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ゲームの裏側で  作者: 滋賀ヒロアキ
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第一話

今回は多賀まりあ氏と二人で同じテーマというか舞台でそれぞれ書いてみようという二人の合作的な小説になります

気に入って頂けましたらぜひ多賀まりあ氏の作品も見て頂けると嬉しいです!

夜の街に、一人の少女が佇んでいた。

少女が立っている場所は、とあるビルの屋上に設置されたヘリポートであり、そこから『街』を一望することが出来た。

強く吹く『冬』の風に少女の長い髪がなびく。眩しすぎるような街の光を気にした様子もなく、少女は独り言のように


「ふぅ……今回も失敗なく、無事に『本編』完走完了……」


そう呟き、一つ息をはいた。

その表情にはどこか達成感を感じさせると共に、どこか━━━寂しげな雰囲気を感じさせるものだった。


「おーい、白井(しらい)~」


とそんな時、突然少女━━━白井の背後から野太い声がした。白井が振り替えると、そこには彼女より二歳ほど年上に見える少年が立っている。

だがその装いは、体をすっぽりと覆うような黒いフード付きマントを羽織り、片眼に傷をつくり、赤い眼を持っているといった……まるでゲームの登場人物のような『怪しい』を具現化させたような姿だった。

普通ならば二秒で警察に補導されそうな格好だが、少女がそれをする様子はない。むしろ鬱陶しそうにため息をはくだけだ。


赤川(あかがわ)。『ラスボス』のアンタが、こんなところにいていいの?」


「それを言ったら『メインヒロイン』のお前もだろ?」


赤川と呼ばれたフード少年はコ◯ンの犯人のように笑う。


「アタシはいいのよ。もう『本編』も終わったんだし」


「なら俺もいいよな。『本編』は終わって、俺は無事に倒されたんだし」


チッ、と舌打ちをする白井。対して赤川はどこ吹く風、というようにニヤニヤしている。

そんな時、街のネオンの光がより一層強く輝いた。それよって赤川の着ているマントの隙間から覗いていた素肌が露になる。

その素肌は、赤川自身の血で真っ赤に染まっていた。まるで刀で切り裂かれたように肌はパックリと裂けており、そこから今も血が流れている。そしてよくよく見てみれば彼のマントも、黒の上からでもわかるほどに真っ赤な血が所々に付着していた。

しかし赤川はそれを気にしていない。どころか、部活仲間に見せるような笑みを浮かべて、


「おら、屁理屈はその辺にしとけ。無事完走祝いに、飯食いに行こうぜ」


白井はフン、と鼻を鳴らすと、赤川の隣へと歩いていった。『いいわよ。アンタに付いていく』というよりも『どうせ拒否しても連れていくんでしょハイハイ』というような態度だった。

そんな白井に、赤川はラスボスのような笑いを浮かべ、ビルのエレベーターへと歩いていく。

素肌にあった切り裂き傷は、無くなっていた。



ここは、とあるゲームの世界。

より正確には、そのゲームの中。


そのゲームのタイトルは『ETERNAL(エターナル)』。平凡な少年である青山が(名称変更可能)、町で起こる能力者達の抗争に巻き込まれていく話だ。永遠の命を求めるラスボス赤川の野望を、白井などの一癖も二癖もあるヒロインたちと共に止める。

設定だけなら使い古されたものだが、質の高いストーリーなどが一部で評価され、ジワジワと人気を得ていっているゲームだ。

ゲームの評価をもっと上げるため、自分たちを産み出してくれた製作者(神様)に報いるため、プレイヤー(マスター様)の楽しむ顔を画面越しに見るために、彼らは日々頑張っている。


そして今は、そんな『ETERNAL』が誰にもプレイされていない時間。キャラクター達の間で『休憩時間』と呼ばれている時間だった。





「いやー、今回の白井の演技も迫真モノだったよなー。画面の前のプレイヤー(マスター様)も大いに満足していただろうぜ?」


「そうでなきゃ困るわ」


とある路地裏を白井と赤川は並んで歩く。街のネオン光から隔離された路地裏は、創作物ならば戦闘の場所にでも使われそうだった。というか、実際にこのゲームのシナリオ━━━『本編』では初戦の場として使われた。


「アタシたちは、このシナリオを形作るため、プレイヤー(マスター様)を満足させるためだけに産み出された……。もしも楽しませられなかったら、アタシたちは……!」


「白井は考えが固っ苦しいなぁ。『本編』のようなツンデレのぶっきらぼうな性格はどこに行ったんだよ」


「あれはシナリオのための演技でしょ……。てか、むしろアンタはもっとラスボスらしくしてなさいよ」


「『休憩時間』にまであんなギル◯メッシュみたいなしゃべり方しろって? 絶対ゴメンだね……っと、着いたぞ」


しばらく路地裏を歩いていた赤川は、とある店の前で足を止めた。

その店の名は『フォレスト』。

四十代のフリーターが一念発起して立ち上げた築十年の喫茶店……という設定を与えられた店だ。『本編』でもメインヒロインである白井達がよく利用しており、味の質も本物である。


