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その日、帰ってすぐに公爵夫人に従弟だと言う事実を教えると、裏切られていたわけでは無かったと聞いて嬉しかったのか
「そう……私たち家族にまで秘密にするなんて……本当不器用な人ね」
等と冷たく言っていたが、ツンと横向いた時に見えた耳が赤くて、オリビアは我が母親ながら可愛いと思ってしまった。
それから1年後……なんと公爵家に10年ぶりに女の子が誕生した。ルーナと名付けられた妹は、母に似て綺麗なストロベリーブロンドに父譲りの赤い瞳で、とても愛らしい赤ちゃんだった。
妹の誕生をとても喜んだオリビアだったが、ゲームではエリックと2人姉弟の設定だったので、疑問と共に不安でもあった。
だが、設定の中に亡くなった妹がいると言う事は無かったので、きっとゲームのようにエリックを苛めたりしていないことで設定が変わったのだなと思うことにした。
可愛らしい妹の誕生は、公爵家に更なる光を灯し、以前の殺伐とした雰囲気が嘘のように、明るい家庭になった。
そんな中、オリビアだけが淑女らしく表情も少なく、口から出る毒舌に、ルーナのために新しく雇った使用人達の評判はあまりよろしくないものとなってしまった。
だが家族は別で、相変わらず公爵はオリビアにデレデレで、エリックも完全なるシスコンへと育っていた。
公爵夫人も魔力が高く無いので花は見えないが、毒舌だけど母親だからか心の声が目に見えてわかるようで、愛情を持って接していた。
古い使用人達も同じで、ああまた毒を吐いて落ち込んでいる等と微笑ましく見ていた。
10歳になり、オリビアとエリックは王妃様主催のお茶会に招待された。
王族の方々の将来の側近や婚約者等を探すのが目的だ。オリビアは何とか回避できないかと、記憶を取り戻してからずっと悩んでいたが、結局王妃様主催のお茶会に行かない手など無く、しぶしぶドレスの採寸をしていた。
ゲームの通りなら、このお茶会でオリビアと王太子の婚約が決まるのだ。
こうなったら出来るだけ目立たないようにしようと、ドレスのデザインをデザイナーと一緒に考えることにした。
「とても可憐でお美しいので、ピンクや黄色……赤なんかもお似合いになると思うんですけど、目立ちたくないと言う事ですので紺色辺りでしょうか?」
見え透いたお世辞に作り笑いを浮かべたデザイナーが提案してくる。
「いえ、私達の年齢で紺だと浮いてしまうでしょうね……そうですね、水色だと他のご令嬢に紛れていいかもしれませんね。
デザインはシンプルにお願いします」
おそらく10歳だとピンクや黄色、水色などのパステルカラーが人気だろう。そんな中に紺色だと確実に浮いてしまう。
「水色ですね。お嬢様の瞳の色と合って、とてもお似合いになると思います。ピンクのリボンなど付けるとどうでしょう?
スカートにボリュームを持たせてピンクのリボンを散りばめて……」
「シンプルにって言いましたよね?リボンは却下で、スカートのボリュームは控えめにお願いします。
白いレースくらいなら少し付けてもかまいません」
このデザイナー大丈夫だろうか?地味にって言ってるのを全然聞いていない気がする。
「では、リボンの代わりに宝石を散りばめてみたらどうでしょうか?」
「……ご足労頂いたのに申し訳ありませんが、今回はご縁がなかったと言う事で。玄関までお送りしてちょうだい」
地味でシンプルにって言ってるのに……いくら今1番人気のデザイナーと言っても、彼にドレスを注文するのは不安過ぎる。
やっぱりこのデザインの方が似合うと思ってとか言って派手なドレスが届きそうな気がしてならなかったのだ。
勝手にデザイナーを帰してしまって、きっと両親に怒られると思っていたが、そんなデザイナー帰して当然よ!と一緒に怒ってくれた。
こんな優しい家族を、将来婚約破棄騒動に巻き込むわけには行かない!やっぱりここは婚約しないのが1番だと、しっかり気合いを入れ直したオリビアであった。
その後、新しいデザイナーを探すも中々見つからなかった。目ぼしいデザイナーはみんなオーダーを沢山抱えてとてもじゃないがオリビアのドレスを作る余裕が無く、そうでないデザイナーはクビにされたデザイナーにとんでもなくわがままなお嬢様で振り回されたあげくにクビにされたと聞いていて、引き受けてくれる者がいなかった。
まぁそれなら手持ちのドレスでも……と思ったが、王妃様主催のお茶会に新品以外を着るなんて……と公爵夫人は渋っていた。
そんなある日、気分転換にオリビアはエリックと共に、エリックの本当の母親に会いに来ていた。
彼女の穏やかな雰囲気と王都や貴族相手では無い事に、ついつい口が緩んでしまいオリビアは珍しく愚痴ってしまった。
「まあ、それでしたらいい人がいますわ!こちらのご主人様のお子様なんですけど、今度新しくオーダードレス部門を立ち上げることになって、今準備中なんです!
もしよかったらお会いしてみませんか?」