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「はじめまして、グレースです。公爵令嬢様にお目にかかれるなんて、光栄ですわ」
グレースは、大迫力の……美女?だった。
「その、私はご存じの通り平民です。それでもデザインに自信があります!デザイン画だけでも描かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え?ああ、そうでしたわね!高位貴族の方は貴族のデザイナーのドレスしか着ないんでしたね……うっかりしていて申し訳ありませんでした」
エリックの母親が申し訳なさそうに双方に頭を下げた。
「いえ、お気になさらないでください。私個人としては貴族でも平民でも、私の気に入るドレスをデザインしてくれるなら、身分は関係無いと思っています。
父も母も私の意見を尊重してくれますので、よかったらデザイン画を描いていただけますか?出来るだけシンプルで地味で目立たない感じでお願いしたいのですが……」
そう、オリビアは記憶を取り戻してからは身分制度がバカらしく思えているのだ。
貴族のデザイナーなんて特に自分の意見を押し付けるだけの高慢でオリビアの1番嫌いな人種だった。
「そうですね……地味にと言うことでしたら、色は紺や茶でしょうが、目立たなくと言うことでしたら水色……いえ、すみれ色がお似合いになるかと。
上半身は同色のレース生地を重ねて、所々濃い色の小花の刺繍を入れても良さそうですね。
スカートのボリュームは控え目にして、刺繍と同じ色の太過ぎず……このくらいの幅のウエストリボンを中心より左寄りで緩く結んで、公爵家ですのでシンプル過ぎてもよろしくないので結び目に宝石で出来た花のブローチを付けてみたらどうでしょうか?
本当でしたら生花もおすすめなんですけどね……まぁ、お茶会の後に着るときは生花でもいいですしね。こんな感じでどうでしょうか?」
さらさらと描かれたデザイン画は、理想の上を行く素晴らしいものだった。一目で気に入ったオリビアは、デザイン画を預かって両親に相談することにした。
公爵夫人もデザイン画を気に入り、平民デザイナーでも関係無いわと言って、契約することが決定した。
ドレス部門は始動寸前だったらしく、お針子さん達に生地などは揃っていて、公爵家にいくつか良さげな生地を持ってきて貰ってすぐに製作に取り掛かることが出来た。
お茶会の2週間前には無事ドレスも完成し、デザイン画以上の仕上がりに大満足だった。
公爵夫人も大変気に入り、自分のドレスを数着とオリビアの茶会用のドレスも数着オーダーすることとなった。
ドレスに合わせるアクセサリーは、元公爵夫人の物がアンティークな感じでいい感じにマッチしたので、それを使うことにした。
ゲームの中では真っ赤で派手なドレスをいつも着ていたので、正反対の清楚ですみれ色のドレスをオリビアはとても気に入った。
あとは目立たないように大人しくしていれば大丈夫だろう。
「姉上、とてもお綺麗です!まるで花の妖精のようですね」
「エリック、見え透いたお世辞は逆に嫌味に思われますよ。お世辞を言う暇があったら、マナーの復習でもしなさい。
貴方が失敗すれば、やっぱり公爵家では婚外子をきちんと躾けずいじめているんだ等と言われかねませんからね。
公爵家の恥にならないよう、しっかりお願いね」
“ひゅーころころころ~。ああ、また木枯らしが吹いてしまった。どうして素直にありがとうと言えないのかしら……でも花の妖精だなんて見え透いたお世辞を言うエリックだって悪いわよね!
ゲームの中で、氷の女王と呼ばれていた私が花の妖精なはず無いじゃないの。このお父様やエリックと同じ真っ直ぐな銀髪に、お母様譲りのアイスブルーの瞳の何処が花だと言うのかしら?”
「お世辞ではなく姉上が美しいと言うのは本当なのですが……姉上の恥にならないように、しっかり頑張りますね!」
“はう……笑顔が眩しい!と言うかヤンデレどこ行ったヤンデレ?トラウマは?こんなにシスコンわんこキャラに変化してしまって、大丈夫なのかしら?
どこをどう間違えたのかしら?こんなシスコンになってしまって恥ずかしいわ”
と思いながらも、オリビアの頭の花は犬の尻尾のごとくフリフリ揺れて喜びを隠しきれないのだった。
もちろん、ツンツンしたことを言いながらも可愛く揺れる頭の花に、エリックはますますめろめろになるのだった。