「ちーっす」


特に遠慮もせずに入っていく赤川。

『本編』で主人公達の拠点となっていた場所に友人宅のようなノリで入っていくラスボス……。画面の外のプレイヤーが見たらどう思うのだろう。

まぁともかく、扉を開けると、その拍子に縫い付けられていた鈴がチリン、と音を立てた。


「この鈴よぉ、地の文じゃ『心が休まる音』とか散々形容されてたけど、実際どうなんだ?」


「別に。気持ちの良い音ではないかな」


「あー、やっぱ地の文嘘ついてたのか~」


適当な会話をしながら、小洒落(こじゃれ)たバーのような内装へと足を踏み入れる二人。

無人かと思われていた店内だが、奥に先客がいた。その人物はバーカウンターに座ってなにやら話し込んでいる。こちらまで会話の端が聞こえるほどの大きな声だ。


「げっ」


白井は思わずといったように顔をしかめる。

バーカウンターに座っているのは、イラストのように綺麗な金髪をツインテールにした少女。そしてもう一人は、『どこにでもいる少年』とでも形容されそうな、中肉中背に目元が隠れてしまうほどのボサボサ髪の少年だった。

少女が少年に向かって言う。


「んでね、そん時私は言ってやったのよね。『イマドキ隠れ能力者じゃないギャルゲー主人公なんて、ただの学園モノ主人公だ』てね」


「それまた凄いことを……って、赤川さん!来てたんですか?」


少女は自分の武勇伝(?)に夢中になっていたようだが、少年は赤川と白井に気付き人懐っこい笑みを浮かべた。

その『犬か』と思わず突っ込みたくなるような仕草に、赤川は軽く苦笑いする。


「一応『本編』じゃあ、俺はお前の両親を惨殺した存在で、全ての元凶のハズなんだがなぁ……」


「『休憩時間』にそんなの関係ないですよ!それにあんなのはただの設定ですし……あ、赤川さんはオレンジジュースでいいですよね? 白井さんは……」


「アタシはウーロン茶お願い、青山(あおやま)くん」


青山と呼ばれた少年は「了解です!」と元気に返事をし、カウンターの奥へと移動してコップの準備をしだした。


「流石は我らが『主人公』。気遣いがバッチリなのね」


頬杖を付きながら、カウンター席でのんびりした声を上げるツインテールの少女。彼女の名は黄島(きじま)。『本編』では赤川と同じ組織に属し、中ボス的な立ち位置で青山の前に立ち塞がるキャラクターだ。

黄島は立ちっぱなしの赤川と白井に告げる。


「私たちも、失敗せずに完走できた祝いとして打ち上げをしてたのね。よかったら赤川たちもどうね?」


「おっ、気が合うな。なら俺たちも遠慮なく━━━」


「それはいいけど、黄島さん?」


赤川が手を合わせながら輪に加わろうとした時、白井が遮るように声をあげた。

黄島はキョトンと━━━わざとらしく首をかしげた。


「なんなのね、白井さん?」


「なんで『休憩時間』にまで『本編』と同じ口癖で喋ってるのかしら? アタシ、前にその喋り方はウザいから『休憩時間』にはやめてって言ったよね?」


「えー、そうだったのかね? なんかもう、すっかり癖になっちゃったのね~。これぞホントの職業病ってヤツ? いや、違うのかね?」


「おい、顔が笑ってるわよ黄島。いくら人気投票で私より順位が高かったからって、調子に乗ってんじゃ━━━」


「はいはいそこまで。俺たちは、この限りある時間に楽しい思いをするためにここへ来たんだ。ケンカして空気を悪くするんじゃないよ」


キレて口が悪くなった白井と煽る黄島をたしなめる赤川。まるで末っ子達のケンカを止める長男のようだった。

白石は渋々と言った表情で牙を納め、青山の左に座った赤川のさらに隣━━━つまり黄島からもっとも遠い席へと座った。黄島はつまらなさそうな顔こそしたが、それ以上は何も言わず、(ぬる)くなってきたメロンソーダに口をつける。その光景に赤川は肩をすくめた。なんとなく、重い空気が流れてしまう。


「はい、お待たせしました~。オレンジジュースとウーロン茶で~す」


そこへタイミング良くか悪くか、飲み物を持って戻ってくる青山。正直これは赤川にとってありがたかった。さっきので空気が完全に固まってしまいどうしたものかと思っていたからだ。

例え『素』の白井と黄島の馬が合わないのだとしても、『メインヒロイン』と『中ボス』だとしても、赤川は同じシナリオを演じる仲間として良い関係を築きたいのだ。さっき青山にはああ言ったが、赤川にとっても所詮シナリオ中だけの『設定』などどうでもいいし。


「サンキュー青山。うし!ほんじゃあ、今回も失敗なくシナリオを終えられたことに対してと、プレイヤー(マスター様)の満足した顔を見れたことを祝ってぇ……カンパーイ!」


「かんぱ~い!」


「かんぱいなのねー」


「…………」


空気を変えるためにわざと大袈裟に音頭をとる赤川。そんな思想など知らず無邪気に復唱する青山。わざとか意図的か、『本編』の口癖のまま答える黄島。不機嫌な顔をしつつも、なんだかんだ輪には加わる白井。

『素』の彼らの性格が出た、四者四様の反応で、改めて『休憩時間』が始まる。




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