているらしい。羨ましい限りだぜ」


腕を組みウンウンと頷く赤川。


「そのDLCストーリーには、私たちの出番はあるのね?」


「いや、ないと思うぞ。今回の話は、『本編』でも結局明かされなかった、黒泉の過去話になるらしいし」


「えっ、黒泉さんの過去!?」


思わずと言ったように黄島は身を乗り出した。


「それ私もメチャクチャ気になるのね!ちょっと今すぐ収録現場にいって、脚本だけでも貰ってくるのね!!」


「やめとけ。製作者(神様)の邪魔になるだけだ」


特にお前はな、と赤川は小声で付け足す。


「ああでも、青山は出番あるかもな、主人公なんだし。もしかしたら、黒泉√後から話が展開するかもしれないし」


「えっ、ホント!? やったー!」


新たに出番をもらえるかもしれないことに、青山は喜んだ。


「まぁ『本編』と同じでボイスはないだろうか」


「くぅーん……」


そして一瞬で沈んだ。

快晴の夏から一気に梅雨の夜になったような、見事な変わりようだった。


「くっそ……何で主人公の僕はボイスがないのさ……。みんな有名声優に声当ててもらって愛されてるのに……。僕だって神◯浩史さんみたいな人にアフレコしてほしかったよ」


「いや、お前のその冴えない顔でCV神谷◯史は無理があるだろ……」


そんな風に主人公とラスボスが会話をしていたときだ。突然ゴトン! となにかを叩きつけたような音が聞こえた。


「随分と和やかな会話をしてるわねぇ……」


すっかり放置されていた白井が、拳をカウンターに力強く叩きつけた音だった。その勢いでカウンターにヒビが入る。

そして何故か、彼女の頬は赤く染まっていた。

青山がおずおずと話しかける。


「し、白井さん……?」


「なによっ!? せっかく話題提示したのに放置プレイされてたシライさんですけど!?」


「ちょっ、白井さん!? ってか、酒臭っ!! えっ、どういうことですか!?」


「ハァ!?」


あまりに強烈な臭いに思わず顔をしかめる青山。隣にいた赤川も話を中断して白井に目を向ける。そして『リンゴか』と突っ込みたくなるぐらい顔真っ赤にした白井を認めると、すぐさま彼女が飲んでいた飲み物を確かめた。


「ペロッ……おいこれっ、ウーロン茶かと思ったらいつの間にか酒に変わってんぞ!? 一体いつの間にすり変わってやがった!?」


大方の予想通り、白井のコップに注がれていたのは酒だった。となると、先程から彼女がゴクゴク飲んでいたのは全部酒だったということなので、彼女はもう相当量……。


「もううんざりよ!黒泉黒泉黒泉!どいつもこいつも黒泉!! なんで黒泉を認めてアタシを認めようとしないのよ!?」


「お願いですから落ち着いてください!」


予想通りベロンベロンに酔っぱらっていた白井は、弟より優れた兄のようなセリフを叫ぶ。

しばらく彼女はまたカウンターをドンドンと叩いていたが(そろそろ粉々になりそう)、やがて唐突に椅子から立ち上がると、『フォレスト』の出口へ向けて歩いていった。

若干引き気味の青山は、恐る恐る尋ねる。


「ど、どこに行くんですか……?」


「アタシの担当絵師に直談判して、胸を大きく描き直してもらう」


『やめてください惨めすぎ(るっ)ます!!』


一瞬で同じ感想を抱いた青山と赤川は、二人がかりで出口に向かう白井を抑えた。


「離せぇ!離すのよ~!!」


「離してたまるかっ!」


メインヒロインを協力して止めようとしている(しかも少し力負けしている)主人公とラスボス。

プレイヤー(マスター様)が見たらひっくり返りそうな光景だった。

白井は、子供のようにバタバタと手足を動かす。まるで幼児退行してしまったようだった。バキバキ、と拳が赤川にヒットするが、ここで離すわけにはいかない。そうすれば、今度はその拳が自分たちの製作者(神様)にヒットすることになってしまう。


「お、おい黄島!! 見てないでお前も手伝えよ!!」


予想以上の白井の抵抗に、黄島に援護を求める赤川。

だが、いつまで経っても返事も黄島もやってこない。疑問に思った赤川が視線を向けると、黄島は思いっきり体を『く』の字に折り曲げて、携帯電話かと思うほどに体を震わせていた。


