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結局その後両殿下に手を繋がれたまま庭を案内された。
そして、そのまま手を繋いだ状態でお茶会の会場に戻ったので、他の貴族子息子女達の視線が痛かった。
頭の花も、きゃー見ないで!と葉っぱで顔を隠していた。
「オリビア様、是非また遊びに来てね!」
「オリビア嬢、今度は俺が遊びに行くからな」
と両殿下に見送られ、オリビアとエリックは公爵家の馬車に乗った。
「疲れたわ……」
馬車が動き出して両殿下が見えなくなると、オリビアは珍しく姿勢を崩しぐったりした。
頭の花も、ぐてんと頭にへばりついてのびていた。
「くすくす、ずいぶんと殿下達に気に入られた様ですね」
エリックはオリビアが珍しく花と同じ姿なのを見て、思わず笑ってしまった。
「そう言う貴方はリリアン様とずいぶん親しくなったんじゃなくて?」
オリビアは恨みがましい視線をエリックに向けた。
「ええ、好きなものが同じでしたので話が弾みました。姉上の怪我も治してくれましたし、またお会いしたいですね」
「そうね……いつお誘いしようかしら?お礼をしたいのだけど、何がお好きかしら?」
“リリアン様とはまたゆっくりお話したいわ。
もう、エリックばっかり仲良くなってずるい!私は何故か両殿下の板挟みになって疲れたって言うのに……
リリアン様とお友達になれるといいな……”
帰りもそうかからずに屋敷に着いた。オリビアは疲れ果ててしまって、晩餐まで少し休むことにした。
どのくらい寝ていたのか、部屋の外が騒がしくて目が覚めた。
「オリビア!今日はいったい何があったんだ?王妃様から殿下の婚約者にと打診があったのだが……」
オリビアは一気に血の気が引いた。
“そんな……ゲームではオリビアが一目惚れして、父親にねだって無理矢理婚約者になったのに……向こうから話が来るなんて!
もしかしてゲームの強制力ってやつなのかしら?どうしたらいいの?打診と言われても王家からの話を断ることなんて出来ないし……”
「それで……お返事はしたのですか?」
珍しく花と同じく不安げな表情でオリビアが聞いた。
「ああ……殿下がどうしてもと言ってな……王族相手に否とは言えなかった。
だが、殿下は顔もいいし優秀で性格もいい優良物件だぞ。まぁ将来王妃になるから大変だと思うが、きっと大丈夫だ。
エリックも私と同じ魔法研究所に入る予定だし、いつでも会えるから安心しろ」
“やっぱり受けるしかなかったのか。ううう、悪役令嬢ルートまっしぐらだわ。でも待って、ヒロインがレオンハルトルートに入らなければ問題無いわよね?
あ、あとエリックルートでも悪役令嬢だったんだった。エリックに想い人がいれば、エリックルートも消えるかしら?
入学まであと5年……断罪まで6年あるわね。その間に殿下と仲を深めれば、何とかなるかもしれない……
でも、仲を深めて本気で好きになってしまった後で、ヒロインに取られたら生きていける気がしないわ……はぁ、まだ時間はあるしゆっくり考えよう”
翌朝、城から先触れが来て、午後のティータイムに王太子殿下が訪ねて来ると言うことで、大慌てで準備が始まった。
「昨日の今日で来るとは……私は仕事で一緒にいられないが、粗相が無いように気を付けるんだぞ」
心配そうに公爵は仕事に行った。公爵夫人は使用人達に指示を出し、客間を整えさせて季節の花を飾り、茶菓子を選び、自身の準備にと大忙しだった。
オリビアはメイド達に磨かれ磨かれ磨かれ……レオンハルトが来る前に、既にぐったりだった。
頭の花も、昨日に引き続きぐったりのびていた。
“まだ気持ちの整理もついていないのに……どんな顔して会えばいいのかしら?ヒロインの付け入る隙がないくらい仲良くなるか、いつでも婚約破棄を受け入れられるように距離を置くか……まだ決めきれないうちに会うことになるなんて”
そうこうしているうちにレオンハルトが到着した。公爵がいないので、公爵夫人とオリビアとエリックの3人で出迎える。
「急な訪問を快く迎えてくださり、ありがとうございます。本日は婚約者となったオリビア孃に会いに来ました。
今後も時々訪れると思いますが、よろしくお願いします」
とレオンハルトは笑顔で花束を公爵夫人に渡した。客間に場所を移して、4人でお茶会を楽しんだあと、少しだけオリビアと2人で話したいと庭園を散策することになった。
公爵夫人の目の届く所までは普通にエスコートしていたのに、見えなくなったとたん前日同様恋人繋ぎで手を繋がれた。
「オリビア、無理矢理婚約者にしてしまって怒ってる?」
不安そうにレオンハルトが聞いた。
「いえ……ただ、昨日会ったばかりなのに早すぎるとは思いました」
嬉しいです!と嘘は言えずに、オリビアは素直に胸のうちを明かした。
頭の花も不安げな様子だ。
「他の奴にどうしても取られたくなくて、母を使って公爵に打診したんだ。
オリビアの意思も聞かずに悪かった。でも、絶対幸せにすると誓うよ」
“その誓いが守られればいいのですが……学園にヒロインが入学すると共にきっと誓いは破られる……その時は潔く身を引いて、悪役令嬢には絶対ならないように気を付けなきゃ”
頭の花はかわいた笑いを浮かべた。
「オリビア、誓いの証にこれを受け取って欲しい。俺と会う時以外でも、いつでも身に付けていると約束して」
そう言って差し出されたのは、レオンハルトの瞳と同じエメラルドで出来た四つ葉のクローバー形のシンプルなネックレスだった。
普段着けていても邪魔にならず、ドレス等の時に重ね付けしても合わせやすそうなデザインだった。
「ありがとうございます……大切に使わせていただきますね」
オリビアは複雑な心境でネックレスを受け取った。