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その後は同じテーブルの者同士軽く自己紹介をして、当たり障りの無い流行りのお店などの話をしながら和気あいあいと過ごした。
「こんにちは、オリビアちゃん。お菓子はお口に合ったかしら?」
女神(王妃)様が壇上から降りて下界の我々に順番に声をかけてくれるようだ。
あまりの美しさに、頭の花も大興奮でハートを飛び散らせている。
「お初にお目にかかります、オリビア「ああ、いいのいいの。堅苦しい挨拶は無しにしましょう。ふふ、そう言えば今1番流行りのデザイナーをクビにしたって本当なの?
今日のドレスはとても清楚で可愛くて、オリビアちゃんの魅力を引き出しているわね。デザイナーは誰なのかしら?」
“ああ、あのデザイナーめ!女神様の心象はきっと最悪なんだろうな……くすん”
「恥ずかしながら、事実です……シンプルなデザインをお願いしたんですけど、出来上がったデザイン画がとても派手で……
派手すぎるのでもっとシンプルにと何度かお願いしたのですが、何故かどんどん派手になってしまったんです。
私が王妃様のように華やかな容姿でしたら着こなせたんでしょうけど……残念ながら、あの方とは相性が悪かったようです。
このドレスは新しくウォーカー商会で始めることになったオーダードレス部門にお願いしました。
デザイナーのグレースさんは平民なのですけど、とても素敵なデザイン画を描いてくださるので、母と一緒に他にも数着お願いしたんです」
「まあ、平民のデザイナーなのね!しかも女性なんて凄いわ」
「ええ、とても素晴らしい……女性?……えっと…………心は女性です」
女性と言いきってしまうと王妃様に嘘をつくことになるし……と一瞬悩んだオリビアに同調してうんうん悩みポーズを取っていた頭の花が、ピコーン、閃いた!とばかりにピョーンと立ち上がった。
微笑みを貼り付けて冷静沈着に話すオリビアと相まったそのあまりにも可愛らしい姿に、王妃を始め花が見える数名の者達は笑いを堪えるのに必死だった。
「そう……心は女性なのね。ふ、ふふ、オリビアちゃん面白い言い方をするのね、ふふふ
お茶のお代わりはいかがかしら?」
目の前で見てしまい笑いを堪えきれなかった王妃は、おかわりをすすめることで何とか誤魔化した。
「ありがとうございます。いただきます」
オリビアの返事を聞いて控えていたメイドが動き出した。その間、王妃様と当たり障りの無い会話をしていたのだが、カシャカシャと不穏な音が聞こえてオリビアが振り返ると同時に、おかわりの熱い紅茶を持ったメイドが真っ青な顔で崩れ落ちた。
驚いて少し上げてしまった手に紅茶がかかってしまったが、大半は倒れたメイドの手にかかって、みるみるうちに赤くなっていた。
具合悪さと痛さと粗相をしてしまった恐怖に、メイドは青い顔をさらに青くして震えていた。
「もももも、申し訳ありませんでした!お怪我はありませんか!?」
震えながらも我に返り、青い顔に脂汗を浮かべてメイドがオリビアに聞いた。
オリビアは弱い魔力ながら水魔法が使えるので、メイドの赤くなった手に冷たい水の膜を作った。
「いつまでもそんな所にいないで、早く下がりなさい」
ツンと言ったオリビアと自分の手を大きな目で見比べていたメイドが涙目になりお礼を言い、駆け付けた先輩メイドに立たせて貰い、もう一度お辞儀をしてお城の方へ去っていった。救護室で火傷の手当てをしてもらうのだろう。
花が見えない者達は、粗相をして怪我したメイドを冷たくあしらったオリビアに眉を顰めたが、花が見える者達はオリビアが心配で仕方無かった。
表情は全く変わらないのだが、花があきらかに痛がってうずくまって震えていたのだ。
「オリビアちゃん、城のメイドがごめんなさいね。貴女も念のため救護室に行った方がいいんじゃないかしら?どこか火傷したんじゃない?」
心配そうに王妃様がオリビアに聞いた。
「ご心配いただきありがとうございます。でも、大丈夫ですわ。どこも怪我していません」
オリビアの微笑みとは裏腹に、花は涙を流し始めた。
「姉上!念のためですから、王妃様のお言葉に甘えて救護室に行きましょう」
心配したエリックが駆けつけてきた。
「エリック、貴方何しているの?お茶会の途中で席を立つなんて……王妃様申し訳ありません。家に戻り次第マナーの教育をやり直させますわ」
「いいのよ。よっぽどお姉様が心配だったのね。婚外子を引き取ったと聞いて心配していたのだけれど、仲がいいようで安心したわ」
王妃様はオリビアとエリックを見てふわりと微笑んだ。そして立ち上がり、みんなに向かって大きな声で言った。
「うちのメイドが粗相をしてしまってごめんなさいね。この辺で自由時間にしましょうか。
この後は好きに動いていいですよ。庭園の薔薇も見頃なので、是非見ていってくださいね。ふふふ」
それを合図に王太子殿下と王女殿下がまず席を立ち、同じテーブルの者を誘ってお菓子を取りに行ったりと動き出した。
他のテーブルの者も次々と立ち上がり、思い思いに動き出したのだった。