「ちょ、ちょっと待って……。おも、しろすぎて……お腹痛い……!!」


「笑う状況じゃないだろ笑う要素なかったろ!?」


酔って暴れるメインヒロインに抑える主人公、殴られるラスボスに爆笑する中ボス。

もはやこの『フォレスト』は半ばカオスと化していた。


「そもそもっ! アタシの√だって、黒泉さんの√と脚本(ライターさん)同じのハズなんだけど!? 一体どこでこんなに差がついたのよ!?」


唾を飛ばしながら叫ぶ白井。

抑える手はそのままに、先程よりも濃い苦笑いを返す青山。


「白井さんの√は……良くも悪くも無難におさまっちゃってる、ていうか……!」


「まぁ、メインヒロインだからなぁ……って痛っ!?」


律儀に答えながらも、腹に思い切り肘打ちをもらう赤川。今度は赤川が体を『く』の字に折り曲げる番だった。

それにより拘束の緩まった白井が青山を撥ね飛ばす。


「ひでぶっ!?」


どこか懐かしい気のする断末魔をあげながら青山はぶっ飛んでいく。そしてそのまま椅子を巻き込み、机を派手になぎ倒して、壁へと突っ込んでいった。

その光景に酔っぱらいじゃないくせに酔っぱらいよりも豪快に爆笑する黄島。


「胸もないメインヒロイン(笑)の√なら、当然かと思うのねー!!」


「よし黄島今すぐ表に出ろ殺してやる!」


そのまま放たれた黄島の台詞に、白井の殺意が今度は黄島へと向けられた。

だが向けられた黄島はあくまでも余裕である。


「ふっ、いいの? 私は黒泉√終盤では、青山くんと別の因縁を作ったぐらい強いんだよ?」


「それ以外の√では中盤で例外なくアタシに殺されてる黄島? 寝言は寝て言うものよ」


「は? あんなのは製作者(神様)の脚本に従っただけなのね。あれが本来の実力なわけないでしょう?」


「上等よ……!!」


そういって『本編』の戦闘時にも取っていた構えを取る白井。いやちょっと待て。

もう何回も言ってるけどちょっと待て。


「この『休憩時間』にホンキの喧嘩をするんじゃない!」


「黄島さんも、いい加減に煽るのはやめてください!」


すぐさま体を『1』の字に伸ばし、机の残骸から脱出し、再び白井を止めに向かう野郎二人。

それによって再び抑えられる白井。それさえも面白いのかまた爆笑する黄島。もはやコイツも酔ってるんじゃないだろうか?



「そもそも白井だって悪いのねー!共通√はおろか、自分の√でも最後しか青山くんにデレないし!! これじゃあプレイヤー(マスター様)から不人気になるのもしょーがないのねー!!」



さらにゲラゲラと笑いまくる黄島。

その言葉に、白井はますます憤る━━━ハズだった。




「━━━━━━」




その言葉を聞いたとき、さっきまで暴れていた白井が、急におとなしくなった。あまりに突然のことに、赤川は面食らった。



「白井……?」



拘束する力を緩め、赤川は問いかけた。青山も赤川と同じく不思議そうな顔をしている。

黄島さえも、予想通りの反応をしなかった白井に、笑いが引っ込んでキョトンとした顔をしている。



そのまま、一分ほど時間が過ぎた後。




「わだじだって……好きでこんな性格になってるんじゃないのよぉ……」



『!?』




『フォレスト』に涙声が響いた。

その声の出所は迷うまでもなく━━━




「黒泉さんみたいに愛想よくなりたいし……葉緑(はみどり)さんのように皆を癒してあげたいよぉ……」




白井だった。

あんなに暴れていた姿が嘘のように、その目からはポロポロと涙が溢れている。

さっきまで酔っぱらいだったとはとても……いや、急に泣き出すのも酔っぱらい故の行動か。


とにかく、今までの彼女とは似ても似つかぬその行動に、その場の全員が驚愕していた。


「…………」


しかし赤川は白井の姿からなにかを察したのか、白井を抑え付けていた腕を離す。そして、隣にいる青山にも離してやるよう促した。


自由になった白井は、そのまま力無く座り込む。

そして、所々しゃくりあげながらも、涙を流しながらも、ハッキリとした声で語り始めた。







「わたしたちなんて……所詮はただの『モノ』よ……! 思い出も、記憶もなくて……! 自分を証明できるものは、神様から与えられた『設定』だけ……。神様の気分一つで人格を書き換えられて……見た目だって変えられる存在で……。売れなかったら、呆気なく廃棄されるだけの『モノ』なのよ……!!」




