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いよいよ王妃様主催のお茶会当日になった。オリビアは朝から憂鬱で仕方無かった。頭の花も萎れていた。
元気の無い様子に、家族は心配したが
「少し緊張しているだけですわ」
と相変わらずツンと言ってしまった。
「姉上、私がついていますから安心してください!片時もお側を離れません」
「はぁ……エリック、男子と女子で席が離れるので不可能ですわ。そんなことよりも早く自分の支度をしてきなさい。
今日は私が一緒にいられないんですからね、くれぐれも粗相が無いように気を付けなさいよ」
「姉上、心配しなくても大丈夫です。こう見えて世渡り上手なので任せてください!」
“ああ……可愛いのだけど不安しかないわ。本当に大丈夫かしらこの子?確かゲームでは貴族嫌いになってるから、全く他の貴族と交流しようとしないのよね。
は!他の貴族……もしかしなくてもヒロイン以外の主要メンバーが勢揃いじゃないかしら?あ、あ、あ、何と言う事でしょう!それぞれの少年少女時代が見られるなんて!
何とか目立たないようにこっそり全員見られればいいのだけれど……ああ、楽しみだわ“
先程まで枯れ果てていた花が一気に咲き乱れ、いつもの真ん中の花にいたっては何を想像しているのか葉っぱで花を隠してくねくねと動いていた。
「くっくっく、オリビア楽しそうだな。
今日は2人とも粗相が無いように気を付けるんだぞ。わかっていると思うがエリック、お前への風当たりは強いかもしれん。
まぁ王族以外はうちと同等か下しかいないから、何を言われても気にするな」
“楽しそう?もしかして顔に出てたかしら?こんなんじゃダメね!もっと気を引き締めなきゃいけないわ。
やっぱりエリックへの風当たりは強いわよね……お父様もお母様もいないし、守れるのは私だけだわ!心配しなくてもお姉ちゃんが守ってあげるから安心してね!”
オリビアの決意と共に、頭の花も燃え上がった。
オリビアとエリックは馬車に乗ってそうかからずに王城へ到着した。初めての社交にドキドキしながら、エリックのエスコートで馬車を降りた。
ゲームと同じ庭園で、お茶会が開催されるようだ。ゲームの中と同じ景色に、オリビアの頭の花はいちいち反応してピョコピョコと忙しかった。
10歳から学園に入る前の子供達が集められたお茶会には、エリックのように魔力の高い者もいるので、数名があんぐりした顔でオリビアを見ていた。
エリックは自然な様子で見渡し、出来るだけオリビアの花が見えているであろう人物達の顔を覚えていった。
オリビアは貴族令嬢らしく微笑みを張り付けていたが、あの噴水の前でヒロインと王太子が口付けを交わすんだわ!ああ、さすが王妃様主催のお茶会ね、可愛いお菓子がたくさんで迷ってしまうわ!等と浮かれに浮かれてどんどん花を溢れさせているのだった。
「姉上の席はあちらのようですね……まだ時間がありますけどどうしますか?少し噴水でも近くで見てみませんか?」
“噴水!そうね、早かったようでまだ半分位しか来ていないようだし、いいわよね?ふふふ”
「そうね……せっかくだから見てみましょうか。貴方の席はあちらみたいね……王太子殿下と同じテーブルのようだけど大丈夫かしら?粗相の無いように気を付けなさいね」
「はい、心配していただきありがとうございます。姉上は本当、お優しいですね」
”ごふっ!あんなツンツンした言い方をされたのにお礼を言うなんて……どこまで天使なのかしらこの子は!
それにしても偶然なのかエリックのテーブルは攻略対象のほとんどが揃っているなんて……本当に大丈夫かしら?脳筋の騎士はまあ大丈夫として、腹黒の宰相子息が心配だわ。
あとはやっぱり王太子殿下よね。ゲームの中ではザ・王子様だったけど、現実では分からないわよね……
はぁ、それにしてもこの噴水……そう、まさにこの場所でヒロインと殿下が……きゃー!“
どんどん溢れてくる花に、いつしか噴水は埋め尽くされていた。
「姉上、そろそろ席へ行きましょうか?」
「ええ、そうね……」
“6年後、ここでキスする2人を目撃する予定なのよね……ああ、あのシーンは大好きだから是非とも見たいけど、婚約者にはならない予定だから実際に見るのは無理ね……
学園や王都デートの各シーンは見れるかしら?日時がわかれば簡単なんだけどな。
はっ!あれは腹黒宰相息子ルートの悪役令嬢ヴィクトリア王女殿下だわ!やっぱりゲームと同じで金髪縦巻きロールなのね!正面の席だなんて……目の保養だわ!
しかもその後ろにはエリック達のテーブルが……ああ、誰が席を考えたか知りませんが、貴方は神ですか?
ただ正面を向いて座っているだけで、ゲームの中の美少女に美少年達が拝めるなんて……生きててよかった!”
「皆様、お集まりいただきありがとう。今日はゆっくり楽しんでいってくださいね」
主催者である王妃様が朗らかに開始の挨拶をした。それを合図にメイド達がいっせいに給仕を始める。
“王妃様……初めて生で見たけど何とお美しい!女神だわ!神々しすぎる……心の中で拝んどこう”
もちろん、頭上の花はばっちり王妃様に向かって手を合わせた。と同時にぶほっ!と数人がせき込んだ気がするが気のせいだろう。