白井は悲しげに目を伏せて言った。




「でも、そんな『モノ』を、手に取ってくれる人がいて……楽しそうに遊んでくれて……。こんなの、嬉しくないわけないじゃない……!」




そこでまたしゃくりあげ、涙を袖でぬぐう白井。

今度は、黄島は笑わなかった。




「なのに……嬉しいのに……!でも、わたしたちは『ゲームキャラクター』だからっ……! 決められたセリフだけを喋って、決められたシナリオ通りに動かなきゃいけないキャラクターだから……! わたしの『性格』を無視した言葉なんて、言っちゃいけない……!」




その言葉に、赤川がハッとする。

彼と白井が『フォレスト』へと向かっている道中。そこでの白井との会話が思い出されたのだ。



『アタシたちは、このシナリオを形作るため、プレイヤー(マスター様)を満足させるためだけに産み出された……。もしも楽しませられなかったら、アタシたちは……!』


『白井は考えが固っ苦しいなぁ』



『ゲームキャラクター』としての立場を誰よりも真面目に受け止めていたのは白井だった。だからこそ、本当なら赤川や黄島のように『仕方ない』と割り切るようなことだって、本気で悩んでしまっていたのだろう。

こんな自分を拾ってくれるプレイヤー(マスター様)への感謝と、そんなプレイヤー(マスター様)を罵倒しなければならない自分の立場に。




「嬉しいのに……感謝してるのにっ!! 画面越しでも、ストーリー越しでもいいから、『ありがとう』って伝えたいのにっ!! なんでこんなキャラクターにわたしを『設定』したのよ!? なんで『次元』が一つ違うだけで、こんなことになっちゃうのよ!? もう嫌っ!こんな世界は嫌だ!!」




一息に言い切った白井は、荒い息を何度か吐き出し、




プレイヤー(マスター様)を罵倒することしかできない、そんな自分も、もう嫌……」




それっきり、白井は糸が切れた人形のようにうつむき、声も上げずに静かに泣き始めた。

赤川たちは、なにも言い出せなかった。



この一連の出来事は、ゲームの中で行われている。プレイヤー達は、どうやったって知る術がない領域の話だ。

だから、黄島が本当はよく笑うヤツだっていうのも。

赤川と青山がとても仲がいいことも。


そして、『素』の白井がこのような闇を抱えていたことも。


プレイヤーは絶対に知らない。知らないにも関わらず、ネット上で勝手に彼女たちを評価している。苦手だ、キツイ、と罵倒する。


だがそれは仕方のないことだ。重ねて言うが、『素』の彼らの性格なんて、プレイヤーは知ることができないのだから。


もしも、今までの白井の独白をビデオか何かで撮ってそれを『外』に公表すれば。

きっと白井の評価は変わって、彼女の頑張りは認められ、同情され、悲劇のヒロインだなんだと呼ばれることになるかもしれない。




だけど、それはしてはいけないこと。

だって彼らは『ゲームキャラクター』なのだから。決められた通りに動き、プレイヤーを物語の世界に引き込ませるためだけに生み出されたのだから。

そんな『世界観を壊す』ようなことは、絶対にしてはいけないのだ。






「うっ、うっ……うう……」


溢れ続け、止まる気配がない白井の涙。

彼女はこれからもこの気持ちを抱え続けるのだろう。シナリオが始まる度にプレイヤー(マスター様)を罵倒し、心にもない言葉を浴びせ。

そしてその度に自分を責めて。どうしようもないまま『ゲームの中』で過ごすのだ。


だが、



「ごめんな」



そんな彼女の肩に、一つの暖かい手が置かれた。

壊れたロボットのように、ゆっくりと白井が顔をあげると、そこには



「お前が、そこまで悩んでいたなんてな……」



ラスボスとは思えない、ただ同じ仲間を心配する、『赤川』としての顔をした少年がしゃがみこんでいた。



「そうだよな。本当は、あんな言葉なんて言いたくないんだよな。『ツンデレ』は辛いよな。よしよし、今までよく頑張ったよ。なぁ、黄島?」


赤川は白井の背を軽く叩いて慰めながら、黄島の方を向いて首を振る。

突然呼ばれた黄島は「う……」とバツの悪そうな顔をする。黄島だって、まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。

そのまま苦い顔で立ちつくし、やがて「あー……」とか言って髪を掻くと、大股で白井のもとへと向かい、そのまま彼女を抱き締めた。


「きじま……?」


「……悪かったわよ、私も煽りすぎた。あなたがそこまで思い詰めてるとは、思ってなかったの。こんなになるまで抱えなくても、もっと早くに私たちに相談していてくれればよかったのに……」


口癖も忘れ、完全に『素』の口調に戻って、黄島は言葉をかけた。

そんな黄島の姿をみて、白井の目に徐々に光が戻り始める。


「ぼ、僕も一緒だよ!!」


やや遅れながら、青山も駆け寄ってきた。

それを見て笑い、赤川は静かに言う。


「確かにな、辛いことだよ。自分が慕っている相手に、言いたくもないことを言うなんて」


白井はゆっくりと赤川の方へ顔を向ける。


「俺だって同じさ。本当はプレイヤー(マスター様)やお前らのことが大好きだけど、『ラスボス』だから、て理由で暴言吐いたり、殴ったりしてる。辛くないと言ったら、嘘になるかもしれない」


その言葉に、黄島が小さく頷いた。恐らく、彼女も同じ気持ちなのだろう。



「でもそれと同じぐらい、プレイヤー(マスター様)が楽しんでいる顔を見るのが好きだ。俺が倒されて『よっしゃぁ!』て、達成感を得てるプレイヤー(マスター様)の顔が何よりも好きだ。だから、毎日頑張れる」



赤川はそこでニカっと笑って見せた。


「そのためなら俺は、喜んで『悪役』を引き受けてやるさ。それは俺にだけ与えられた役割で、俺にしか出来ないことなんだからな」


「……あかがわ」


「お前の役割だって、お前にしかないものさ。『ETERNAL』の『ツンデレ』は、白井しかいないんだからな」


白井の目から、先程とは違う種類の涙が、また溢れようとしていた。



「ツンデレってだけでお前の魅力に惹かれないヤツなんて、放っときゃいいんだよ。それに、嫌なコメントばかりじゃないだろう? そんなお前を好いてくれるプレイヤー(マスター様)が、お前がデレたところで喜んでいるヤツだっているはずだ」


「…………!」



白井の脳裏に、過去のプレイヤーの顔が浮かぶ。自分がデレた所でガッツポーズをする者や、『ついにデレたっ!』と叫んでくれる者も確かにいてくれたのだ。



「お前の気持ちが伝わっているプレイヤーも、ちゃんといるってことだよ」


「っ! みんな……!」


白井の視界がボヤけて、なにも見えなくなった。しかし、もうそんなことはどうでもいい。



「だからもう泣くなって」



最後に赤川がゆっくりと頭に乗せた手の感覚を。

黄島が優しく抱き締めてくれた感覚を感じて。

白井はゆっくりと意識を手離した。








「おーおー、よく眠ってんなぁ」


あれから三十分後。子供のように邪気の無い顔で眠る白井を見て、赤川は苦笑いした。


「多分、泣き疲れちゃったのねー。君たちは忘れてるだろうけど、白井はあれの前に酒も飲んでたのねー」


「……しまった、忘れてました」


あれから白井と黄島はずっと抱き締めあったままだ。最初は白井が眠った後にコッソリほどいて脱出しようと思ったのだが、予想以上に力が強く、起こさないために仕方なく黄島も一緒の格好でじっとしているのだ。


「仮に相当酔ってたんだとするなら、もしかすると起きた頃には、全部忘れてるかもしれませんね」


「えっホントに? 私が珍しく白井に本音をぶつけたのに?」


「元はと言えば、お前が引き金な面もあるんだからな? ちゃんと反省しとけよ」


もし本当に記憶を失っていたなら、白井が目覚めてこの状況に気付いた時、目の前にいる黄島は『なにくっついてんのよ!』と彼女の本気右ストレートを受けることになるかもしれない。

だけど多分、今回の黄島はそれを甘んじて受け入れるだろう。自分自身への罰として。




「……んじゃ、俺はちょっと出掛けてくる」


唐突にそう言うと、赤川は椅子から立ち上がり、『フォレスト』の出口へと向かった。


「えっ、一体どこにいくんですか?」


ちょっとしたデジャヴを感じつつ、青山が質問する。黄島も首をかしげていた。


赤川は面白いイタズラを思い付いた子供のような笑みを浮かべる。まるで『本編』のような表情で。



「ちょっと『神様』のところへ、な」





数週間後。

『ETERNAL』がアップデートされた。

いくつかのバグの修正、一部描写の追加。そして一番の追加項目は、二つのDLCストーリーの配布だ。


一つは当初からの人気キャラ、黒泉の過去を描いた長編ストーリー。


そしてもう一つは。








ほんの少し素直になった白井が、青山へと改めて想いを伝える短編だった。



こんな拙い小説に付き合って頂き、ありがとうございました。

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